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突然の来訪

 薄暗い階段を登り、重い鉄の扉を開けた先は——もはや別世界だった。


 赤や黄色といった、私の知る言葉では表せないほどの花々を前に深呼吸。心が洗われる。

 この場所を管理しているのは龍爺……正しくは”龍神官長”という一人の老人だ。

 私にはニコニコと笑って花の世話をする老人にしか見えないのだけれど、フィーナ曰く『あの人は怪物です。怖いです』らしい。

 まぁ、世の中に苦手な人の一人や二人いてもおかしくはないか。

 フィーナの苦手な人が、偶然龍爺だった。それだけのことだ。


 色とりどりの花々を愛でながら、私は庭園中央にある椅子に腰をかける。

 暖かな日差しを全身に浴びながら、私は上半身を伸ばす。

 あれ?もしかして、この瞬間の屋上庭園を見ているのは私だけ?なんか得した気分だ。

 静かな庭園に小鳥の囀りと人工的に造られた清流の流れる音が聞こえてくる。

 普段は怪我人の呻き声と、泣きながら感謝される声しか聞いていないから、こういった感覚は久しぶり。

 本当は毎日癒されたい……でも、最近は怪我人も急患も増えているから、しばらくは無理そうかな。

 あーあ。早く争いが終わればいいの——ん?


「なにあれ……?」

 

 私の目に映ったのは空から落下してくる黒い塊。何あれ?真っ直ぐとこちらに向かってきている。

 叛徒のグリフォンやハーピィでもないし、大きさからして龍でもないだろう。

 どちらかといえば人に近い——いや、本当に人じゃない!?

 

「ど、どうしよう!!何か受け止めるものを探さなくちゃ——!!」


 慌てて周りを見渡すもここは庭園。残念なことに何もない。あるのは綺麗な花だけ。

 私に風魔法が使えたら、あの人と逆の方向に風を巻き起こして威力を相殺できるのに。

 あいにく、私に使えるのは回復魔法と魔法障壁を張ることのみ。他の魔法はからっきし。

 ……賭けるしかない。

 落下する人は速度を上げ、庭園を目指して落下してきている。

 もう迷っている暇はない。私に残ったチャンスはたった一回。


「(落下した瞬間に私が回復させる!体の部分が少しでも残っていれば助けられる!!)」


 錫杖を掲げ、私は周囲に障壁を張り巡らせ、衝撃に備えて姿勢を低くした。


 刹那、尋常ならざる爆発と衝撃。

 花壇の破片が散弾のように飛び散り、凄まじい揺れと一寸先も見えない土煙が視界を覆う。

 次から次へと障壁が残骸に貫かれ、障壁の耐久値を削っていく。流石に無謀すぎた?


「(まだ間に合うはず……私の力なら、まだ助けられる。


 その時、私の視界の隅に一人の影が映った。

 全身はズタボロ。背中には大きな傷。あれは……ツノ?いや、見間違いだろう。

 私は結界を解除。暴風と瓦礫が遠慮なく襲いかかってくるも気にしない。

 頬を血が伝い、吹き飛ばされそうな体をなんとか堪える。

 

「これでも、届けぇぇぇ!!!」


 錫杖の先端を一点に向け、私は過去最大級の翡翠色の光を放出する。

 余波だけで頬の傷を治しながら、光は土煙の中へと吸い込まれていく。

 直後、私は強い手応えを感じた。

 

 「よしっ!!あとは早く障壁を——」


 錫杖が手から滑り落ち、地面に頭から倒れる。

 あ……れ?体に、力が入らない……。

 力を使いすぎた反動だろう。指一本動かせない。これは困った。

 でも、幸いなことに暴風は落ち着いているから、ここでゆっくりフィーナの救助を待つことにしよう。

 あれだけの音が聞こえてないはずないからね。………………頼むよ?

 


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