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とある夏の43日記  作者: 伊藤真奈
26/35

夏休み終了まで、あと十日

2023年8月21日。

小説を一冊読んだ。暇を持てあました手で無造作に机の引き出しをがさごそとあさると、読書感想文用の本が出てきて、そういえばやっていなかったのだとスマホを閉じ、あわてて表紙をめくったのだ。

確か、読書感想文おすすめ本コーナーとかなんとか、そんな感じの名前のスペースから、妙に目を引き付けられたものを借りたはずだ。

ちなみにその数日後、教室からひなんするために図書室に来たついでにそこをのぞいたら、全部なくなっていた。皆無難を選ぶのが好きらしい。せっかくなら好みに突き抜けてもいいものを、いや、普通のレールから外れるのは怖いか、と自分ふくめた生徒に呆れ、納得したが、それがなんだか妙に面白いと思ったことを今、思い出した。なんだ、日記というのはこういうメリットもあったのか。

閑話休題。私が引かれた表紙というのが、その、皆が引かれるような、いわゆるしゅういつであるとか、独特な構図や背景や、雰囲気の表紙であり、それに並ぶほど目を疑うタイトルであるとか、そういうわけではなかった。

ありきたり、と言ってしまえばそれまでの表紙だった。パキパキとした光の付け方?とか、透き通ったような細かい陰であったりとか、そんな「今のトレンド」を押さえたようなだけの表紙だ。タイトルもそれに溶け込むように配置されていて、他の本を手に取ったらいっしゅんで忘れそうだ。

けれど、変なことに、私はなんとなく引かれ、なんとなく借りた。そして、なんとなく読み、どっぷりと浸かった。

読書感想文をまた作る気にはなれないので、ここに直接感想を述べたりみりょくを紹介したりなどはしないが、この小説――いつかまどろみから抜け出せたらという小説について、ただ一つ、たった一つ、いうならば、私は、素敵だ、という一言を送りたい。どこまでもただ、素敵だと。

さて、小説全体のことを書こうと思う。やはり小説はいい。私の世界の嫌いなもの全部がないのだから。現実ほどみにくい人間はいない。自分も存在しない。描かれるのは、楽しめるものだけだ。くだらない日常を書くなら、そういうジャンルとして分かるようになっている。わくわくして、現実を忘れられる鮮やかな物語は、本当に好きだ。だから空想はいい。

もし主人公が私であったら、こんな風にはできないだろうとか、この人は何を言ってるんだろうと思うような、きれいすぎたり、深すぎる言葉に無理解を示す余計な思考がなければ、に限るが。

しかしまあ、少々のノイズが走ろうとも、空想はいい。

私の胸いっぱいに広がるのは、要はここに書きたいものは、結局本への、たゆみなく更新され続ける愛でしかないのだろう。複雑な感情は何もなく、自分を低く見せるみにくい感情ではなく、心地よさと小気味良い疲労と、そのカタルシスに対する、深い深い愛と感謝だ。

余韻が頭に回ってきた。そろそろ寝よう。

空想はいい。

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