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第70話 復活





青空が視界に広がり、背中からはひんやりと冷たさが伝わってくる。

どうやら、地面に倒れ込んでいるらしい。



先程まで悪神様やミミとリリと会っていたのは夢ではなく、現実だと理解しているが、どうにも頭がぼんやりとしている。



体を起こそうにも重くて動かない。




そんな状況の中、私の右手に温かい温もりを感じた。





青空が広がる視界を遮るように、薄い赤色の髪をした綺麗な女性が私の顔を覗き込んできた。





「ま、マルティナ様!!気付かれましたか!?」



女性は私の名を叫ぶと、安堵したように両手を自分の胸元にあてる。


女性の目は赤く充血し、頬には涙が流れた痕があった。




私は重たい体に力を込めると、なんとかその場に上半身を起こした。

体を起こす際、女性が私の背中に手を当て、支えてくれた。





「ありがとうございます。あの、失礼ですが•••」



どこかで会ったことがあるか聞こうとしたところで、女性がミミとリリによく似ていることに気付いた。

白髪でなく、肌も綺麗で張りがあるその女性は、間違いなくマヤさんだと確信した。


ダーナルがこの世から消失したことで、奪われていた時間、寿命が戻ったのだろう。





「もしかして、マヤさんですか?」


「そうです。マルティナ様•••」




マヤさんは泣き出すと、私に抱き着いてきた。




「マルティナ様。私にも聞こえていました。ミミとリリの声が、マルティナ様の声が•••」


「ミミとリリが、マヤさんに感謝していたのも聞こえましたか?」


「はい•••。本当に、ありがとうございました。ミミとリリが、どこかで幸せに暮らしていることが分かって、よかったです。私、本当に•••」





私がダーナルと戦っている時に見たマヤさんの表情は、絶望に溢れ、あのままだったならばミミとリリの後を追ったかもしれない。


それだけの悲壮感が溢れていた。






「それにしても•••」



私はマヤさんに抱き着かれたことで、自分の体の違和感に気づいた。

お腹の厚みにより、抱き着いているマヤさんの手が私の背中で交じわることがないのだ。




そう、私は太っていた。

ダーナルに追い詰められ、死のカウントダウンが始まるほど体重が低下していたはずだ。




「なぜ、私の体は元に戻ったのだ•••」


「もしかして、体型のことですか?」


「そうです。何か知ってるんですか!?」


「マルティナ様が倒れ、ミミとリリの声が聞こえてきた時、急に体が大きくなったんです」


「体が!?」


「その時、マルティナ様の口は何かを食べているように動いてました」


「そうか、ミミとリリだ!!」





『お兄ちゃん』と呼ばれたあの時、ミミとリリにお菓子を口に放り込まれた。

悪神様と会ったあの空間では時間が止まっていて、ミミとリリがくれたお菓子によって体重が元に戻ったのだ。






「お兄ちゃんが助けられちゃったな。ミミ、リリ、ありがとう」



「あの、マルティナ様。ミミとリリの声は聞こえていたのですが、最後だけ聞き取れなかったんです。2人は、最後に何を伝えてくれたのでしょうか?」



「えっと、それはですね•••」




ミミとリリが最後に私に耳打ちした言葉。

言いづらい内容ではあるが、2人が託した言葉なのだから伝えなければならない。


私は覚悟を決め、マヤさんを真っ直ぐ見つめる。




「ミミとリリの言葉。伝えますよ」


「はい•••」



「若い男を捕まえて、幸せになって。これが2人の言葉です」



「えっ??」




マヤさんは少し驚いてからその場で笑い出すと、同時に涙を流した。

母親のこれからを案じ、2人なりに考えた言葉なのだろう。




「ミミとリリときたら、仕方ないですね•••。ただ、2人の最後の言葉なら、わたしも頑張らないと」



マヤさんは笑って、そして泣きながら私の腕に自分の腕を絡ませてくる。




「んっ??」


「28歳の未亡人では、駄目でしょうか?」




マヤさんは上目遣いでこちらを見てくる。

若い男と言ったが、それは私のことだったのか?






「あぁぁぁぁぁーーーーー!!また、浮気してるーーーー!!」




突如、目の前に幼馴染のミーナが現れ、こちらに駆け寄ってくると私とマヤさんを引き剥がした。




「やはりたくさんの恋敵がいるのですね。ですが、ミミとリリのためにも負ける訳にはいきません」


「ちょっと、おばさん何やってんのよー」


「おばさん!?少し前までおしめしていた子が随分生意気ですね」




マヤさんとミーナは私を弾き飛ばすと、2人の世界に入り込んでいる。






「やれやれ、マルティナも隅に置けんのじゃ」


「本当ですね。ですが、無事だったようでよかったです」




マリアとヒミリナがゆっくりと近寄りながら、幼気な子を見るような目で見てきた。


どうやらミーナはマリアの『転生結晶』で来たらしい。





「マリア、ヒミリナ、リリーナ村は!?魔物は!?」


「案ずるでないわ。魔王2人が現れた瞬間、漏らしながら方向転換しおったわい」


「我々の気配や匂いも当分残るでしょうし、人間国でもっとも安全な村になったのではないでしょうか」





淡々と話すマリアとヒミリナだが、これ以上触れてはいけない、そう本能が呼び掛けるほどの恐ろしい笑顔を纏ってた。


見せしめに大量の魔物が葬られたのは、容易に想像がついた。








その日、スタッド村の村人が元の姿に戻ったことを祝して、お祭りが行われた。



お祭りの間、村人は終始笑顔に溢れていたが、ミミとリリ用に設けられた豪華な席を訪れる度、涙を流し、2人のこれからの幸せを願っていた。







その光景を見ながら、ミミとリリが生まれ、育ち、そして生涯を遂げたこの村を、これからも守っていくことを誓った。





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