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第47話 ティエル、サングラニトへ







▷▷▷▷ティエル◁◁◁◁






ティーレマンス王国の第三王女であり、勇者パーティーのメンバー、ティエル•ミル•ティーレマンス。




私は人相書の人物の正体を探るため、何かしらの陰謀を企てていると思われるサングラニト王国に向かっていた。


旅立ってから5日目、順調に行けば今日、サングラニト王国に着く予定だ。



豪奢な馬車の中には、私と終始不機嫌な回復魔法使いのルイフォが乗っている。


何を話しても反応が薄く、まともに返事すらしないルイフォに苛立ちを覚えるが、回復魔法使いは希少であり、道中の保険として連れて行くしかなかった。



ルイフォとの空間に息が詰まり、私は窓から馬車の外を眺めていた。


馬車の外には、我が国の騎士100名が前後左右を取り囲むように馬を走らせている。



そんな騎士達を眺めていると、出発前のある出来事を思い出し、怒りが蘇る。





私はサングラニト王国へ向かう道中の護衛として、冒険者を雇おうと直接冒険者ギルドを訪れた。


対応したのはギルドマスターのナナイロ。




「Cランク冒険者の斡旋ができないですって!?」


「はい」


「ナナイロ、あなた私がこの国の王女であることを忘れた訳ではないわよね!?」


「もちろんです。ティエル王女様」




ナナイロは嫌味だと分からせるかのように態と満面の笑みを浮かべる。




「だったらなぜ、斡旋できないの!?」


「とある依頼により、30組のCランク冒険者、総勢170名が亡くなったためです。これにより、1,026人いたCランク冒険者は856人まで減りました」


「ぐっ•••」



ナナイロは王女である私を冷血な目で睨み、淡々と事実のみを話してきた。




「まだ、856人もいるなら問題ないでしょ!!」


「この856人という数値は、人間国全ての数となっています」


「しかし、ティーレマンスは•••」


「確かに、ティーレマンスやサングラニト、アルメリアのような魔王国に隣接している国は高額な依頼が豊富ですから、拠点としている冒険者は多いです。それでも、減り過ぎです」




ナナイロは私を睨んだまま、引き出しから数枚の依頼書を取り出した。

依頼書はビックウルフ(C)、イビルジラフ(C)の討伐など、全てCランクの依頼だった。



「街の安全を確保するには、数の多いCランクの魔物を日常的に討伐することが重要なのです。今現在、この依頼すら達成が遅れているんです」


「く•••」


「冒険者の不足分として、王国の騎士を貸していただけると助かるのですが•••」


「できる訳ないでしょ!!もういい、頼まないわ!!」



私はそう言って冒険者ギルドを後にした。





王国の騎士は、領内の主要な街や人物を守るのが第一であり、魔物討伐は基本、冒険者の主戦場だ。


勇者パーティーのお供として借り出したことはあったが、王女の一存では限界がある。


そもそも、騎士だからといって、全てのものが実力者という訳ではない。

冒険者の基準で表すと、Cランク相当の実力を有するものは多くないと思われる。



実力者揃いならば、冒険者にこの私の護衛など頼む訳がないのだ。



だが、普通に考えれば、Cランクに満たないのが当たり前なのかもしれない。


魔物ではないただの熊にですら、普通、人間は勝てないのだから。

人間でCランクの魔物が討伐できる域にある者は、並外れた実力者と言えるだろう。







「だとしても、あのナナイロ!!王女の私にあのような態度を•••」



ルイフォがいることも忘れ、苛立ちのあまり声を発していた。

ルイフォはこちらを横目で見ながら笑いを堪えている。




「ルイフォ!!あなたも勇者パーティーなのだから少しは危惧なさい!!」


「勇者パーティーと言っても、勇者、いないですけどね•••」



的確な言い返しに、私は苛立つが追撃の言葉が出てこない。

元々、ルイフォは、勇者パーティーでは大人しい性格をしていたのだが、マルティナが脱退してから感情を明確に現すようになった。



それがまた腹立たしくもあり、私としても早く代わりの回復魔法使いを雇いたい。





サングラニト王国の冒険者ギルドに寄ってみるのもいいかもしれないわね。













▷▷▷▷クロエ◁◁◁◁







サングラニト王国の第一王女、クロエ•リル•サングラニト。




私は今、地味な薄黄色のワンピースを着て、深々と帽子を被り、お忍びで冒険者ギルドに来ている。


外には民に扮した護衛の騎士がいるが、ギルドマスターのセリア以外には、第一王女であることは悟られていないはずだ。




「うまくお忍びで来れたわ」


「そうかしら?少なくとも、受付嬢のミナは気づいてたわよ」


「嘘よね!?ここまでしたのに•••」




コンコンッ



扉がノックされると、タイミングが良いのか悪いのか、受付嬢のミナがギルドマスター室まで紅茶を運んで来てくれた。




「それではクロエ王女様、ごゆっくりお過ごし下さい」



ミナは紅茶を置くと、深々と頭を下げて部屋から出て行った。

民に扮してきた甲斐なく、本当に王女と見透かされていた。




「それで、今日はどうしたの?王国信頼度調査の結果、だけではないような気がするけど」


「そうね、単刀直入に言うわ。マルティナ様がどこにいるか知りたいの」




セリアは右眉を微かに動かすと、ミナが持ってきた紅茶を啜った。


セリアとは、私が勇者パーティーを補佐するようになり、冒険者の斡旋や情報収集を直接行なっていたことで親交が深まった。



親交が深まった分、セリアの性格も分かっているつもりだし、これから発する言葉も容易に想像がつく。




「ごめんなさい、クロエ。いくらあなたの為でも、冒険者ギルドには守秘義務があるから教えられないわ」


「そう言うと思ったわ。ただ、知りたいことは聞けたわ」


「えっ?」




先日、妹のミーシアがセリアを呼び出した際、セリアは人相書に書かれていた痩せていた人物をマルティナ様だと答えた。


それに加えて、ミーシアから人相書の人物とマルティナ様は別人だと言われ、セリアはこう返した。



「見たことないのですね」と。



それは、マルティナ様の体重が変化することを知っていることになる。

私のように助けられた際にその姿を見るか、痩せて帰ってきた際に見るか、痩せているマルティナ様を見る方法は簡単に考えるとこの二つしかない。



マルティナ様は、【パンドラ】の検索にはなぜか該当しなかったが、やはり冒険者として活動していた。


セリアの発言からそれが分かったのだ。




「マルティナ様は、やはり冒険者だったのですね」


「パンドラの権限を持っているクロエになら話しても問題ないでしょう。ええ、そうよ。マルティナ様は冒険者として活動しているわ」


「やはり•••」


「けど、居場所は教えられないわよ。それにしても、マルティナのアドレス知らないの?」


「えっ!?ま、マルティナ様の、あ、あ、アドレス!!」




あの言い回しからすると、セリアはマルティナ様の伝鳥のアドレスを知っているのだろう。


私は勇者パーティーの補佐としてあれだけ接する機会があったというのに、アドレスをしりない。




「だって、恥ずかしくて聞けなかったんだもの」


「あらあら、だから居場所も分からないのね」


「ぷぅ〜」





コンコンッ



その時、再び扉がノックされ、ミナの声が聞こえた。





「ティーレマンス王国のティエル王女がお見えです」





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