第42話 滅国のはじまり
▷▷▷▷ゲリット◁◁◁◁
僕はサレスイヴァン王国の第一王子、ゲリット•ウル•サレスイヴァン。
先程、潜り込ませていたダーナから2回目の毒見が終わり、料理と酒に毒の混入が完了したと連絡があった。
副騎士団長のモレスからも、料理人25名に遺書を書かせた上で殺害が完了したと、たった今報告があり作戦は全て順調だった。
くくく
あと少しで、あの女は私のものだ。
それから2時間後、国王である父、ティム•ウル•サレスイヴァンと、王妃である母、レイテ•ウル•サレスイヴァンと合流した。
「まあまあ、ゲリットちゃん。随分と草臥れているようだけれど大丈夫なの?」
「はい、お母様。魔物調査を行なっていたもので、この様な薄汚れた格好で出迎えることになってしまい、申し訳ありません」
「いいのよ、ゲリットちゃん。とっても立派よ。ねぇ、あなた?」
「ああ。我が息子として誇らしいぞ」
母は僕を抱きしめ、父は僕の頭に手を置き、熱い眼差しを寄せてきた。
基本的に両親は僕に甘く、今回のアルメリアへの支援の申し入れを打診すると、即座に了承された。
ミリアムを妻として迎えることも理解を得ている。
ただ、父と母は今回の作戦を知らない。
婚姻を打診したいとだけ話している。
これから毒殺が実行されれば、父と母は婚姻を認めた話を白紙に戻すだろう。
それが普通の反応だ。
毒殺を仕掛けてきた国の女との婚姻を認めるはずがない。
だが、父と母は僕に甘い。
僕が熱くミリアムの無実と料理人の単独計画のことを話せば問題ないはずだ。
こんな回りくどい方法を取らなければならない程、ミリアムという女の貞操は固いのだ。
僕に限らず、他の上位国からの婚姻話も全て断っている。
そういう女ほど、落とし甲斐があり、落とした時の満足度はひとしおというものだ。
さあ、ミリアム。
今、僕が行くよ。
身なりを整え、アルメリアの王城に着くと、ミリアムと第一王子であるフェルナンドが僕達を出迎えた。
「ようこそ、おいで下さいました」
「ミリアム、今日も美しいね」
「恐れ入ります」
いつもながらの素っ気なさでミリアムは僕の挨拶を受け流す。
しかし、今日はそんな態度すら気にならない。
「庭園にて、歓迎パーティーの準備が整っています。ご案内いたします」
「それは楽しだ。なあ、レイテ」
「そうですね、あなた」
ミリアムとフェルナンドを先頭に、父と母、僕の順番で歩く。
父と母の後ろには護衛として騎士団長のマニッシュ、それと執事のヨグル、僕の直ぐ後ろには副騎士団長のモレスもいる。
父と母の間から見えるミリアムの後ろ姿。
本当に美しい。
早くこの手で弄りたいものだ。
少し歩くと、王城内の庭園に辿り着いた。
庭園には緑が溢れ、花が美しく咲き、人間国では珍しく、中央には噴水があった。
どの位置からも噴水が楽しめるようにテーブルが設置され、立食用の料理も綺麗に配置されている。
僕は何気なく銀食器に入った料理を覗きこんだ。
そこには見たことない料理が並び、なんとも食欲を誘う匂いが漂っていた。
「では、フェルナンド様。失礼ながらパーティー開催前に毒味をさせていただきたいのですが」
「もちろんです。どうぞ、毒見役をお連れして下さい」
「ご理解、感謝いたします」
執事のヨグルがフェルナンドに了解を得ると、毒見役の男を2人呼んだ。
「失礼します」
毒見役の2人は銀食器から取り皿に料理を移すと、匂いを嗅いでから口に運ぶ。
刹那、毒見役の2人の表情が変わった。
「う、うまい!!」
「な、何といううまさ!!」
「「ハッ、申し訳ありません」」
「いいえ。料理を誉めていただき、嬉しいですわ」
毒見役が仕事を忘れ、料理を讃えたことをミリアムは素直に喜んでいる。
そのミリアムの嬉々とした反応は、今まで一度も僕に見せたことがないもので、苛立ち覚えた。
それに、なぜ毒見役は死なないのだ。
僕は無意識に拳を強く握る。
「では、次はお酒をお試し下さい」
「お、恐れ入ります」
ミリアムは見たことのない酒瓶からグラスに酌をすると、毒見役は躊躇わずに飲み干す。
「「う、うますぎる!!」」
「ふふふ、よかったですわ。作った方もきっとお喜びになります」
僕は毒見役が生きていることに驚きを隠せず、目を見開く。
なぜだ
なぜ、死なない
「モレス。こうなれば、直接やれ」
「畏まりました」
毒見役の2人が料理台から離れ、父と母がミリアムとフェルナンドから料理を受け取る瞬間、モレスは気づかれないよう毒見役の2人に毒針を突き刺した。
みるみると毒見役2人の顔が真っ青になり、苦悶の表情で首元を掻きむしりながら動き回り、料理台に打つかって倒れた。
「こ、これは一体!?」
「あ、あなた、まさか毒?」
父と母は慌てて受け取った料理を投げ捨てる。
騎士団長のマニッシュが素早く、父と母を庇う体制で剣を抜く。
「なんてことを•••。料理に毒を入れたのか!?」
「いいえ。私達は入れてませんわ」
「ああ。入れてないな」
マニッシュの問いかけに、ミリアムとフェルナンドは顔色一つ変えずに答える。
その反応に訝しむが、僕は構わずにモレスに合図する。
「毒を入れるとはどういう了見だ!!」
モレスは剣を抜きながら前に出ると、料理台にあった料理を投げ捨て、酒瓶を剣で割った。
地面に投げ捨てられた料理を踏み潰しながら、モレスはバレないよう毒を撒き散らす。
「まっ、待ってくれ!!な、何かの間違いだ!!」
毒の散布が終わったタイミングで、僕は剣を抜いているマニッシュとモレスの前に立ちはだかる。
ミリアムを守るように間に立ち、横目でミリアムの表情を確認する。
どうだ、ミリアム
僕の颯爽とした登場に心を奪われたであろう
さあ、僕に助けを乞え
跪け
だが、ミリアムの目は一切僕を見ておらず、逆方向にあった。
しかも、ミリアムの顔は、快楽に溺れているような、狂気に満ちた笑みを浮かべていた。
その顔を見た瞬間、全身に悪寒を感じ、大量の汗が噴き出す。
ギャーーーーーーーー!!
お母様の叫び声が聞こえ、急いで視線をミリアムから移すと、目の前で血飛沫が舞っていた。
ドスッ
鈍い音と共に、モレスの首が目の前に落ちてきた。
「あ、あわわわ•••」
僕はその場に腰を抜かした。
モレスが首を刎ねられ、胴体部分から血飛沫を上げていたのだ。
【覚悟は、できているか?】
「へっ?」
目の前に黒いオーラを纏った男、いや女かもしれない、そんな悪魔のような人間が立っていた。
僕はその禍々しい雰囲気に思わず失禁してまう。
【食物連鎖の最下層になる、覚悟だよ】




