表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

41/82

第41話 前触れ





ミリアムにスタット村での調査報告を行うため、アルメリア王国の首都に到着した私は、王城の門扉である男に出会った。




「マルティナ•プリズム様ですね」


「はい。あなたは?」


「申し訳ありません。今は時間が惜しいため、私について来て下さい」


「は、はあ」



男はそう言うと、門番の騎士に私を通すよう指示を出し、その他にも一言二言小声で話している。

騎士達の反応や、男の身なりから高身分であることは容易に想像がつく。





「さあ、参りましょう」


「はい」



男は王城に向かって早歩きで移動を始めると、王城の入り口である大きな扉には見向きもせず裏側に回った。




「城には入れてくれないんですか?」


「もちろん、入っていただきます。ただ、今は申し訳ありませんが、この扉から入って下さい」




裏側に回って数十秒移動すると、城の側面に小さな扉があり、男はここから入るよう手で指し示してきた。


男から悪意みたいなものは感じられなかったため、小さな扉を開き、巨体を丸めて中に入ると、そこは調理場になっており誰もいなかった。



ただ、調理場の直ぐ外から数人の話し声と、多数の気配を感じる。

それと、料理の匂いに混じって微かに毒の香りを感知した。



私は人より嗅覚が優れており、それが食べ物に関連するとなれば一層研ぎ澄まされる。

例えば、この食べ物には何が入ってるか、香りで感知が可能なのだ。



毒の香りを感知し、無意識に苛立ちを覚えていると、男が扉から入ってきて「間に合ったか」と一言呟いた。




男が入ってきた直ぐ後に、小綺麗なみなりをした女性が廊下に面した扉から調理場に入ってきた。



「くそ、まさか3回目があるとは、直ぐに連絡をしなければ•••、だ、誰だ!!」




こちらに気づいた女性の右手には小瓶が握られており、その色、微かに香る匂いから直ぐに毒だと分かった。






そうか

お前が料理に毒を•••






私は静かに鞘から剣を抜くと、素早く女性の右手を切り落とした。






ギャーーーーーーーー!!






女性は悲鳴を上げながらも、口の中で舌を動かしているのか、頬が微かに膨らんだ。


私は調理場にあるナイフを手に取ると、女性の舌を切り、歯も数本切り落とす。

切り落とした歯からは、恐らく毒が入った小さな筒状の物が出てきた。



これで自害はできない。



出血多量で死なれても困るため、私は女性に止血する程度の回復魔法を使う。






『魔法全適性(使用時は体重消費•中)』

※ヒール

▪️体重:90キロ→ 87キロ(▲3キロ)





更に私は女性の左手を掴み、ある事をしようとした。



その時、誰かが私の手を握る感覚を覚え、無意識のうちに苛立った感情が少し薄れていくのが分かった。


同時に、自身に起きたこの不可解な現象は、何かに怒りを覚え、怒りと同時に何かしらのスキル、もしくは加護が与えられそうになったのだと直感的に感じた。





「マルティナ様」


呼び声と共に、握られていた手が更に強く私の手を包んだ。




「ミリアムか」


「はい、あなたのミリアムです」


「少し分からないが、料理はまだ客に出してはないな?」


「はい」


「それはよかった。では、こいつに目的を聞くとしようか」




私は目の前で契約書を表示させると、素早く内容を完成させ、女性の左手を無理矢理契約書に触れさせようとする。




「あの、マルティナ様。無理な契約は認められないのではないでしょうか?」


「無理な契約ならな」




私はミリアムに作成した契約書を見せた。








▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎



◇契約内容◇


毒を使った目的、依頼者等、全てを偽りなく話すこと



◇冤罪の場合◇


マルティナ•プリズムは自害し、その財産全てを契約者に引き渡す。



◇偽った場合◇


肉体を切り刻まれたのち、回復魔法及び回復薬を使い、再び肉体を切り刻まれる



▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎▶︎








「これは、犯罪者を前提とした契約だ。もちろん、冤罪の場合は私の全てで償う」



ミリアムは、微かに頬を紅潮させ、潤んだ瞳で私を見てきた。

このミリアムの反応は理解できかねたが、怖がられたり蔑まされるよりはいいのかもしれない。




「さあ、契約だ。偽っても死ねないからな」


「ひー、いなや、いなや」



女性は震え上がり、舌のない口で懸命で「嫌だ」と言っている。

私は構わずに女性の掌をデータ上に浮かんでいる契約書に触れさせ、自身の掌も触れさせた。







《契約、完了しました》


《悪神様の管理の元、いかなる場合でもこの契約書は有効となります。なお、無理に破棄しようとした場合、今回は契約者の身内、友人、知人に死が与えられます》







契約完了のアナウンスが響くと、ミリアムが女性に近づき、何やら耳打ちしている。






「さあ、ダーナ。楽しい時間の始まりよ。私を楽しませてね。ふふふ」






ミリアムと女性の会話は聞こえなかったが、耳打ちされた女性は契約書を結ばれた時よりも顔面蒼白となり、逆らう気力は一切ないように思えた。





「まず、質問しづらいから名前を教えてくれ」


「だーあ」


「ダーナ、と言ってますわ。はぁ、つまらない。何を聞いても素直に話すつもりですわ」




なぜか落胆するミリアムの言う通り、その後、ダーナは全てを偽りなく話した。

舌を切られているため、解読に時間は要したものの、聞きたいことは全て聞けた。




首謀者はサレスイヴァン王国の第一王子、ゲリット•ウル•サレスイヴァンで、目的はミリアムを手に入れること。



サレスイヴァン王国を招いて行う歓迎パーティーで毒入りの料理を出し、相手側の何も知らない毒見役が料理を食べて死に、アルメリア王国に責任を求める。


そこでゲリットがミリアムを庇って恩を着せるという稚拙な計画であった。


なお、アルメリア王国の料理人25名は、毒を入れる際に邪魔なのと、毒を入れた犯人とするため殺害されたらしい。





「最悪な男ですわ。私を手に入れられるのはマルティナ様だけですのに」


「•••」


「妹よ。昨夜会った時とあまりにも性格が変わっているが•••。まあ、とにかく、今はパーティーを予定通り開催して、ゲリットの出方を見るとしよう」


「お兄様、いつからいらしたのですか?」


「初めからだよ•••。城の周辺に妙な動きがあったからね、マルティナ様に来てもらったのさ」




お兄様•••。

と言うことは、予想の範囲であるがこの人はこの国の王子ということか。




「ですが、お兄様。パーティーを開催するにも料理がありませんわ」


「問題は、そこなんだ。ダーナで充分証拠になるとは思うんだが、王族はどんな手を使うか分からないからね、パーティーでゲリットのボロを誘い出したいのだがな」



ミリアムと王子は考え込んでいるが、料理人が1人もいない状況、且つパーティー開催まで時間がないのだから、解決策は出せないだろう。




私、以外は•••





「料理なら、私が用意する」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ