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第35話 命と時間





スタット村を後にし、徒歩のまま数キロ移動した所で『亜空間収納』から『家』を出した。


ミミとリリには泊まって行ってと言われたが、匂い対策のため、私はどうしてもお風呂に入らなければならないのだ。


仮にお風呂に入らず翌日を迎えた場合、あんなにも純粋無垢なミミとリリに酷いことを言われ、嫌われてしまう可能性だってある。




そんな悲しいことを考えながら『家』に入ろうとした時、背中に気配を感じた。

先程までは絶対になかった誰かがいる、しかも強者の気配を•••。



私は背中から刺される前に瞬時に振り返った。




「マルティナよ、久しぶりじゃな」

「マルティナ、酒はできたのかい!?」




振り返った先には、魔王のマリアと、マリアの右足にしがみついているマナツ、右手に掴まっているマーミラ、左手に掴まっているマクロスの姿があった。




「どうやって来たんだ!?」


「転移結晶に決まっておろう」


「転移結晶って、体重制限とかないのか?」


「体重制限?面白いことを申すな。四肢に掴まっていれば体重に関係なく転移できるわい」




マリアから『転移結晶』の性能を聞き、前回1人で使ってしまったのは勿体なかったのではないだろうか、と感じてしまった。

とは言え、あの時は一緒に転移する人もいなかったから仕方がないが•••。




「して、前回訪れた時と場所が違うのじゃが、これもマルティナの家かの?」


「そうだよ。あの時と同じ家だ。持ち歩いているから、いつもここにある訳じゃないけど」


「ほう〜、持ち歩きとはの。それで、招待してくれんのか?」


「招待しなくても、ここまで来てるんだから中に入るんだろう?」


「話が早くて助かるわい」




私が『家』の扉を開けると、マリア達が中に入って行き、順番に驚きの声が上がる。



「前回は見なかったが、これは何じゃ?」


「でっかい箱があるぜ!!」


「こ、これは、もしやトイレか?」


「この筒から水が出るぞ!!」



この『家』に私が初めて入った時と同じ反応をしていて少し笑ってしまった。


私は4人に『冷蔵庫』『コンロ』『お風呂』『トイレ』等の使い方を教え、どうせ泊まっていくんだろうと、2階の個室も案内し、部屋割りもした。

個室は私の寝室をいれて4部屋しかないため、マナツに部屋を譲った。





『家』の中の案内を終えると、交代でお風呂に入ることにした。

魔王国は水が豊富だが、湯船に浸かるという風習はないそうで、浴槽に溜まったお湯を見て入るのを躊躇っていた。



最初だけね。




湯船に浸かってしまえば、人間だろうと魔族だろうと、あの疲れがお湯に流れ出て行く感覚を味わい、一瞬で虜になるのだ。




全員がお風呂に入り終わると、夕食の準備をする。




作り置きしておいた『豚の角煮』『トンカツ』『豚の生姜焼き』を『亜空間収納』から出し、冷蔵庫に冷やしていた『日本酒』も用意する。




「おお、これが新たな日本酒じゃな」


「早く飲もうぜ」



マリアとマナツは待ちきれない様子で、グラスを持つ手が口元に行っている。

一応、『乾杯』を待ってくれているらしい。



「私もまだ飲んでないんだが、乾杯するか」


「「「「かんぱーーい!!」」」」



5人同時に日本酒を口にすると、みんなの顔が綻び、涙を浮かべ始める。




「「「「「うまーーーーー!!」」」」」




初めて飲んだ『当方美人』よりも味が澄んでおり、深みのある甘さに、後味に米の芳醇な香りが一気に広がった。



次は料理だが、食べた瞬間、4人は先程瞳に浮かべた涙を零した。

感動するほど美味しかったらしく、直ぐにテーブルに並べた分を平らげてしまい、お代わりを用意した。





「マルティナよ、妾は幸せじゃ」


「そこまで喜んでくれたなら、作った甲斐があったよ」


「ふむ。日本酒ができていなかった時はどうしてくれようと考えおったのじゃが、杞憂であったな」


「う、うん」



本当に作っておいてよかったと、心から思った。

それから1時間ほど日本酒と料理を堪能すると、マリアからスタット村の話をしてきた。





「あの村、妾も秘密裏に覗いてきたが、魔王国のフォーラ村と同じことが起こっておるな」


「•••、やっぱり関連があるのか•••」



マリアの話に驚きはしたが、予想していた通りの展開に納得してしまった。




「マルティナと出会った日、妾はフォーラ村に調査に行っておったのだが、同じように右手人差し指の消失、老化現象が起こっておった」




マリアはそう言うと、2枚の紙をテーブルの上に出してきた。


私がその紙を見ると、そこには魔族と思われる人の人差し指の消失部分、顔の皺、髪が生えていた者はやはり白髪になった部分が鮮明に描かれている。


正直、現象そのものより、この紙に驚いてしまった。




「この紙は何なんだ?どうしてこんなに鮮明に描かれているんだ?」


「そうであったな。人間国は文明が遅れておるのであったの。マナツ、説明をしてやるのじゃ」


「ほいさ。こいつは念写さ。この念写機で撮影した物だぜ」



マナツは鞄の中から30センチ程の念写機と言われる機械を取り出した。

念写機には筒上のものがあり、その先には丸いガラスが嵌められていた。

この部分で被写体を映し出すのだそうだ。




「人間は寿命が短いからの、魔族とは発展スピードが根本的に違うのだ。資源もこちらの方が豊富じゃしの」


「それにしもこの念写機すごいな!!」


「妾からすれば、この『家』の方がすごいがな」



マリアは笑いながら話すと、懐からもう一枚の念写を見せて来た。

そこには普通の魔族が写っている。



「そこに写っている魔族、何歳だと思うかの?」


「えっ?魔族のことはよく分からないけど、20歳位かな?」


「1,500歳じゃ」


「はっ!!1,500歳!?」



念写に写っている魔族の姿はどう見ても20歳位なのだが、魔族は歳を取らないのだろうか。




「魔族は寿命が長いんじゃが、見た目は成人してからは変わらんのだ」



マリアはそこまで話すと、真剣な顔つきになり、グラスに入った日本酒をグイッと飲み干した。



「なのにじゃ、フォーラ村の連中は皆老化した。これは、何者かに急激に命、もしくは時間を吸われたとしか考えられんのじゃ」




マリアの、命、時間を吸われたという言葉に、私の体は無意識に震えていた。





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