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第34話 失われたもの




スタット村の入り口に現れた2人を見て息を呑んだ。




2人は女性だが、子供なのか、大人なのか、老人なのか、それすら見た目からは判断出来なかった。


髪は白くて潤いが無く、肌には皺があり、普通に考えれば老婆だろう。



だが、2人の身長は130センチ程で、手を繋いで私を見ている。

今にも「お兄ちゃん誰?」と話してきそうな雰囲気を醸し出しているが、元々身長が低い老婆の可能性もある。





「ママー、誰か来たー」

「大きなお兄ちゃんがいるよー」


2人の女性、いや、女の子がそう言うと、村の奥から1人の見た目が老婆の女性が歩いてきた。



「ミミ、リリ、入口は危ないって言ったでしょう」


「うん。ごめんなさい」

「けどね、このお兄ちゃんがいたから」



奥から来た老婆は身長160センチ程あり、会話から判断するに2人の母親なのだろう。




「あの、何かご用ですか?」


母親らしい女性は明らかに警戒をしており、表情は怯えている。




「私はマルティナ•プリズムと申します。アルメリア王国の第一王女に頼まれて村の調査に来ました」


私は懐からミリアムに貰った書状を出し、女性に渡した。



「こ、これは!!」



女性は顔を真っ青にし、その場で土下座を始めた。



「も、申し訳ありません!!失礼な態度を取ってしまい、どうかお許し下さい」


「だ、大丈夫ですから!!私は王族ではないですし、調査を請け負った冒険者です」


「本当ですか?」


「本当です」



女性は安堵の表情を浮かべてから立ち上がると、村の中に招き入れてくれた。




「お兄ちゃん、こっちー」

「私もー」


ミミ、リリと呼ばれていた女の子が私の手を取って歩き出す。



右手で手を繋いできたミミの人差し指は無く、何気なくリリと母親の手も見たが人差し指はなかった。


見た目にばかり気を取られていたが、前情報通りのようだ。



それにしても、子供はこんなデブな私でも気にせず手を取ってくれて、なんて純粋無垢なんだろうか。


見た目は老婆だけど、このまま純粋な大人に成長して欲しいと切に思った。





案内されて村の中に入ると、30程の家屋がある小さな村で、魔王国から流れてきた水が溜まった湖が村の外れにあった。


すれ違う人は皆、身長が大小様々な老人で、身長が高い老人、恐らく元は若い成人男女であっただろう人は俯き、今起こっている現実に絶望しているような、沈んだ表情をしている。





「こちらが村長の家です」


簡素な木造の家の前まで来ると、女性はそう言った。



「よければ、一緒に話を聞かせてもらえませんか?」


「私がですか?」


「はい。ミミちゃんとリリちゃんも。美味しいお菓子があるので、食べながら是非」



ミミとリリは老婆であるものの、愛くるしい笑顔を浮かべて喜んでいる。




「マヤ、入ってきなさい。ミミもリリも一緒に」


家の中から男性の声がすると、ミミとリリの母親、マヤが返事をしてから中に入った。



家の中は10畳1間で、同じ部屋に簡易な台所とベッドが置かれ、中央の4人掛けのテーブルに1人の老人が座っていた。


その老人にマヤがミリアムから預かった書状を見せると、少し表情が強張ったが、マヤから話を聞く内に安堵に変わった。



「どうぞ、お座り下さい」


「ありがとうございます」


「ミミはここー!!」

「ずるい!!リリもー!!」



椅子が4脚に対し、人が5人いるため、ミミが私の膝の上に座り、リリも真似して座ってきた。


2人共膝の上に乗ってしまい、マヤは慌てて止めようとしたが、私は「構いません」と言ってマヤを止めた。




「では、お茶を•••」

「お茶は私が」


村長がその場に立とうとしたため、私は手で静止しながらそう言うと、『亜空間収納』から紅茶とカップを5つ、シュークリームを5個取り出した。



「おおー、なんと素晴らしい能力じゃ。流石は都会のお方じゃ」


「「すごーい!!手品みたーい!!」」


「本当に凄いわ」



4人が『亜空間収納』に驚きながら拍手をして来た。

私は頭を掻きながら照れてしまう。



「さあ、それよりシュークリームをどうぞ」


「しゅくりむ?」

「ちゅくりーむだよ」


「都会のお菓子かの?」

「美味しそうだわ」



4人がシュークリームを一口食べると、目を見開き、しばらく時が止まった。



そして、




「おいちーーーー!!」

「あまあまーーー!!」

「う、美味い!!」

「美味しいーーー!!」




一斉に叫んだ。




ミミとリリはシュークリームを一心不乱で一気に食べてしまった。

口の周りにクリームがついているため、優しくハンカチで拭ってあげる。


村長とマヤもあっという間に平らげ、紅茶を飲みながら余韻に慕っている。




「実に美味かった。これは都会のお菓子なのかの?」


「いえ、何というか、私が作りました」


「なんと!!」


「「すっごーーい!!」」


「負けたわ•••」



4人は思い思いの反応見せ、それから少しの間シュークリームに関する質問攻めに合った。


質問が終わると、いよいよ本題に入る。




「書状にもあったと思いますが、私がここに来たのはスタット村で起こった現象についてです」


「そうでしたの。しかし、あまりお話しできることはないかもしれん」


「それでも、お願いします」


「分かりました。あれは、数週間前の夜でした。皆が寝静まっていると、激しい頭痛で目を覚まし、その時には既にこのような状態じゃった」



村長さんは右手の人差し指部分を見せ、白くなった髪を触った。




「あの、手の痛みではなく、頭痛だったんですか?」


「そうじゃ。頭痛で目を覚ました。手の痛みは一切なかったのじゃ」


「マヤさんもですか?」


「はい」



そこまで話すと、マヤは私の前に右手を差し出してきた。

近くで見ると、人差し指部分はまるで初めから指が無かったのでないかという程、断面が綺麗だった。



「あと、失礼なんですが、みなさんの年齢を聞いてもいいでしょうか?」


「わしは40歳じゃ」



その貫禄から村長さんはゆうに50歳を超えていると思っていたが、意外にも若い。

現象が起こる前は、違う髪色で潤いもあったのかもしれない。


この世界で銀髪は見かけるが、ここまで潤いを失った白髪は見たことがなかった。



「私は28歳で、ミミが10歳、リリが9歳です」



マヤさんは恥じらいとも悲しみとも違う、何とも言えない表情で答えてくれた。



続けて元の髪色を聞くと、村長さんが黒髪で、マヤとミミとリリは薄い赤色だったことが分かった。




それから10分程話を聞いたが、新たな情報は無かった。

村長さん曰く、他の村人に聞いても結果は変わらないだろうと言うことだ。



私は4人にお礼を言うと、ミミとリリにお代わりのシュークリームを出し、家を出ようとしたのだが、マヤに袖を掴まれて引き止められた。


振り向くとマヤと村長が瞳を輝かせてこちらを見ていた。

よくある事なので直ぐに察した私は、シュークリームを10個テーブルに置き、今度こそ家を後にした。





最後までミミとリリに「帰っちゃ嫌」と言われ、少しだけこの村に骨を埋めようか考えたのはここだけの話だ。





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