第33話 スタット村
ミリアムと別れ、スタット村に向かい始めて5日が経った。
69キロだった体重を増やすため、『魔法付与』を使用しながらも毎日『トンカツ』『豚しゃぶ』『生姜焼き』など、豚料理を食べ続けた。
その結果、5日経った今日、無事90キロまで回復。
これからは遠慮なく馬に『魔法付与』を使えるので、あと3日もあればスタット村に着くだろう。
ピーーーー
ピーーーー
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馬を走らせていると、3通分の伝鳥が届いた。
《キラーピッグ(A)の件、ありがとう。それと、キュクロープスを倒してくれたお陰で少し魔物の活動が収まったわ。でね、マルティナ、サングラニトにあなたの人相書が出回っているわよ》
《ダーリン、スネークキラー(B)の討伐、ありがと。今度、お礼にデートしてあげるわね。それと、ティーレマンスであなたの人相書が出回っているわよ》
《遅い、遅いじゃ!!お主は何をしておるのだ!!早く魔王国まで戻るのだ!!》
最初の2通は、サングラニトの冒険者ギルドマスターのセリアと、ティーレマンスの冒険者ギルドマスターのナナイロだが、最後の『人相書』とは何のことだろうか?
勇者パーティーの嫌がらせで入国できないように手配しているのか?
3通目のマリアも怒っていることだし、早いとこスタット村の調査を終えて、魔王国に身を寄せた方がいいかもしれないな。
マリアにだけスタット村で起こった異変の話と、調査のために戻るのが遅れる旨を返信した。
それから数時間進んだ所で陽が落ち始めたため、その日の移動を止め、街道から外れた木々に隠れた場所で『家』を出した。
お風呂に入って直ぐに食事にしたい所だが、今日はサボっていたことをやろうと思う。
ズバリ、日本酒作りだ。
次に会った時、万が一にも日本酒が完成していなければマリアが相当怒るだろうし、『転移結晶』を勝手に使ってしまったことも追求されてしまう。
そんな状況を避けるため、『亜空間収納』からマナツが作った道具を出し、『異世界お酒レシピ』を見ながら作業を始めた。
まずは、大量にストックしている玄米の状態の米を『精米機』を使い精米していき、水に浸ける。
水に浸ける時間を短縮するため、『魔法全適性(使用時は体重消費•中)』スキルで促進魔法を使う。
『魔法全適性(使用時は体重消費•中)』
【無属性】
▪️体重:90キロ→87キロ(▲3キロ)
次に、『蒸し機』を使い、精米した米を蒸しす。
驚いたことにこの『蒸し機』は、蒸すだけでなく、麹、酵母、もろみまで作ってしまった。
これがマナツが言っていた複数機能なのだろう。
もしかすると、悪神様自身が飲みたいから複数機能の設計書をサービスしてくれていたのかもしれない。
どちらにしても、ここでも促進魔法が必要なのには変わりがなかった。
『魔法全適性(使用時は体重消費•中)』
【無属性】
▪️体重:87キロ→84キロ(▲3キロ)
後は、『濾過機』で濾過し、『火入れ機』で火入すれば完成だ。
この『火入れ機』には貯蔵の機能もついており、冷やせば直ぐに一升瓶に瓶詰めできる。
ただし、機能を有効にするためにも、促進魔法が必要•••
『魔法全適性(使用時は体重消費•中)』
【無属性×2】
▪️体重:84キロ→78キロ(▲6キロ)
こうして、僅か数時間で一升瓶10本分の日本酒が完成したが、12キロ分の体重を消費した。
酒を作って12キロ減るというのは、私にとっては恐ろしいことだ。
12キロあれば、ランクAの魔物が数百体倒せるだろうし、ランクSの魔物だって相当数倒せる。
人々を助けるための12キロと、趣味嗜好のための12キロ•••。
少し、複雑な気分になってしまう。
酒造りの汗と、複雑な感情から流れる冷や汗を綺麗にするため、お風呂に入り、夕飯を食べると、何も考えない内に早めに就寝した。
『摂取カロリー:2,000キロカロリー』
※大盛豚の角煮と炊き立てご飯
▪️体重:78キロ→81キロ(+3キロ)
それから3日後、予定通りスタット村に着いた。
体重も90キロのベストに回復している。
村から少し離れた場所で馬車を降りると、馬車を『亜空間収納』に仕舞い、歩いて村に向かった。
村に近づく度、異変が起こっていることを直感的に感じる。
人の気配はあるが、活気がまったくない。
襲われたことが本当だとすると、活気がないのが当たり前かもしれないが、人が生きているというエネルギーというか、生気というべきなのか、それらが一切感じられない。
村人は右手の人差し指を失い、老化していると聞いたが、命まで奪われた者もいるのだろうか?
恐る恐る村の入り口に着くと、中から2人の人が出てきた。
私は2人の姿を見て、息を呑んだ。




