第29話 プラチナの剣
魔王城の中は、意外にも人間国のお城と似ていて、変に壁が黒かったり、血の色に染まっていたり、悪人が貼り付けられていたりと、そんなことは一切なかった。
ただ、人間国の王城よりも遥かに大きく、既に中に入ってから20分程歩いている。
「着いたぞ」
マクロスと呼ばれていた立派なたてがみの魔族の男が、キュクロープスと同じ高さがありそうな扉の前で止まった。
「ここは?」
「魔王様との謁見場だ」
「ま、魔王様•••??」
「そうだ。失礼のないようにな」
マクロスはそう言うと、私の返事を待たずに扉に手を掛ける。
マクロスの隣には、マーミラと呼ばれていた猫耳の魔族も扉に手を掛け、2人同時に扉を押し始めた。
鈍い音と共に両扉が開くと、そこには圧倒的な天井高の空間が広がり、玉座まで綺麗な赤色の絨毯が一直線に敷かれていた。
玉座までは50メートル程あり、はっきりと姿は見えないが女性が座っている。
「さあ、行くぞ」
マクロスを先頭に中央に私、後ろにマーミラの順番で歩き出す。
何かあれば即、刺される位置取りになっている。
「魔王様。連れて参りました」
玉座の前に来ると、マクロスは一礼しながらそう告げた。
マクロスは身長が2メートル以上あるため、後ろにいる私には魔王様の姿がまったく見えない。
顔を横に出そうか迷っていると、マクロスが私の頭を掴んで前に誘導し、頭を押されて一礼する格好となった。
「そやつは誰じゃ?」
聞き覚えのある女性の声がすると、マクロスとマーミラは私の両隣に位置し、剣を2本抜き、両手剣で構える。
「騙したな!!」
「調子よく煽てよって!!」
「ちょっと、待って下さい」
私は慌ててそう言うと、魔王様の方を見る。
「やっぱり、マリアじゃないか!!」
「貴様、妾を気安く呼ぶとは、万死に値する」
昨日会った時と今では体重が▲20キロ程違い、見た目が変わっているとはいえ、声とかで分からないものだろうか。
このままでは殺されてしまう。
駄目元でアレを出してみるか。
私は『亜空間収納』からシュークリームを素早く1個取り出し、マリアに見せた。
「そ、それは、妾が愛してやまないシュークリーム!!」
「そうだよ、マリア。私は昨日シュークリームをあげたマルティナだ」
「ま、マルティナ!!マルティナなのか!?」
私はシュークリームをマリアに手渡すと、自分のスキルである『脂肪蓄積』『脂肪分割』について説明した。
「そうであったか。すまぬことをしたな」
「見た目が急変してるから仕方ないさ」
「マーミラ、マクロス、武器を納めよ。ここにいるのは間違いなく、妾の恩人、マルティナだ」
「「畏まりました!!」」
2人は直ぐに両手剣を納めると、私の後ろに下がった。
「それにしても、マリアが魔王様だったなんて」
「言うてなかったか?魔王国では態々魔王です、とは名乗らぬからな」
「それもそうか」
「して、マルティナよ。妾に食を提供してくれた礼をせねばならぬな」
「別に礼なんていらないけど」
「そうはいかぬ。また、シュークリームを貰わねばならぬしな」
マリアは目を少し細め、私の腰の辺りを見つめた。
「マルティナ、剣はどうした?」
「キュクロープスと戦った時に折れたよ」
「そうか。ならば、剣をくれてやろう」
「剣を?」
「マーミラ、マクロスと同じ、魔王国で取れた鉱石から作った剣だぞ」
先程、マーミラとマクロスが鞘から抜いた剣は、その輝き、威圧感、どれを見ても人間国で手に入れられる代物ではなかった。
できれば欲しい。
壊してしまった父さんの分を含めて2本。
「決まりじゃな」
私の表情が綻んでいたのか、マリアはニヤニヤしながらそう言ってきた。
「けど、こう言った場合、大抵、実は今鉱石がないからやれドラゴンがいる山に取りに行ってくれとか、そんな展開なんじゃ?」
「お主は何を言っておる??剣は常に数百本備蓄があるわい。マーミラ、鍛冶師のマナツを呼ぶのだ」
「畏まりました」
マーミラが謁見場を出て数分後、金属が擦れるような音が響いてきた。
ガチン
ガチン
長さ10メートル程の剣立てに20本近い剣を突き刺し、それを肩から担いで1人の女性がマーミラと一緒に謁見場に入ってきた。
女性は身長150センチ程で、筋肉隆々という訳でもなく、髪を後ろで一つに束ねた普通の小柄な女の子といった印象だ。
魔族には全然見えない。
「あんたかい、剣が欲しいってのは?」
「は、はい」
「好きなのを持って行きな」
「ありがとうございます」
私は剣立てに刺さっている剣を順番に見て、2本を選んだ。
正直、どれも大差ない素晴らしい剣で、輝き、刃先の鋭さ、威圧感、硬さ、全て申し分なかった。
2本を選んだ理由は、単純に剣の鍔部分がカッコよかったからだ。
「どれも素晴らしい剣だ。マナツさんでよかったかな?あなたがこの剣を?」
「そうさ。褒められると照れちまうね」
「使われている鉱石はプラチナですよね?」
「よく分かったね」
プラチナは白く光り輝く高い硬度の鉱石で、人間国で扱える者はいないだろう。
プラチナをここまで綺麗に加工できるなら、もしかすると•••。
「マナツさん。あなたなら、きっと作れるかもしれない」
「何をだい?」
「これです」
私は日本酒を作るための道具の作り方が書かれた紙を見せた。
「な、なんだい、これは?」
「説明するのは難しいが•••。マナツさん、あなたお酒は好きですか?」
「あったりまえさ!!鍛冶師で酒嫌いはいないよ」
私は『亜空間収納』から『当方美人』とグラスを取り出し、注いでマナツさんに渡した。
マナツさんはグラスを受け取ると、匂いを嗅いでからグイッと一口で飲み干した。
「くぅぅぅーーー!!何だいこりゃ!!今まで飲んだ酒で1番美味い!!」
「そうでしょう?マナツさん、これが好きなだけ飲めると言ったら?」
「お前も悪いヤツだな。私のことはマナツって呼びな。直ぐに作ってやるさ」
「私のことはマルティナと」
くっくくくく
あーはっはっはっ
「ずるいのだ!!」
2人で高らかに笑っていると、マリアがいつの間にか近くに来ていて、酒を催促してくる。
後ろには、抜き足差し足で近づいてきたマーミラとマクロスもいた。
言うまでもなく
この後、『当方美人』は無くなった•••




