第24話 ランクSS
▷▷▷▷クロエ◁◁◁◁
サングラニト王国の第一王女、クロエ•リル•サングラニト。
私は今後の勇者パーティーについて、妹で第二王女のミーシア、その侍女のアリナタと話をしていた。
珍しくミーシアが考えがあると言うので聞いてみると、ネビルアント(B)を討伐してくれた『美しい殿方』を探すと言うものだった。
勇者パーティーのアリナタとアーロンが重傷を負い、少しはまともになったと思っていたが、人は直ぐには変われないようだ。
話を聞く限り、『美しい殿方』は、どう考えても『マルティナ様』だ。
マルティナ様はその類稀なるスキルで、体重の増減が激しく、その時の『美しい殿方』がマルティナ様だと何度話してもミーシアは理解してくれない。
私は呆れ、口を開けて固まってしまった。
私が固まっている内に、ミーシアは【パンドラ】を持ち出し、『美しい殿方』を探している。
『美しい殿方』は『マルティナ様』
マルティナ様、今、どちらにおられるのでしょうか•••。
以前、アーロンが呟いた『リリーナ村にマルティナ様がいるかもしれない』という言葉を頼りに、秘密裏に使者を送り確認しましたが、結果は《人物画に該当する人物はなし》。
秘密裏のため、村人へ直接聞いて調査をした訳ではなく、ぽっちゃりなマルティナ様の人物画を頼りに確認を行ったのだが•••。
この短期間に痩せていた可能性もある。
もう一度、使者を送って確かめたいが、魔物が蔓延るこの土地で、何度も行き来させることは難しい。
「該当者なし•••」
「冒険者では、ないのでしょうか•••」
私が考えに耽ていると、ミーシアとアリナタの声が聞こえてきた。
『冒険者』
勇者パーティーを辞め、マルティナ様が次にすることは、その実力を活かした冒険者なのではないだろうか。
私は思い付くと同時にミーシアから【パンドラ】を奪っていた。
「ちょっと、操作を変わって」
私は震える手で、人物名での検索をする。
『検索者氏名:マルティナ•プリズム』
『性別:男』
検索結果を見て、私は肩を落とした。
《該当者:0人》
やはり、冒険者はやっておられないのでしょうか。
私は半ば自棄になり、冒険者ランクAを検索する。
《該当者:0人》
次は、『冒険者ランクS』だ。
選択欄から『ランクS』を選ぼうとした所で手を止めた。
「私、何をしているのかしら•••。名前で該当者がいないのに•••」
私はそう呟き、自嘲すると、【パンドラ】を終了した。
▷▷▷▷マルティナ◁◁◁◁
「セリア、俺のことを調べてるって、一体誰が?」
王都ティーレマンスの冒険者ギルドマスター、セリアは【パンドラ】を操作しながら微笑む。
「私のスキルは、アナリティクス。簡単に言うと色々なことを分析できるのよ。分析の結果、この国の第一王女、クロエ様があなたを調べてるわね」
「クロエが!?」
「性別を『女』としていたお陰で検索はヒットしていないけどね」
クロエが私を調べる理由は、恐らく勇者パーティーへの復帰要請か、復帰しないまでも魔物討伐を依頼したい、といったところだろうか。
どちらの理由にしても、『契約書』に違反する可能性があるため、接触されるのは困る。
リリーナ村にも頻繁に戻るのは控えた方がいいかもしれないな。
「ふふ。第二王女のミーシア様も、高ランクの冒険者を探しているみたいね」
「心当たりがあり過ぎる•••」
「モテモテですね」
ミナさんがどこか凍りついた微笑を向けてくる。
「そんなモテモテのマルティナに、少し遠出するぴったりの仕事があるのよ」
「さっき話していたやつか?」
「そうよ。簡単に言うと、サングラニト王国と魔王国アンヘルマリアとの国境沿い行って、キュクロープスを倒して欲しいの」
「キュ、キュクロープスって!?本気か?」
「申し訳ないけど、本気なのよ•••」
セリアは不安気に、声の最後の方は震えていた。
自分で依頼の話をしながら、なぜこんなにも震える状況になるのか、それはキュクロープスがランクSSの魔物だからだ。
その体調は10メートルを超え、大きな棍棒を振るって攻撃をしてくる一つ目の魔物。
「被害、出てるのか?」
「直接的な被害はまだよ。けどね•••。マルティナはサングラニト王国周辺に魔物が多い理由は分かる?」
「魔王国と隣接してるからだろう」
「その通りよ」
サングラニト王国は、魔王国アンヘルマリアに隣接している。
魔王国に住む魔王や魔族は、言うまでもなく人間より強く、冒険者が倒せない魔物も簡単に討伐できる。
だから、アンヘルマリアに住む魔物は、強い魔族を相手にするのを本能から止め、弱い人間がいるサングラニトに移住しているのだ。
因みに、魔王•魔族と魔物はまるで別物であり、ましてや仲間という訳でもない。
魔王と魔族は知能を有して言葉を話すが、魔物は基本知能がなく、これが大きな違いだ。
「最近、キュクロープスの影響で魔物の流入が増えていることが分かったのよ」
「そうなのか」
「本来ならランクA以上は勇者パーティーへ依頼するべきなのだけれど•••」
「まぁ、無理だよな」
セリアは申し訳なさそうに俯く。
「分かったよ。『貸し』があるからな」
「本当に!?頼んでおいてあれだけど、断ってくれても•••。魔王国が倒してくれる可能性もあるし•••」
「大丈夫だ。ランクSSなら、魔王国でも簡単には倒せないだろうしな」
私はそう言うと、正式に依頼を受けた。
それから時期的に冒険者がおらず、暇している職員のためにネビルアントの死体125体を査定に出し、ギルドを後にした。
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