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第21話 最悪な生誕祭






▷▷▷▷ティエル◁◁◁◁






ティーレマンス王国の第三王女、ティエル•ミル•ティーレマンス。




モウモウ(A)の討伐失敗により、騎士100人と騎士団長のマークを失った。





あれから3日経っていた。




ルイファの使用した転移アイテムのお陰で、私は命を救われた。

転移した先は王城の謁見の間であったが、運良く、国王、王妃、宰相達、身内と呼べる人物しかいなかった。



私はあまりに壮絶で凄惨な体験から、転移した後、身体中の震えが治らず、あろうことか嘔吐した。




そのまま私もルイファも気を失い、丸2日間寝込んだ。


目を覚ました時、枕元には王妃であり母であるマニーシアが心配そうに私を見つめていた。



異常な体の震え、嘔吐、2日間も目を覚さなかった状況があったためか、母は「なぜ、遠征に行ったのか?」「なぜ、勇者パーティーが負けたのか?」など、色々聞きたかったはずなのに、ただ泣いて心配され、咎められることもなかった。






そして3日目の今日。





今日は、王妃であるお母様の生誕30周年のパーティーを開催する日。


私の状況を見て生誕祭の中止も検討したそうだが、隣国、国内から王都ティーレマンスに来るには馬車で数日がかかる。

既に参加者が移動を始めていたため、中止には出来なかったそうだ。






そんな参加者達は、パーティー会場を見てあからさまに落胆していた。




「今日は、普通の料理なのか••」

「前回のお料理は素晴らしかったですわ」

「確か、ティエル様がお作りに•••」

「遠征で不幸があったらしいですわよ」

「それで•••」




結局、勇者パーティー結成のお祝いの席でマルティナが作った料理は何ひとつ用意できなかった。


立食台の上には、王族専用の料理人が作った「普通」の料理が並んでいる。



いいえ、マルティナの料理の味を知ったものからすれば、「普通」ではなく「不味い」料理だ。




考える度、苛立ちが募る。


ここ数日は心が病み、何も考えられなかったが、全てはマークが討伐に失敗した所為ではないか。



今となっては、一時でもマークに恋していた理由すら分からない。



マークさえ討伐に成功していれば•••。



散々私の体を堪能させてあげたのに、とんだ無能だったなんて•••。





「ティエル。表情が険しいぞ。まだ気持ちの整理がついていないのであろうが、来賓の前では笑顔を作るのだ」


「は、はい。お母様。申し訳ありません」



余程険しい表情をしていたのだろう。

お母様は少し離れた場所で来賓に挨拶をしていたのだが、足早にこちらに来て、笑顔になるよう言ってきた。




お母様の生誕祭。

私が暗い表情ではよくありませんわね。



気持ちを切り替えて、私は笑顔で来賓との挨拶を交わして行く。




「ティエル様。色々大変でございましたね」


「いいえ。これも勇者パーティーの務めですから」


「さすがティエル様ですな。ところで、勇者のマルティナ様はどちらに?」


「マルティナですか?彼なら一身上の都合でパーティーを辞めましたわ」


「さ、左様ですか•••」



今挨拶を交わしていたのは、王都でも貴族位が高い家の者だ。

なぜ、マルティナのことなど•••。




「ティエル様。マルティナ様はどちらでしょうか?」


「今日はマルティナ様は?」




その後も社交辞令の挨拶が終わると、必ずマルティナのことを聞かれた。


目の前に王女の私がいるというのに、マルティナ、マルティナ、マルティナ•••、本当に腹立たしい。




「マルティナ様はいないようですわ」

「助けていただいたお礼をしたかったのですが」

「あら、あなたも助けられたの?」

「ええ。魔物に襲われそうになった時に助けられましたの」

「私も同じですわ。とても勇ましく、格好よかったですわ」

「本当に•••。あの日以来、忘れられなくて•••。今日は婚約の約束をさせていただきたかったのですが•••」

「それは駄目よ!!私がするのです!!」




貴族令嬢達のやり取りが聞こえてきた。

まさか、あのマルティナと婚約??

あのデブと??



百歩譲って容姿は置いておいても、勇者の肩書がなければ、マルティナはただの庶民なのよ。

最近の貴族令嬢は何を考えているのか。






「ティエル様。少しお時間よろしいですか?」



私は声を掛けてきた男性を見て、頬が熱くなり、しばらくの間、相手の顔から目が離せなかった。


この方は、隣国、アルメリア王国の第一王子、フェルナンド•エル•アルメリア様。


男性ですが、美貌と表現するのが適切なほど整った顔立ち、吸い込まれそうな瞳、その全てが私好みな存在。




私とお近づきになりたいと、話しかけて来て下さったのですわ。

マークはもういませんし、私はいつでも準備ができております。




「ティエル様?」


「も、申し訳ありません。私としたことが•••。遠征から帰ったばかりで、まだ本調子ではありませんの」



私は態と体をよろけさせ、フェルナンド様の胸元に飛び込んだ。

フェルナンド様はしっかりと、紳士的に受け止めて、私の目を見てきた。




「そうでしたか。お疲れのところ、話しかけてしまいこちらこそ申し訳ない」


「いえいえ。話しかけていただいて、嬉しかったですわ。私のこと、何でも聞いて下さいまし」


「では、お言葉に甘えて。その遠征は、彼も一緒だったのでしょうか?」




先ほどまでと違い、フェルナンド様は真剣な眼差しで私を見てくる。


これは、マークとの関係を疑われているに違いありませんわ。




「騎士団長のマークのことでしたら、私とは何の関係もありませんわ。私は、フェルナンド様が•••」


「いいえ。マーク様ではなく、マルティナ様のことです」



フェルナンド様は私の言葉を遮り、今日だけで何十回と聞かされている最悪なヤツの名前を口にした。


しかし、フェルナンド様からの質問、答えない訳にはいかない•••。

まさか、フェルナンド様が私とマルティナとの仲を疑っているとは思えないが•••。




「マルティナは先日、一身上の都合で勇者パーティーを辞めましたわ」


「やはり•••。サングラニトでも•••。これは我が国のチャンスだな」


「あ、あの、フェルナンド様?私とマルティナはそういった関係ではありませんので、ご安心を」


「ああ、ありがとう。助かったよ」




フェルナンド様はそう言うと、足早に私の元から去って行った。




ぐっ•••




マルティナ

マルティナ

マルティナ



みんな、目当てはマルティナ•••





私は怒りを抑えられず、給仕や来賓にぶつかるのもお構いなしに物凄い勢いで歩き出し、パーティー会場を出て行った。






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― 新着の感想 ―
[気になる点] 兵士を無駄に死なせといてこの態度かよ。 無駄に許して感動ポルノルートは無くなったなこのクソアマ
2022/09/23 12:46 退会済み
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