第20話 契約違反の嫌疑
私はミケーレの後始末を村長に頼み、ネビルアント(B)が発生しているダケレスの街とリリーナ村の中間地点に馬車で向かった。
向かっている最中、『亜空間収納』から作り置きのクレープを3つ食べる。
摂取カロリー:クレープ×3つ(1,000キロカロリー)
▪️体重:70キロ→71キロ(+1キロ)
馬車を走らせて数時間、目の前にネビルアントの大群と戦っている騎士団と冒険者パーティーが見えてきた。
騎士団と冒険者パーティーの攻撃はまるで通じておらず、5分も持たずに全滅した。
私の腰には、父さんから借りてきた剣がある。
父さんも羊を解体したり、村周辺で偶に出没するデビルベア(D)の討伐のため、剣を持っているのだ。
それにしても、5歳の頃にデビルベア(D)を討伐した時にも剣を借りた、というか黙って持ち出したことがあったけど、その時とまったく同じ剣だった。
あの時は剣を持ち出したこと、かなり怒られたものだ。
私は鞘から剣を抜き、魔法を付与する。
150体近くいるネビルアントに剣技を繰り出していくより、魔法付与した方が断然体重消費を節約できる。
良い剣であれば、Bランクくらいの魔物、スキル無しでも倒せるんだけどな•••。
『魔法付与(使用時は体重消費•中)』
【炎】
▪️体重:71キロ→68キロ(▲3キロ)
体重が70キロを下回ったことで、一瞬、体がふらつくが、この位なら問題ない。
『warning』
頭の中で危険を知らせるアラートが鳴るが、今は敵を倒すのが先だ。
私は馬車から飛び降りると、一気にネビルアントの群れに突っ込み、次々と倒して行く。
倒しながら騎士の亡骸をみると、やはりサングラニト王国の者だった。
万が一、勇者パーティーと一緒に来ていたとすると、契約上、かなりまずいことになる。
勇者パーティーがいないことを願いつつ、私はネビルアント150体をあっという間に討伐した。
キャーーー!!
その時、女性の悲鳴が聞こえた。
辺りを見渡すと、豪奢な馬車にネビルアントが覆い被さり、攻撃を加えている所だった。
直ぐに助けに入るが、厄介な事に襲われていたのはサングラニトの勇者パーティー、ミーシア、アリナタ、アーロンだった。
しかも、アリナタとアーロンはかなりの重傷だ。
アーロンに渡すはずだった『転移の宝珠』を使うしかない。
転移先に設定している王城には回復魔法使いがいるはずだ。
ただ、アリナタとアーロンを『転移の宝珠』を使って王城に転移させたいが、最大90キロまでだ。
私はアーロンに体重を確認すると65キロだった。アリナタは細いがどう見ても35キロ以上はある。
「くそ!!アーロン、もう少し我慢してくれ」
そう言うと私は、ミーシアとアリナタの体を接触させ、『転移の宝珠』を使った。
後はアーロンだ。
早く回復魔法を•••。
『warning』
『warning』
『warning』
その瞬間、先ほどとは比べもにならない音量でアラートが鳴った。
《サングラニト王国•勇者パーティーとの関与を嫌疑》
《勇者パーティー関与率40%、ダケレスの街•リリーナ村からの脅威排除率60%》
初めて聞いたアナウンスの内容に、一瞬にして体が固まった。
ミーシアとアリナタを助けたことにより、契約書の『勇者パーティー追放に関して、今後、いっさいお互いに関わらない』という内容に違反したと疑われている。
《この嫌疑率が100%になった場合、即、死の宣告が発動します》
《嫌疑率が50%を超えた段階で、100%になっていない場合であっても、契約違反が認められた段階で死の宣告が発動します》
《この嫌疑率は、通常、表示されることはありませんが、『悪神の友達』の加護により、究極の依怙贔屓が与えられているため、特例で表示しています》
全ては理解できないが、嫌疑率が50%を超えた段階でいつでも死の宣告がされる状態ということだ。
しかも、本来はパーセンテージなど教えてもらえず、悪神様のお陰で注意喚起されている。
既に嫌疑率40%。
アーロンは勇者パーティー所属だ。
回復魔法なんか使えば、一気に50%を超えるだろう。
「どうすれば•••」
「うっ、うー、うー」
私の呟きに、アーロンが苦しそうに何かを話している。
話の内容は分からないが、アーロンは一点を見ていた。
視線の先にはアーロンがいつも持ち歩いている大きな鞄だった。
そうだ。
アーロンはいつもポーションを持ち歩いていた。
ポーションはとても希少で、勇者パーティーといえど多くは持参していない。
それでも、常に3本は持参していたはずだ。
私は急いで鞄の中を探すと、予想通り3本のポーションを見つけた。
痛みで顔を抑え、その場から動けずにいたアーロンの口を無理矢理開くと、迷わず3本のポーションを流し込む。
『warning』
『warning』
『warning』
《勇者パーティー関与率45%》
アーロン自身の持ち物だが、私が飲ませた事で嫌疑率が上がったようだ。
「ヴーー、ぐーー」
ポーションが傷口に染み、あまりの痛みに叫んでいたアーロンだが、しばらくすると眠りに着いた。
ポーションが効き、傷口が塞がっている。
ただ、顔にできたこの大きな傷跡は消えないだろう。
アリナタの腕も、並の回復魔法やポーションでは再生までは無理だ。
私は伝鳥をサングラニト王国の冒険者ギルドマスター、セリアに向けて飛ばした。
内容はもちろん、救助要請だ。
「すまんな、アーロン。これ以上関わると、私もお前も危ない」
私は辺りに魔物がいないことを確認すると、その場を後にした。




