第19話 美しい殿方
▷▷▷▷ミーシア◁◁◁◁
ミーシア•リル•サングラニト。
サングラニト王国の第二王女であり、勇者パーティーのメンバー。
私は今、ダケレスの街を経由して、リリーナの村に向かっている。
目的は、ネビルアント(B)の討伐。
メンバーは私と親愛なるアーロン様、侍女のアリナタ。
それと、護衛の騎士30人と、冒険者ギルドに依頼して雇ったCランクパーティーが5組み。
パーティー名がありましたが、忘れましたわ。
そもそも、アーロン様がいれば何の問題もないのですから。
王族専用の豪奢な馬車の中で、私と侍女のアリナタは隣同士で紅茶を啜っている。
目の前に座るアーロン様は、あのデブを追放して依頼、あまり元気がなく、どこか塞ぎ込んでいた。
優しく、イケメンのアーロン様ですから、あんなデブでも追放されたことを同情してあげているのでしょう。
ダケレスの街から数時間経った時、馬車が停まった。
「ミーシア様。ネビルアント(B)の群れが前方に確認されました」
馬車の外から、騎士の1人が伝えてくる。
「分かりましたわ。ランクBですから、とりあえず、騎士団と冒険者パーティーで先陣を切りなさい」
「は、はい•••」
騎士は、どこか焦りというか、気の乗らない声で返事をして、走り去っていく足音が聞こえた。
冒険者パーティーはCランク、騎士団も加わり束になればBランクの魔物くらい楽勝でしょう。
私は構わず紅茶を啜る。
それからしばらくして、少し離れた場所から戦いの音が聞こえてきた。
騎士達の叫び声、剣や槍、弓を引く音、魔物の叫び声も聞こえてくる。
「始まりましたね」
「そうですね、ミーシア様」
私とアリナタは紅茶を啜り、アリナタは小菓子を出してきた。
見た目はいいが、美味しくなく、口の中の水分が全て失われるその小菓子は、今、王都で流行っているものだ。
私は溜息を吐き、口に運ぶ。
やはり、不味い。
あぁ、シュークリームが食べたいですわ。
そう思った時、ある異変に気付いた。
先程までけたたましい戦いの音が聞こえていたのに、今は音がしない。
静かすぎる。
一気に不安を覚えた私は、アリナタと一緒に馬車の扉を静かに開け、半身を出して外の様子を伺った。
「おかしいですわ」
「そ、そうですね。御者もいません」
ギュルッ
ギュルッ
馬車の上から不気味な音が聞こえ、私とアリナタは同時に上を向いた。
そこには、馬車の屋根によじ登っていたネビルアント(B)の姿があった。
体調2メートルはありそうな体に、異様に大きな頭部。
頭部には大きな赤い目があり、ギロと、私達を睨み、攻撃態勢に入ったのが分かった。
「ミーシア様!!」
アリナタが左手で私を馬車の中に突き飛ばすと、その反動で半身だけ外に出ていたアリナタは完全に外に出る大勢となった。
ネビルアント(B)が鎌のような鋭い手でアリナタに襲い掛かる。
「アリナターー!!」
キャーーー!!
私の目の前に、肘から下の腕が宙を舞った。
それは、ネビルアント(B)に切られたアリナタの左手だった。
「いやーーー!!アリナタ!!アリナターー!!」
更にネビルアント(B)は、地面で切られた肘部分を押さえ、呻き声を上げているアリナタに鎌の手を振り上げた。
私は咄嗟に手に持っていた不味い小菓子を投げつける。
小菓子が当たったことで、ネビルアント(B)がこちらを向く。
「火の精霊よ、我に力を貸したまえ!!」
グレン•ファイヤ
私の掌から20センチ程の炎の塊が放たれ、ネビルアント(B)の頭部に当たる。
当たっただけだった•••
ギュルーー!!
まるでダメージを受けていないネビルアントが私に向けて鎌の手を振り下ろしてきた。
私にはもう、魔力は残っていない。
「危ない、ミーシア様ーー!!」
横からアーロン様に体当たりされ、そのお陰で私は鎌を躱せた。
「ぐっ、ぐ•••」
アーロン様は右頬を押さえて呻いている。
「あ、アーロン様•••」
私はアーロン様に近づこうとして、声を失った。
アーロン様の右頬が深く切り付けられ、頬に穴が開き、口の中が見えていた。
「あ、あ、あ•••」
アリナタが腕を失い
アーロン様が顔を切られた
その惨状に私は動けずにいた。
ギュルーーー!!
震えて体が動かない私の前で、ネビルアントがアーロン様を切り付けようとしていた。
もう、駄目だ•••
ザシュッ
そう思っていた私の前に、見たこともない男が現れ、炎を纏った剣でネビルアントの首を刎ねた。
その男は綺麗な髪質に整った顔立ち、引き締まった体にスラっと延びた足。
そしてその強さ。
なんと、尊く、美しい殿方なのか•••
「アーロン、お前、体重は!?」
その美しい殿方がアーロン様に話しかけている。
お知り合いだったのですね。
顔を切られて話せないアーロン様は、手を使い、65キロを示している。
「くそ!!アーロン、もう少し我慢してくれ」
そう言うと美しい殿方は私の手を強引に引っ張り、アリナタと私の体を重ねた。
次の瞬間、私の視界が切り替わり、見慣れた光景が広がった。
そこは、王城の謁見の間だった•••。




