愚帝の企みを、探るべく
新章12話です
ネイピアの話を聞いて、これからやることは決まった。
「エレナ。これからちょっと、大仕事を一緒にやろう」
「喜んで! ……で、何をやるの?」
元気よく同意してから、エレナは詳細を聞いてきた。そういえば、何をするのか言っていなかった。
「これから、ゼガ島について《風》で探知するんだ。霊装のフルパワーでな」
「了解だよ」
エレナは笑顔で返事をすると、さっそく俺の手を握ってきた。そして、彼女の身体がまばゆい光に包まれる。
次の瞬間、俺の手には一振りの剣――霊装エレナが握られていた。
「ちょっと、何をする気?」
ネイピアが戸惑いながら聞いてきた。
「今の情報が、どこまで確かなのか探ってみる」
「私の話が信用できない?」
「いや。信用した上で、証拠が見つけられないか試してみるのさ」
「証拠って……」
「だって、皇帝もまだ伝説を信じているだけで、証拠は見つけてないんだろ? ゼガ島には本当に魔剣があるのか。あるとしたらどこにあるのかってさ」
「なるほどね――」
ネイピアは納得しながらも、どこか呆れたように嘆息する。
「でも、わざわざ200㎞も離れているゼガ島を、ここから魔法で探知するのは面倒じゃない? ちょっと直接行って来ればいいのに」
「おいおい、簡単に言ってくれるよなぁ」
「あら、簡単なんでしょう?」
「まぁ、簡単なんだけど」
とはいえ、200㎞も離れていると、霊装エレナの最速移動でも15分は掛かるだろう。それ以上早くすると、さすがの俺も空気抵抗が酷くて、身体がもつかどうか怪しい。
もし原形を留めなくてもいいなら、5分や3分で着くだろうけど……そして着いた後のことは考えたくもないけれど。突然ミンチが空から降ってきたら、ウーリルとルーエルも驚くだろうな……。
つい想像してしまった光景を、俺は首を振って強引に誤魔化しながら、話を続ける。
「ただ、今回はあくまで事前調査をしたいだけだからな。皇帝に知られて警戒されたり、敵視されたりしたら、却って厄介なことになるかもしれない。それこそ『妨害された』なんて言われれたら、その後の動きが取りづらくなるし」
「確かに、それはあるわね。言い換えれば、今はまだ誰が敵で誰が味方かを見極めるとき。だからこそ、ここでいたずらに敵を増やすようなことをするべきではない、と」
「そういうことだ。だから、情報収集は独自で密かにやっておいた上で、たとえば、正式に皇帝に協力を申し出るなんてこともできるんじゃないかと思ってる」
「……皇帝と、協力ね」
ネイピアは、言葉にいろいろと含ませたように呟いて、自嘲するように鼻を鳴らした。
周囲から『愚帝』と呼ばれる、皇帝ルートボルフ――ネイピアの父。
彼に対して、ネイピアは複雑な感情を抱いている。
谷間の世代と言われているほど、魔法の能力が低い皇帝。ただでさえ魔法のレベルが下がっている現代で、ルートボルフの世代は、一人もミスリル級が出てこなかった――ミスリルを傷つけることすらできなかった。
かと言って、今のネイピアの世代やウーリル・ルーエルの世代が強いのかと言うと、そうとも言い切れない。
ネイピア個人は圧倒的な強さを見せているが、それ以外は、666年前の『賢帝』――皇帝マクガシェルに劣るほどの実力しかない。
……そういえば、この666年間、どうしてこんなに魔法のレベルが下がってるんだろうな。
もしかしたら、666年前から始まった『賢帝』を敬うあまり、賢帝を越えてはならないといった暗黙の掟が作られて、強力な魔法士は裏で消されていたとか……。
なんてことまで想像してしまう。
正直、自然と弱くなったというよりは、何か人為的な、何者かの作為が働いているようにしか思えない。
……それこそ、魔王ゼグドゥが自分の復活を容易くするために、人間界の魔法を弱めようとしていた、なんて?
それは、適当な想像のつもりだったのに、思わずゾッとした。
「ねぇ、ちょっとジードくん? 大仕事をするんじゃないの? まだー?」
霊装エレナが不満げに声を掛けてきた。
きっと人型だったら口を尖らせながら頬を膨らませている感じだろう。その顔がありありと浮かぶ。
「わ、ごめんごめん。さっそく始めよう。ゼガ島のことを隅から隅まで探知するんだ」
「任せてよっ」
霊装エレナが声を弾ませて答える。
エレナの楽しげな声を聴くだけで、ついこっちも何だか楽しくなる。
たとえそんな短絡的なことであっても、感情が近いものになっていると魔法の威力は上がるのだ。
もちろん、エレナと共有している感情は、もっと深くて強いものでもあるけれど。
それに、セラムと仕事をするときも、お互いに嬉しい気持ちで一致している。
そういう意味でも、俺たちの力は最強なんだ。
本日の投稿は、以上です
次話の投稿は、明日(10/10)の19時を予定しています




