伝説の魔剣――キリアム
新章10話です
「ところで、情報と言えば一つ、気になっていることがあるのだけれど――」
ネイピアは、さっそく何か新しい情報を集めていたらしい。
相変わらず、彼女の《風》を使った情報網は半端ない。
何より、彼女自身の知的好奇心が強いものだから、総合的な情報収集能力で言えばエレナよりも凄いだろう。
ついでに言えば、ネイピアは読書や資料研究を嬉々としてやるが、エレナは文字を読むことすら忌み嫌うものだから、そこでも大差がついてしまうわけだけど。
「前に、ウーリルとルーエルがゼガ島に行くことになっている、と話をしたでしょう」
「ああ。北の海に浮かぶ火山島なんだよな。なぜかガルビデの話にも出てきたっていう」
「ええ。あの双子は、貴方から見たらそうでもないかもしれないけれど、帝国にとってはかなりのエリートなの。そんな双子が、他の帝国軍の魔法士ら10名と一緒に、皇帝ルートボルフの極秘の勅命を受けてゼガ島に行かされているそうなのよ」
「皇帝の?」
思わず、不信感を顔に出してしまった。
ガルビデの話に出てきたという時点で怪しんでいた話に、今度は皇帝が絡んできた。
「まぁ、怪しむのは当然よね」
ネイピアはこちらの心情を察するように、軽口を叩いた。
皇帝とガルビデ……。それは必然的に、先日の魔王ゼグドゥの復活を図ろうとした、ガルビデの陰謀を思い起こさせる。
魔法教育の根幹組織である教導士団の団長・ガルビデは、実は魔王ゼグドゥに操られていた。
そのせいで、俺たちや教導士団の副団長だったプリメラは、「魔王を封印する」という名目のもと、「魔王復活」の片棒を担がされそうになってしまった。
それを権力的に後押しして進めていたのが、皇帝ルートボルフだった。
あの一件がひとまずの解決を見た後、皇帝は言うに事欠いて、
「我も、まんまとガルビデに騙されてしまったに過ぎぬのだ――」
と言ってきた。
「魔王ゼグドゥの伝説は、皇帝たるもの、以前から知っていた。その封印が、我の代で解かれてしまうことも解っていた。だからこそ……いや。そうではないな。所詮は『愚帝』の戯言として疑えばよい。我には何も出来ぬ。何も、この国を良くする力など持ち合わせては居ないのだ」
言葉を選んでいるような、自虐するような、だけど俺たちを煽ってきているかのようにも聞こえる、微妙な言い回しだった。
ただ、少なくとも、謝罪をする気はないのだと感じた。
何より、この言葉が信用できるものなのかどうか、俺には判別できなかったのだ。
結局、あの一件以降、俺やネイピアが皇帝ルートボルフと会話ができたのは、そのときだけだった。
その後は、前にも増して皇帝は奥へ隠れるかのように、存在感が薄まっていった。
おかげで、ネイピアは学園の仕事をこなすだけでなく、帝都民からの陳情なども受けるようになっていた。
そんな中で、今回は態度が一変したかのように、皇帝の勅命があったのだという。
「今回、双子たちが皇帝の勅命でゼガ島に派遣されているのだけど、それと入れ替わるように、ゼガ島の住民が大陸へ強制移住させられているそうよ」
「移住って言うか、まるで避難だな。いったい何をしようとしているんだ……」
俺は答えを期待するわけでもなく、独り言のように呟いた。
だが、そこに予期しない答えが返ってきた。
「実は、貴方たちもゼガ島について知っていることがあるはずよ。その知識があれば、答えに導かれると思うのだけど?」
どこか挑戦的に言ってくるネイピア。
と言われても、俺には見当も付かなかった。
「どういうことだ?」
「ゼガ島……その名前の由来は、魔王ゼグドゥよ」
「……え⁉」
「かつての『魔法大戦』によって、魔王ゼグドゥが造り出した島の話があったでしょう。その島こそ、ゼガ島なのよ」
「…………マジか」
思わず絶句しかけた。
「マジよ――」
ネイピアは、苦々しい顔をしながら頷いて、
「さらに言うと、そのゼガ島には、『魔法大戦で使われた武器』なんていう伝説も残っているそうよ」
「……伝説の武器ってことか」
「ええ。その名も――『魔剣キリアム』」
次話の投稿は、本日20時を予定しています




