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モンスターが進化している!?

新章8話です

 空から帝都の街並みを見下ろす。


 ミスリルの壁に囲まれた、その南側の一角で土煙が上がっている。あそこが襲われたのか……と思っていると、目の前が真っ白な光に包まれた。


 ボオォゥンッ!

 爆発が起こっていた。先ほどの土埃の場所とは違う場所。

 魔力を感じる――魔法による爆発だ。


 見れば、帝国軍人たちが数名、爆発地点から立ち上る黒煙を取り囲むようにして、魔法陣を展開していた。軍がナニモノかに対して同時に魔法攻撃を仕掛けたらしい。


「倒したかっ⁉」

 魔法士の一人が焦ったように叫んでいた。それは逆に言えば、倒した手応えが無かったということに他ならない。


 案の定――

 ふいに、爆発の黒煙が切り裂かれるようにして晴れた。


 そこから姿を現したのは、サーベリオンタイガーだ……と思う。

 思わず、断言することを躊躇っていた。

 これが本当にサーベリオンタイガーなのか、自信をもって言えなかった。


 通常のサーベリオンタイガーは体長2mほどなのに、それよりも二回りは大きい、4mはあろうかという巨躯。

 そしてその背中には、まるで翼のように見えるほど巨大な刃が生えている。

 サーベリオンタイガーの特徴とも言うべき巨大な牙が、もはや印象に残らないほど、背中の刃が特徴的で、そして脅威でしかない。

 何より、帝国軍による集中砲火を浴びたはずなのに、奴の巨躯は傷ひとつなく、堂々と大地に屹立していた。


「つ、強いっ⁉」

「く、くそっ。追撃だ!」

「うあぁっ⁉」


 帝国軍は、明らかに混乱していた。

 次の攻撃を放とうとする者も居れば、反射的に防御魔法を発動してしまっている者、さらには隊列を乱して距離を取ろうとしているものまで。


 これは酷い。それでも帝都を護る帝国軍なのか。

 バラバラの攻撃が放たれて、再び黒煙が舞い上がる。だが結果は同じ。サーベリオンタイガーは、無傷でそこに立っているまま。


 元々、サーベリオンタイガーは、今で言うミスリル級の魔法士でなければ倒せないレベルではあった。だけど、そこにいるサーベリオンタイガーは、もはや明らかにミスリル級では対抗できないレベルだ。

 なにせ、あのネイピアの結界も傷つけているくらいなのだから。


「みんな下がれ! あとは俺がやる!」

 たまらず俺は叫びながら、サーベリオンタイガーを目掛けて《風》に乗って突っ込んでいった。


 すると、サーベリオンタイガーの背中の刃が、翼のように広がった――むしろそれは本当に翼だった。サーベリオンタイガーは刃の翼を羽ばたかせて素早く飛び去り、俺の攻撃を回避した。かと思うと、その勢いのまま南の方角へ飛び去って行こうとしていた。


「また逃げるのかよ」

 思わず口走っていた。確証は無いけれど、このサーベリオンタイガーは、さっき俺たちの前から逃げていったモノと同一個体なんじゃないか、と感じていた。

 一言で言うと、慎重なのだ。


 魔力を喰らうという本能だけで生きていると思われているモンスター。だけどこの個体は、まるで効率を考えているかのように、狙いを定めたり、変えたりしている。


 モンスターがいろいろ考えるようになっているのか――

 それとも、いろいろ考えている奴がモンスターを指揮しているのか。


 まぁ、いずれにせよ――

「逃がすかっ!」


 右手を繋いでいたエレナが光に包まれ、一振りの剣――精霊の真の姿――霊装エレナを握る。

 と同時に、左腕で抱えていたセラムも、霊装の姿となった。


 霊装エレナの力で極限まで圧縮された《風》が、俺の身体を弾き飛ばす。あたかも瞬間移動したかのような高速移動でサーベリオンタイガーに追いつくと、勢いそのまま霊装セラムを振り抜き、一閃。


 するとふいに、サーベリオンタイガーが翼を広げながら空中で回転しだした。

 それでも霊装セラムの刃はヤツの胴を切り裂き、一瞬でその身体を凍り付かせた。


 氷漬けになり、完全に静止したサーベリオンタイガーは、重力に抗うこともできずに地面へと叩きつけられた。

 カイイィィィン……と甲高い音を響かせながら、氷漬けのサーベリオンタイガーは、まるで雪のように粉々になって砕け散った。


「……ふぅ」

 思わず、溜息が漏れていた。

 実は、ほんの少し、思い通りに行かなかったところがあったのだ。

 ただ、それを反省するのは後でいい。

 すぐに気を引き締め直して、警戒を解くことなく、上空から帝都の様子を観察していく。


 ミスリルの壁は、ひとまず崩れるほどの傷は生じていなかった。ただ、最初の轟音の原因になったもの――南側の一角では、ミスリルの壁が大きく陥没してしまっていた。


 後で直さないと。

 と言うか、元通りにするだけじゃ意味がない。

 またサーベリオンタイガーが襲ってきたら――もっと強力なモンスターが出てきたら――ただのミスリルじゃ対抗できないんだから。

 できたらこの壁全体を、ネイピアの結界を織り交ぜて強化した物に変えておかないといけないだろう。

《土》魔法士であるプリメラとも協力すれば、かなり良い物ができるはずだ。

 そんな今後の計画を考えながら、ひとまずチェックを完了させた。


「お疲れさま、エレナ、セラム。ふたりとも大丈夫か?」

 霊装から元の姿に戻ってもらって、ふたりを労う。


「ジードくんこそ、お疲れー。私は全然、大丈夫だよ」

「私は大丈夫」

 エレナとセラムが、一息つくように頷きを返してきた。


 するとセラムが続けて、

「ジードこそ、手は大丈夫?」

 俺の左手を両手で包み込むように握りながら、そう聞いてきた。

 ……さすがに、セラムには気付かれてたよな。


「ああ。ヤツに予想外の動きをされたから、ちょっと想定外の所を攻撃する破目になったけど、それくらいだ――」

 本当は、翼の付け根の辺りを攻撃するつもりだったのだ。ヤツは、胴部分も鋭利な刃が生えていて、それが鱗のように重なり合っていたのだ。

 霊装ならばそこを攻撃しても問題ないだろうとは思っていたけれど、できる限り負担の少ない場所を狙いたかったんだけど、上手く狙えなかった。


「でも、むしろセラムに負担が行ってなかったか?」

「大丈夫。ジードが私に負担を掛けないようにしてくれていたから。だから私は、ジードのことこそ心配」

 まっすぐな目で見つめながら、そう言ってくるセラム。

 いつもは真面目なフリをしてからかってくることも多いのに、こういうときのセラムは、真剣に俺のことを心配してくれるんだ。


「大丈夫だよ、ありがとう」

 心の中に温かいものを感じながら、それがセラムにも伝わるように、言葉と表情に込めて届けた。

「ん」

 セラムは安堵したように頷くと、ポンポンと俺の左手を優しく叩いていた。


 ……心配、させちゃったなぁ。

 俺の未熟さのせいで、セラムを心配させてしまった。そのことを自戒する。


 ……ただ、それにしても。

 と、改めて、先ほどの戦闘で起きたことを思い起こす。

 俺たちを見て逃げ出したサーベリオンタイガー、それに向かって、俺たちは霊装エレナの《風》によって、瞬間移動にも近いレベルの高速移動で斬り掛かっていった。

 それを、あのサーベリオンタイガーは、まるで避けるように身体を回転させていた。


 あのレベルのモンスターが、霊装の能力による攻撃を避けることなんてありえない……むしろ反応することすらできないはずなのに。


 モンスターが、強くなっている。


 帝都周辺のモンスターが狂暴化して、むしろ進化とも言うべき変化を見せている。さっきプリメラも言っていたことだ。

 その原因は、ほぼ間違いなく、魔王ゼグドゥが一時的にでも復活してしまったことにあるんだろう。

 だとすると、俺にもこの状況になったことへの責任はある。

 だから、今度こそ、原因を潰さなくちゃいけないんだ。

次話の投稿は、明日(10/9)の19時を予定しています

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