いつもの日常~ふたりの魔眼を受け止めながら
新章6話です
魔法が強くなったのは俺のおかげだと言って、俺の手を取って喜んでくれている女子生徒。
それは俺にとっても、とても嬉しい。
……嬉しいんだけど。
「できたら、もう手を離してもらえないかな?」
「え? ……あぁっ⁉ ご、ごめんなさい。私、その、嬉しくてつい……ひっ⁉」
女子生徒は慌てながら手を離して、顔を真っ赤にしたと思ったら一瞬で真っ青にしながら、逃げるように走り去っていった。
俺は、彼女の背中を見送りながら、俺の背中に刺さり続ける《風》の刃や《氷》の棘を振り払った。
そのまま後ろを振り返ると、そこには案の定、『魔眼』を発動させながら俺を睨みつけているエレナとセラムが居た。
「よかったね、じーどくん」
エレナが笑顔を見せながら、まったく抑揚のない声で言ってきた。その目はまったく笑ってなくて、まるで巨大な目玉のモンスター:エヴィルアイのように見開かれたまま、ギョロリと女子生徒を追っていた。
……危ない危ない。ここで魔眼が発動したらあの子が無事でいられないだろ。って言うか、こんな顔を見たら悲鳴を上げて逃げるに決まってるわ。
そんなことを思いながら、さりげなく彼女を背中に庇うため、視線を遮るように立ち位置を変えた。
ギョロリ、とエレナの視線が俺に向けられた。怖い怖い。
……まぁ、これで一安心ではある。
「ジードに『友達』が増えて、私も嬉しい」
一方のセラムは、妙に『友達』を強調しながら言ってきた。
「そ、そうだな」
「友達なら、手を繋ぐくらいはあるかもしれない。でも、それ以上は無い。それ以上になるようなものは、この世に存在してはいけない」
まるで呪詛を吐き捨てるように、俺の身も心も凍てつかせる言葉を言ってきた。
魔眼の能力的な意味でも、精神的な意味でも。
「大丈夫だっての――」
俺は思わず苦笑しながら、セラムの頭にポンポンと優しく触れる。
「セラムも、エレナも、いつまでも俺の一番近くに居てほしい。これまでの666年みたいに、これからもずっとな」
「ん」
セラムは満足したように短く声を漏らすと、俺の腕を掴むようにして、そのまましばらく俺の手が頭から離れないようにしていた。
《氷》の精霊・セラムのひんやりとした髪の毛に、俺の温もりが伝わるように。
するとすかさず、エレナが超高速で懐に飛び込んできながら、空いていた方の俺の手を掴んで彼女の頭に押し付けていた。そしてそのまま見上げるように、頬を膨らませながら俺に抗議の視線を送ってきた。
贔屓をするな、ということだ。
俺は思わず溜息を漏らしながら、つい頬を綻ばせていた。
毎日のように繰り広げられる、嫉妬にまみれたやりとり――いわば嫉妬芸。
クラスメイトのみんなも慣れたようで、もう誰も気にしていない感じになっている。
もちろんネイピアは咎めるような視線を送ってくるのだけど、それでも、彼女が俺たちのやりとりを中断するように割り込んでくることは、滅多にない。
何だかんだで、ネイピアも俺たちの関係性を尊重してくれてはいるのだ。
「ちゃんと後で、不純異性交遊の反省文と、あまりに聞き分けが悪いから、バツとして闘技場の掃除でもしてもらおうかしら」
「……はい」
きっちりケジメは付けるんだけど。
そもそもの話、エレナとセラムが嫉妬するのはしょうがない、とも言えるのだ。
俺が少し女子と仲良さそうにしているだけでも、エレナとセラムは嫉妬してしまう。それは別に、俺に信用が無いっていうわけじゃなくて。
そこには、人間か精霊かという、越えられない壁が存在してしまっているから。
俺がこの人間界で仲良くなる女子たちは、みんな人間で――俺と同じ人間で。
そして、エレナとセラムは、精霊なんだ――俺とは違う存在なんだ。
それが、エレナもセラムも、不安だから。
だから必要以上に、嫉妬するように俺の気持ちを確かめたがっているんだ。
……まぁ、俺にしてみれば、エレナとセラム以外の女子を恋愛的な意味で好きになることなんてありえないんだが。
でも、それはいくら言葉にしても意味のないこと――いや言葉にもちゃんとするけれど。
これからずっと、行動で示していくことなんだ。
……それに。
ただの噂に過ぎないのかもしれないけれど、この人間界には、人間と精霊との間に生まれた生命体が居た、という話を耳にしていた。
もし、それが本当だったとしたら、エレナとセラムが嫉妬する必要も無くなるかもしれない。
そんな夢のような、だけど心のどこかで期待せずにはいられないことを、いつも考えてしまう。
そうなったら、きっと今よりももっと幸せになれると思うから。
まぁ、今でも十分に幸せなんだけど。
次話の投稿は、本日21時を予定しています。




