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エレナは風の子

新章第2話です


 見渡す限りの、緑豊かな草原地帯。遠くの山々も青々としていて、それよりもさらに青い大空とのコントラストが綺麗だった。

 草花が風に揺れて、わずかな涼しさと微かな良い香りに包まれる。

 これに大喜びなのは、《風》の精霊・エレナだ。


「ん~~~~~っ! 気持ちい~~~~~~~~っ!」


 水を得た魚よりも激しく、風を得たエレナは大空を自由自在に飛び回っていた。

 考えてみれば、この人間界に来てから、エレナが自由に空を飛び回れたことなんてなかったかもしれない。


 帝都の街には、空に蓋をするかたちでネイピアの『糸』の結界が張られているから、そこを飛び回るわけにもいかない。

 帝都の街の外に出たこともあったけど、それは聖山シュテイムを調査するときとか、あのキルス家が造り出したオリハルコンゴーレムと戦ったときくらい。

 あとは、街の外と言っても地下ばかり。


 そりゃあ、《風》の精霊としては窮屈なことばかりだっただろうな。

 ましてや、エレナの元気溌剌な性格を考えたら、我慢することもいっぱいあっただろう。


「はしゃぐのもいいけど、あんまり遠くに行くなよー?」

 ついそんなことを言いたくなる。

 まるで、精霊界で生まれたばかりの精霊の世話を手伝っていたときみたいな気分だ。

 精霊は、生まれたときから基本的には成人と変わらないような見た目をしているけれど、その性格は、いろんな意味で純粋なのだ。


 中には、このエレナよりもさらに天真爛漫な子も居たりして、大変だった。

 逆に、悪い意味で純粋な精霊が生まれてしまうこともあったけれど。


「えへへ、大丈夫だよ~。私は、ジードくんの近くが大好きだから~!」


 そんなことを大声で叫ぶエレナ。

 嬉しいことを言ってくれる。

 だけど、俺の背筋はゾッと寒くなっていた。

「相変わらず貴方たちは……。この実習の後、生徒会室に来てもらうわよ」

「はいっ」

 後ろを振り返るまでもない――振り返るのが怖い。俺はネイピアの声に元気に返事をしていた。


 しばらくして、空中遊泳を満喫してきたエレナが舞い降りてきた。

「むふー。気持ち良かった~」

 本当に気持ちよさそうに、とろけるような笑顔を見せながら笑うエレナ。

 こんな表情をしてくれるなら、もっと早く空の散歩ができたら良かった。

 ただ、そんな暇が無かったのも事実だった。

 一区切りついたら、本当に何も考えないくらいのんびりと、人間界を歩き回ろう。


 ……魔王ゼグドゥとの対決に、決着をつけて。

 そう心に誓った。


 一方、満足げな表情をしているエレナに対して、セラムは少し不満げだった。

「この辺りには、綺麗な水が無い」

「あぁ、確かになぁ」


 ここは、帝都グランマギアと、その南方20㎞ほどの距離にある第二の都市・アルゼルクスとを結ぶ街道だった。

 この街道沿いに川もあるのだけど、そこは旧来から《水》魔法を活用した運河としても整備されていて、お世辞にも綺麗とは言えないものなのだ。

 しかも今は、聖山シュテイムの崩壊による土砂の流入によって、川の一部が堰き止められてしまっていて、泥水のようになっているし、水量も激減してしまっていた。


「地下水とか、地底湖とかも無いのか?」

「あったら私も、エレナのように恥ずかしいくらいはしゃいで飛び込んでいる」

「そっか」

「えっ⁉ 私のはしゃぎようって恥ずかしいくらいだった⁉」

 何やらショックを受けているエレナはさておいて。


 セラムの性格からすれば、本当にエレナみたいに恥ずかしいくらいはしゃぎまくることはないだろうけど、水に入った彼女は彼女なりにテンションが上がって、可愛いのだ。

 どうせなら、この人間界でもかなり綺麗な水を見つけて、そこでセラムにもはしゃぎまくってほしいんだけど……。

次話の投稿は、本日20時を予定しています

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