↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
72/122

魔力補充中

2巻の18話です。

2 


 魔王復活の兆しとして、『歪み』の場所は、エレナのおかげで発見できた。

 いざというときには、住民たちを護る作戦も思いついた。

 そして万が一のときには、魔王の討伐ではなく封印に切り替えることも確認済み。

 あとは、時を見て乗り込むだけだ。


 だけど――

 ここに来て、《風》のふたりが具合悪くなってしまっていた。


 エレナと、ネイピア。

 エレナは、先日の『歪み』発見のときから、ずっと微妙な回復を続けているものの、万全とは言えなかった。

 これは、エレナが『歪み』を察知したとき、そこから漏れ出てきた魔王ゼグドゥの魔力に触れてしまったからだろう、とセラムが分析した。

 そもそも精霊は、魔力が結集することで誕生する生命体だ。

 そのため、外部からとんでもない魔力の干渉を受けたら、そのまま身体に異変が出てしまうんだろう。

 実際、先日の立ち眩みがあってからも、エレナは調査を続けていた。と同時に、『風絆結束』を利用した魔力供給もやっていたんだけど、やっぱり同時進行では、回復も不十分になってしまうってことだ。


 そしてそんな中で、ネイピアも身体を壊してしまった。

 日頃のハードワークに、最近の調査活動、さらにエレナへの魔力供給の協力までしてくれていたんだから、いつかこうなることは解りきっていた。


 それでも、ネイピアはいつも通り、すべての仕事を完璧なまでにこなしていた。

 俺たちが手伝いを申し出たら、その分の仕事を増やしたり、休憩を勧めたら帰宅時間が遅くなったりするだけで、むしろ逆効果になってしまうほどだった。


「今回ばかりは体調も崩したんだから休め」

 と言ったところで、

「肝心の作戦には支障をきたすほどじゃないわ」

 と返されるだけだった。


 ただ、やろうとしている作戦が作戦だけに、個々人の体調なんかも重要になってくる。

 特にネイピアは、帝都を結界で覆う役割があるなど、帝都を護るための要だ。


 今回の作戦――

 俺たちが魔王討伐の要であり……

 ネイピアは帝都防護の要であり……

 そしてプリメラは、魔王封印の要である。


 この三点については、緩めることなんてできない。

 なので、ここは妥協せず、エレナとネイピアの回復を待つことになった。


 かといって。

 もちろん、ふたりの回復をただ待っているわけじゃない。

 少しでも早く回復するよう、協力していくんだ。


「エレナ、体調回復のために、俺にできることは何かあるか?」

 さっそく、寮のベッドで横になっているエレナに話をした。

「んー。改めてそう言われると、悩ましいね」

「俺にできることなら、遠慮なく何でも言ってくれよ」

「んん⁉ 何でも言っていいんだね⁉」

 急に声を張り上げて目が輝き出した。

 案外、元気なのか?


「……俺にできることならな」

 そう付け加えてみたけれど、エレナの耳には入っているのかいないのか。

「人間界の婚姻届けとか? ……うーん、でも精霊だと難しそう。それなら指輪とか……ううん。それって私から言うものじゃない気がするし。……あ、そうだ!」


「何か思い付いたか?」

 ちょっと不安になりながら聞いた。

 エレナは、俺のことを真っ直ぐ見てきて、


「私を、抱いて寝てほしいの」


 ……何か、事情を知らない人が聞いたら誤解されそうな言い回しだが。

「それは、いつもしてることじゃないか」


「そうだけど、そうじゃなくて」

 エレナは、上手い言葉を探しているのか、ちょっと考えながら、

「具合が悪くなったら、何か、いつもやってたことが全然できなくなっちゃってるの。それは身体に悪いからやめておこうとか、それはちゃんと元気になったときにやろうとか、そんな感じで、何もできなくなってる。……それが、寂しいの」


 そう言って、哀しそうに、どこか拗ねたように俯いていた。

 具合が悪くなったせいで、『いつも』のことができなくなっている。

 それは、俺にも覚えがあった。

 それこそ子供の頃なんて、風邪をひいて寝込んでいたら、外で遊べなくなったし、孤児院のみんなも「風邪がうつらないように」って遠ざけられていた。

 いつもなら、「ずっと寝てていい」とか「孤児院の手伝いをしなくていい」なんて言われたら喜んでるはずなのに。

『いつも』じゃなくなった病気のときは、逆にそれが辛かった。


 寂しかったんだ。

 自分だけが、みんなと違う場所に遠ざけられているような気がして。

 自分は、みんなの中に居なくてもいいような存在なんじゃないかって、不安になって。


「ねぇジードくん、ダメかな?」

 エレナが不安そうに聞いてきた。

 ……こんな顔させちゃうなんて、俺は酷い男だな。

 俺は、エレナの頭を撫でながら、

「ダメなもんか。俺は、エレナの隣にずっと居るからな」

「やった! えへへ」

 エレナは本当に嬉しそうに、溶けるような笑顔を見せてくれた。


「ほら、早く早く」

「え? 制服のままだぞ」

「いいよ。その方が、今のジードくんの『いつも』って感じだから、ね」


 そう急かされながら、俺はエレナの隣に横になった。

 途端、エレナが両手を回して抱き付いてきた。

「魔力補充中……補充中……」

 歌うように繰り返すエレナ。

 顔までうずめていて、その表情は解らない。

 だけど、補充中の歌は、とても嬉しそうな声なんだ。

 きっと、魔力以外のモノも補充しているんだろう。

 しかも、だいぶカラに近かったみたいだ。俺を抱き寄せる腕に、懸命なほど力が入っている。


 俺からも、エレナのことを抱き寄せる。

「ん」

 エレナの口から、短く声が漏れていた。そしてまた、補充中の歌が始まる。


 ただそれだけの時間。

 俺の心にも、幸せが補充されていっているのを、強く感じられた。

次話の投稿は、本日(6/12)20:00を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。