夜の異性交遊
2巻の第13話です。
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その日の夜。
俺は、エレナとセラムと一緒に、夜の帝都を歩いていた。
人々が寝静まっている深夜。
ほのかに輝く魔法灯の明かりが、点々と街を照らし出している。
遠く外壁の所に見える明かりは、帝国軍の見張り塔。
それよりも高い位置に灯されている明かりは、2つのみ。
王城の大広間と、賢者学園の生徒会室。
大広間では、日中の戦闘の後処理として、ガルビデらによる夜通しの改修作業が行われている。
一方、生徒会室では、今日もネイピアが夜遅くまで学園の仕事をしている。
今、賢者学園の生徒会メンバーは、ネイピア1人だけだった。
そうなったことについては、ある意味、俺たちも責任を負っている。
だから学園の仕事について、いつも「俺たちも手伝うよ」と提案しているんだが、
「貴方たちはあくまで一般生徒なのよ。一般生徒に任せられる仕事は、今は無いわ――」
と、丁重にお断りされてしまうのだ。
「それに、最近になって生徒会から邪魔者が居なくなったせいで、むしろ仕事の効率は上がっているくらいなのよ」
と、お得意の皮肉まで交えていた。
確かに仕事の効率は上がったのかもしれない。だけど、それ以上に仕事の量が増えているだろうに。
それこそ、ついさっき、新しい仕事が増えてもいるんだから。
『999年前の魔王ゼグドゥを、倒す』
仕事と言うよりは、目標と言うべきか。
何にせよ、絶対に成し遂げなければならないことなんだ。
……ただ、現状は、魔王ゼグドゥに対して十分な情報を持っているとは言い難かった。
そいつがどんな存在だったのか――そもそも普通の『人間』と称していいモノなのか。
何をしようとしていたのか。
何ができるのか――『モンスターを司る力』とは何なのか。
どこに封印されていて、どこから復活するのか。
そういった情報を集めながら、魔王討伐のための対策をしていかなければならないんだ。
将来に、変な憂いを残さないためにも。
もし、こちらが討伐のための対策を取る前に、魔王復活の兆候が出てしまったら、その時点で、封印のための対策をとることになっていた。
俺たちは近隣住民を精霊の力で保護して避難させて、そしてその間に、教導士団が封印の儀式を執り行うことになっている。
プリメラの巨大魔法陣を使った、封印作戦だ。
それは、古文書を研究していたガルビデにより、999年前の封印の儀式を再現するかたちで行われるという。
つまり、封印が成功すれば、今後999年は平和に過ごすことができるらしい――
理論上は。
だけど、俺たちには、未来の人間界がどうなっているのかなんて解らない。
実際、俺が精霊界に行っていた666年の間に、この世界の魔法はひどく劣化していた。
これから先の未来には、更なる劣化が進んでいるとも限らない。
……いや。この現代だって、既に魔法は劣化している。そうなると、たとえ999年前と同じ封印魔法を使ったところで、今回も999年もつとは限らない。
……やっぱり、ここで倒すしかないんだ。
俺が、俺たちが、倒すしかない。
そんなことを考え続けていたせいで、今夜は眠れそうになかった。
だから、エレナとセラムを連れ立って、夜の散歩に出ていたってわけだ。
エレナが右手を握って。
セラムが左手を握って。
堂々と、みんな並んで街を歩いていた。
俺たちにとってはお馴染みの位置関係。
たまに左右が入れ替わったりはするけれど、自然とこの並びの方がしっくりくる。
「えへへ。こんなところをネイピアちゃんに見られちゃったら、きっと反省文じゃ済まないかもね」
エレナがイタズラっぽく笑った。
「おいおい、妙なフラグを立てないでくれよ」
俺も冗談っぽく返して笑って、つい辺りを見渡していた。
近くに気配はないようで、思わず安心していた。
「あはは。ネイピアちゃんは、ずっと生徒会室にいるみたいだね」
そう笑うエレナは、どこか少し、寂しそうでもあった。
ネイピアが俺たちに構っていられないほど忙しくて大変だってことは、エレナも解っているから、それがきっと辛いんだろう。
するとセラムが、ポツリと一言。
「666年前の魔王、やはり夜も魔王だった」
「ひどい濡れ衣だ!」
……って言うか夜も紳士だって言ってるじゃん!
そしてエレナも! ちょっと何かを期待してるような目で俺を見るんじゃない!
思わずいろいろ叫びそうになったけど、さすがに深夜の街中だったから自重した。
とはいえ、最初のツッコミは、ついつい叫んじゃっていたわけで。
誰かに聞き咎められて怒られないうちに、今日は戻った方が良いかもしれない。散歩に出たばかりだってのに。
そう思って帰ろうとしたら、
「何か事件ですかー? 『濡れ衣だ』っていう大きな声が聞こえたんですけど」
道の奥に人影が現れて、そんな声を掛けられてしまった。
「あ、いや、すみません大丈夫です。ちょっと冗談を言い合ってただけで……」
つい敬語で返していた。
すると人影は、「あー」と納得したような声を上げながらこちらに駆け寄ってきて、
「誰かと思えば、ジードさんにエレナさんにセラムさんではないですか」
「え?」
そう言われて、改めて宵闇から現れたその姿を見た。
闇夜に浮かぶ白の制服とマント――教導士団の制服を着た女性。
「あぁ、プリメラだったのか……」
思わず安堵の溜息が混じっていた。とはいえ、改めて考えると、別に安堵できるような関係でもないんだけど。
それでもつい安堵してしまっていたのは、彼女の性格や表情にあるんだろうと思う。
「どうしたんだ、こんな時間に」「どうしたんですか、このような時間に」
俺とプリメラの声が重なっていた。言った内容まで同じだった。
俺たちは思わず顔を見合わせて、どちらともなく笑いを漏らした……
「うっ⁉」
急に右手と左手を締め付ける力が強まった。
「ジードくん、不純異性交遊は禁止だよ?」
エレナが満面の笑みを近づけながら言ってきた。
笑顔が却って怖いんですけど⁉
って言うか、エレナの不純異性交遊の判断基準、ネイピアより厳しくね?
「夜の魔王は、私が相手になる」
セラムが俺の左腕を抱きしめながら、気合を込めたように頷いていた。
だから俺は夜も紳士だってば!
て言うか、『相手になる』なんて言い方したら誤解されるって!
「もうっ。抜け駆けはダメだよセラムちゃん。今度こそ、夜の魔王の相手は私もするんだからね!」
ほら誤解されたじゃん。
……て言うか、エレナさんや。お前はいったい何を口走ってるんだ?
「えぇと、悪いなプリメラ。変なところを見せちゃって」
俺は苦笑しながら、プリメラに視線を向けた。
「…………ぁ、ぇ」
プリメラは目を見開いて、顔が夜でも解るほど青ざめていて、めちゃくちゃドン引きしていた。
……あ。こういうネタが苦手なタイプか。
「ホント悪かった。今の話は、すっぱり忘れてくれると有り難いんだが……」
「……あ、いえ、大丈夫、ですよ」
まったく大丈夫じゃなさそうだった。
するとプリメラは続けて、
「その、日中の話もあったせいで、『魔王』と聞いただけで、少し、驚いてしまって」
そう言うプリメラの声は震えていた。
きっと、驚いたわけじゃないだろう。
もっと単純に、怖いんだ。
先ほど少し話を聞いただけでも、今回の魔王封印作戦では、プリメラの魔法陣が肝心要になっているんだ。
まさに、プリメラの魔法陣の技術が無ければ、今回の作戦は成り立たないくらいに。
そして同時に、帝都で生きる20万人の人々の命が懸かっている。
それだけじゃない。
この人間界で生きるすべての命が――
さらには精霊界に暮らす精霊たちの命も――
プリメラの魔法に懸かっていることになる。
そんなことになって、怖くないわけがないんだ。
次話の投稿は、本日(6/11)21:00を予定しています。




