魔王討伐の作戦会議、だが
2巻の第11話です。
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「私は長年、教導士団として、歴史書の研究を続けてきた。そして最近になって、この帝都の歴史の中に、封印999年の魔王が居ることと、懲役666年の魔王が居ること、そして、現代ではそれらが融合して伝承されてしまっていることに気付いたのだ」
ガルビデは、論理的に説明をしてきた。
「一方は、落ちこぼれで魔法を使えないような男が、己の境遇に不満を抱いて皇帝に叛逆し、精霊界へと追放された話――」
と、ガルビデは俺を見ながら言ってきた。
いやそこは間違ってるじゃないか。何が研究してきただよ。結局、賢帝の良いように捏造された歴史じゃないか。
そう思いながらも、ここはそれを言い争う場じゃない。俺は適当にあごでしゃくって、先を促した。
「そしてもう一方。こちらは、世界の二大魔法士により、権力を巡って魔法大戦が勃発した、と伝えられているものだ――」
その話は、俺たちも図書館の地下書庫を整理する中で見つけていたものだ。
『残虐な魔王』だとか。
『当時最強の魔法士が、政争に敗れて封印された』だとか。
そして、999年前に、最強の魔法士同士の魔法大戦が勃発していた、と。
そう思っていたのだが。
「――だが実は、ここでも、『魔法が使えない男』がカギを握っている」
「……え?」
「ここに言う『二大魔法士』のうち一方は、実は魔法以外の力を使い、肝心の魔法は使えない者だった、ということが解ったのだ。というのも、複数の史料を合わせて検討した結果、その『男』が操る力は、およそ魔法の力として説明することができないようなものだったことが判明したのだ」
「『魔法以外の力』だって? それは、いったい何なんだ?」
俺は興味もあって思わず聞いていた。すると今度は、ガルビデも素直に答えてくれた。
「まさに、『魔王』と呼ぶに相応しい力だと伝わっていた。その伝承通りに言うならば、魔王ゼグドゥは、『モンスターの力を司る』のだと」
「モンスターの力を、司る……?」
俺は言葉を繰り返していた。予想外の言葉に、理解が追い付かない。
「正直なところ、私も詳しいことは解っていない。ただ、その力はあまりに強大だったと聞いている。たとえば、その争いの際に大地が砕け、それにより無数の島が生み出された、とも伝わっている」
それは、この世界の創世記の一説にもある話だな。
「この大戦中、魔法勢力の側は、一時的に壊滅の危機に追い込まれたと言われている。だが、その状況を覆したのが、いわゆる『封印魔法』だったということだ。脅威となる者を別世界に放り込んでしまって、世界の平和を維持しようとしたのだ」
「世界の脅威を追放してしまえば、その世界は平和、か……」
まるで、ゴミを外に放り投げたから家の中は綺麗だ、と言っているかのような単純さだった。
何より、脅威が追放された先にとっては、迷惑な話だ。
……迷惑くらいで済めば、まだいい方かもしれない。それで危機に瀕したり、身代わりみたいになって滅ぼされたりしたら、やるせないし、許せないだろう。
「今の団長さんの話を歴史と説くか、はたまた伝説と説くかは解らないけど――」
いずれにせよ、一つ言えることがある。
「どうやら『魔王ゼグドゥ』ってのは、本当に存在しているみたいだな。……そしてそれが、復活しようとしていると?」
「……その通りだ」
ガルビデは、どこか苦しそうな声を絞り出すように答えて、
「奇しくも、999年前に封印された魔王の封印も、今年になって解けてしまう予定となっているのだ。そのため、今、この瞬間にも、魔王ゼグドゥは復活してしまうかもしれないのだ」
「そいつは、嫌な偶然だな」
思わず皮肉を込めて苦笑する。冗談めかすことで、少しでも空気を緩めたかった。
もっとも、まったく空気は緩まなかったけれど。
「魔王ゼグドゥの力は、絶大だ。たとえ我々が束になってかかろうとも、彼を倒すことなどできないだろう。絶対に」
ガルビデは力強く断言してきた。ただ、声は少し震えたままだった。よく見ると、ガルビデは全身を小刻みに震わせている。
そこまで、魔王ゼグドゥは怖ろしいってことなのか? 『モンスターの力を司る』とかいう力が。
「絶対に倒せないって、でも、ゼグドゥは復活しようとしてるんだろ? いったいどうするつもりなんだ?」
それこそが、この会合の本題のはずだ。
ガルビデは、気を落ち着けるように一つ深呼吸をしてから、
「我々は、魔王の封印を強化することにした。今年が999年後となって魔王の封印が解けるというのなら、ここで封印を強化して、封印の期限を延長させるのだ」
「封印の延長、ねぇ」
「そうだ。そのために副団長として、このプリメラに参加してもらうことになっている。彼女は、巨大魔法陣の生成を得意としている珍しい魔法士だ。その巨大魔法陣を用いて、魔王ゼグドゥの封印の儀を執り行うのだ」
ガルビデの言葉を受けて、プリメラが一歩前に出た。
その表情は、少し緊張しているようだったけれど、とても誇らしげに見えた。
これが、『世界を救う』ってことの真相か。
ただ、俺はどうしても納得がいかなかった。
「ここでまた封印するってことは、つまり、問題の先延ばしってことじゃないか。結局、将来の住民に重荷と責任を負わせるだけで、根本的には……」
「愚弄をするんじゃない!」
ふいにガルビデが叫んだ。
……なるほど。
どうやら皇帝陛下の案らしい――あるいは、皇帝陛下の威を借るガルビデ本人の案か。
いずれにしても厄介だ。
「これは単なる先延ばしではない!」
ガルビデは力強く断言してきた。
「これから数百年、封印を延長させることによって、我々は大きな猶予期間を得ることになるのだ。そこで我々人類は、魔法を成長させてゆく。まさに、『超ミスリル級』として賢帝マクガシェル様を越えたように、数百年後の子孫は我々の魔法をも超えてゆくだろう。そして、ふたたび魔王ゼグドゥが復活するころには、より魔法を強化させた人類が、必ずや魔王を倒してみせるのだ!」
ガルビデは怒気をあらわに、真剣な視線で俺を突き刺してきた。
「……本気で言ってるのかよ」
「なんだとっ⁉ 当然だろう!」
それを聞いて、俺は思わず、周りを憚らずに大きく溜息を吐いていた。
「なぁ、俺は666年前から来たんだよ。それはあんたたちも知ってるだろ」
「それが、どうしたというのだ? まさか、自分の方が先輩だとか年上だとか言って従わせるつもりではないだろうな?」
そう言われて、俺はふたたび溜息を吐いた。
「あんたたちの魔法は、666年前よりも弱くなってるんだよ!」
「……は?」
「『ミスリル級』とか言いながら、ミスリルを粉砕することすらできない。『賢帝を越えた』とか言いながら足下にも及んでいない。この666年間、あんたたちは魔法を衰えさせてきたんだ!」
「なっ⁉ 何だと⁉」「えっ⁉」
教導士団の面々があからさまに困惑していた。
プリメラも一緒になって、目を見開いて固まっている。
それはそうだろう。
ガルビデが話した封印計画は、時が経てば魔法が強くなっていくことを前提にして考えられているんだから。
だけど、そんな前提は成り立たない。そのことを俺はよく知っている。
まさにこの目で見てきたし、それどころか、いわば最前線で、それぞれの時代の最強の魔法士から魔法を喰らってきたんだ。
これ以上の証言は無いだろう。
ガルビデの主張は、前提から破綻しているんんだ。
時を経ても魔法が強くならない以上、ここで魔王を封印したところで、何の意味もない。
それどころか、事態は悪化するだけだ。
自分の子孫たちに厄介ごとを押し付けるだけの先延ばし――いわば時限起爆の魔法を放つようなものだ。
しかも、自分たちより弱まっている子孫たちに、ツケを回そうとしているという。
そんなことをしたら、いっそう解決から遠ざかるだけなんだ。
「で、でたらめを言うな!」
ガルビデが困惑しながら叫んでいた。
「でたらめなんかじゃない。ここには、666年前の魔法を目撃していた証人が複数いるんだからな」
俺はそう言いながら、エレナとセラムと並んで、ガルビデを見た。
「お、お前たちは、結託して嘘をつくことができるじゃないか」
「嘘をつく意味なんてないじゃないか」
俺は溜息を混じらせながら、
「だったら、ちょうどあんたが調べてきた書物に書いてあることを話そうか。あんたが言うには、999年前、魔王ゼグドゥは魔法大戦の中で大地を砕き、無数の島を作ったという。じゃあ、この中で、魔法を使って大地を砕いて島を作れる奴はいるか?」
「そ、そんなものは居ない、だがそれは詭弁だ! そもそも、それは999年前の、しかも規格外に強大な魔王の話ではないか! それほどの力と比較したところで、誰も勝てないというだけではないか」
「だとしても、それから999年も経っているなら、人間の魔法も成長していないとおかしいだろう? 団長が言っているのはそういう話のはずだ」
「それは、そうだが……」
「だったら、999年もあれば、人間の中に『魔王』と同等の力を持った魔法士が出てきていてもおかしくないはずじゃないか。っていうか、そういう存在が出てきてくれないとおかしいっていうのが、あんたの作戦の前提になってるじゃないか」
「ぐ……」
「結局のところ、魔王ゼグドゥを封印するにしても倒すにしても、魔王に匹敵するほどの力がなければ、どうしようもないんだ。今は勝てないから未来に託す、なんて話は、ただ無責任に問題解決を放棄しているだけなんだよ」
「だ、だが、それでは、人間は魔王ゼグドゥに滅ぼされろと言うことではないか」
「そうじゃない」
俺は、ガルビデを真っ直ぐ睨み返しながら、
「ここに、魔王に匹敵する力を持ってる奴が居るじゃないか」
そう言って、自分のことを指さした。
次話の投稿は、本日(6/11)20:00を予定しています。




