帝国教導士団登場。そして……
2巻第4話です
授業中、ふいにネイピアから声を掛けられた。
「観覧席、厄介なのが来てるわ」
「え?」
ネイピアの視線を探るように、こっそり観覧席を見やった。
すると、生徒や軍人など赤色の服が多い中、一点だけ、白服を纏った集団が居るのが目に留まった。
白の制服に、白のマント。
同じ服装をした者が、5人、集まっている。
周囲の人たちも、誰もがその集団を気にしているのがありありと解る。
「『教導士団』の連中よ」
「へぇ。教導士団って、666年前にもあったけど、それと同じなのか?」
「そうね。その時代から変わってないはずよ。魔法教育のための教官を育成・指導し、また軍人の育成も担っている組織。……あぁ、666年前と違っているのは、全員が『賢帝マクガシェル』の子孫で、賢者学園を卒業しているという点ね」
教官や軍人を指導する立場、それは必然的に、彼らが魔法学校の教官よりも強く、そして軍人よりも強い、ということを意味している。
もっとも、666年前は、魔法学校だろうが軍隊だろうが教導士団だろうが、あらゆる組織が皇帝マクガシェルの意のままに動いていた。マクガシェルは、この国のすべてを一人で支配する絶対的な強者として、君臨していたんだ。
当時、あの不平等な『精霊魔法』という圧倒的な力を前にしては、教導士団だろうが一般軍人だろうが差なんて無く、みんなマクガシェルに従う駒になるだけだった。
果たして、666年後の現在は、どんな組織になっているのやら。
「わざわざ俺の授業を見てるってことは、俺の教育内容を指導しに来たってことかな?」
冗談っぽく言うと、ネイピアも皮肉っぽく微笑んで、
「逆に彼らこそ、この授業を受けて、これまで間違った教育内容を押し付けてきたことを指導されるべきだわ」
と言い捨てた。
相変わらず、皮肉の切れ味が鋭い。
「ちなみに質問なんだが、彼らの中で、聖霊大祭の成績が一番良いのは誰なんだ?」
それを知っていた方が、後々いろいろと接しやすい、と思ったんだが……。
「教導士団は、聖霊大祭には出場できないわ」
「うん? 聖霊大祭って、マクガシェルの血を引く魔法士全員が出るんじゃないのか? 皇帝を決めるんだろ?」
「魔法士だからって、誰もが皇帝になりたいわけじゃないもの。中には、軍の前線で戦いたいから出世したくないとか、そもそも人前に出たくないなんて考える魔法士もいる」
「あぁ、確かにそうか」
「それに、試合には必ず審判が必要でしょう? 皇帝になりたがらない彼らは、聖霊大祭に選手として出場することはなく、審判を任されているのよ」
「なるほどなぁ」
俺が納得すると、ネイピアはどこか含みを込めたような笑みを浮かべて言ってきた。
「聖霊大祭は、誰もが『自分こそ最強』と信じながら、それを証明するために出場する。その勝敗は、まさに魔法士の運命を決定することになる。過去に何度も、結果に納得できず乱闘が起こったこともあった。それを収めるのも審判の役目なのよ」
そう言われて、その言葉の意味を察した。
「つまり、必然的に、選手よりも強い必要があるのか」
「ええ。少なくとも、連覇中だった某選手が私に負けたとき裏で暴れていたのを、外部に一切バレることなく沈静化した、という実績を持つ男が、あそこに居るわ」
「……なるほど」
そのときの光景が目に見えるかのようだった。
かつて聖霊大祭を連覇し、そして最新の聖霊大祭では2位に終わった、コルニス・キルス。
彼が結果に納得できず暴れ回っていたであろうことは、想像に難くない。俺との付き合いは短かったけれど、アイツの性格はいやと言うほど解っていた。
「こちらから見て左端の男。あれが教導士団長のガルビデ・ヘリオストスよ。少なくとも、彼がコルニスよりも強いのは間違いないわ」
そう言われて、俺はさりげなく観覧席に視線を送った。
白服の集団。その左端には、金髪をオールバックにしている長身の男が立っていた。年は30代だろうか。遠目に見ても、鋭すぎる視線がこちらを刺してくるかのように感じられた。
隣に立っている団員と比べると、頭一つ高い――30㎝差はある。どれだけ長身なんだ。
と思ったら。
よく見ると、隣に立っていたのは女性だった。
「この時代は、女性団員もいるのか」
666年前には男しか居なかった。
というか、教導士団だけじゃなくて、帝国の主要な組織の幹部や上級の役職は、すべて男性に占められていた。
それは別に男女差別があったとかじゃない。むしろ昔から、人間社会は魔法の能力による絶対的な階級が構成されていたほどだ。
長年、魔法理論の基礎とされている『魔法支配論』――いわゆる『命令形の魔法』は、乱暴な口調で使った方が効果が高い。
そうなると、女性よりも男性の方が、激しい口調による脅しの効果が強くなり、それによって魔法の威力が強くなりがちなのだ。
そんな『魔法支配論』は、今現在も魔法教育の基礎にされている。ウーリルやルーエル、そしてネイピアも、命令形の魔法を使っていた。
ただ、そんな男性優位の魔法理論が席巻している中で、聖霊大祭を優勝したネイピアは、いったいどれだけ強烈な『命令形の魔法』をやっていたのやら。
前も彼女は、少し自嘲気味に「私がどれほど強烈に命令形の魔法を放ってきたか」なんて言っていたけれど、それは並大抵のレベルじゃなかったってことなんだ。
それは、彼女の性格が悪いっていう話じゃなくて。
彼女は他の誰にも絶対に負けないという強い意志と、それを実践するための懸命な努力の話なんだ。
つまり、教導士団にいる女性団員も、ネイピアと同じようなことをしてきたのかもしれない。
そんなことを考えていると、ネイピアが言った。
「プリメラ・イーサ。彼女は、現職の教導士団で唯一の女性団員ね」
「へぇ」
「と言っても、彼女の魔法自体は、それほど強くないわよ」
「そうなのか? ……って言うか、ネイピアから見たら誰だって強くないだろうよ」
「あら。お褒めに預かり光栄ね――」
ネイピアは、あまり光栄でなさそうに言ってから、
「そもそも彼女は、『魔法を争いに使いたくない』なんてことを言っているような人だから、魔法で強くなろうなんてまったく思っていないのよ」
「へぇ。そりゃまた、魔法士にとっては難儀な性格をしてるな」
魔法の力は、心の力でもある。
魔力というエネルギーを、どのように、どれくらい使うのか。それを決めるために重要なのが、心の在り方なのだ。
魔力だけがあってもダメだし、心だけが強くても魔法は強くならない。
最初から戦うことや勝つことを願わないで魔法を放っても、魔力を上手く使うことができず、その威力は伸びないだろう。
……でも、それは逆に言うと、これからの伸びしろがあるってことかもしれないんだが。
と、ついつい魔法理論の観点から分析しようとしていた。俺の悪い癖だな。
すると、ネイピアがおかしそうに笑って、
「彼女はね、聖霊大祭の審判をやりたいから教導士団に入ったそうよ」
「審判を? それもまた変わった動機だな」
思わず苦笑すると、ネイピアは怪訝そうな表情になって、
「と言うか、彼女はつい2、3ヶ月前、いきなり副団長に抜擢されたのよ」
「うん? 何だかきな臭い話だな」
「実際に、一部では、政治的な影響力がはたらいて、今の地位を与えられたんじゃないか、なんて言われてるわね――」
ネイピアは皮肉を込めたように笑うと、
「なにせ彼女は、現皇帝の姪なんだから」
と教えてきた。
「なるほど皇帝の……皇帝の姪? つまりそれって」
「ええ。教導士団副団長プリメラ・イーサは、私の従姉なのよ」
そう言って、ネイピアは眉根を寄せながら苦笑していた。
次話の投稿は、本日(6/10)20:00を予定しています。




