表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
53/122

激突する、666年間の想い

第53話です。

 聖山シュテイムが、崩壊している。


 オリハルコンゴーレムの《土》の魔力が、ミスリル鉱山をぶち壊したんだ。

 帝都の北側にそそりたつ《土》の塊が、帝都の街に襲い掛かっていく。


「くそぁ!」

 俺は霊装エレナの高速移動でオリハルコンゴーレムの懐に飛び込む、と同時に、霊装セラムの一撃がオリハルコンゴーレムを凍り付かせた。


「く、は、は、はっ……! いまさら、俺を倒し…ても、崩落は、とま、らん……」

 そこに霊装エレナの連撃を加えて、オリハルコンゴーレムは、粉微塵に崩れ去った。


 そしてすぐにもう一つの、最大の敵に向き合う。

 聖山シュテイムが、巨大なミスリルの津波となって、帝都に向かっている。

 こんなもの、ネイピアの結界では防ぎようがない。

 この速度、みんなを避難させようとしても間に合わない。


 崩壊を《風》で押さえられるか? 《氷》で凍らせることは? ……いや無理だ。

 崩壊する山の中にあるのは、ミスリルだけじゃない。オリハルコンが混じっている。

 これじゃあ魔法を放ったところで、オリハルコンによって無効化される。少なくとも威力がかなり削がれることは確実だ。

 そうなると、いくら精霊魔法でも、霊装の力でも、この山の崩落を押さえきるほど広範で強力な魔法は使えない。


 どうする?

 どうやったら街を救える⁉

 帝都の街を救わなくちゃいけないんだ! どうすればいい!


 街をすくう方法が……

 ……あぁ、なんだ、あるじゃないか!

 ふと思いついた案があった。


「山の崩落が止められないなら、止めずに街をすくえばいいんだ!」


 俺になら……俺たちになら、できる!

 俺はすぐにエレナにそのイメージを伝えて、セラムにその理論を伝える。

 ふたりならそれで理解してくれる。


「エレナ! セラム! 行こう!」

 言うが早いか、俺たちは《風》を纏って帝都へ向かって飛んだ。

 全速力の飛行。一気に山崩れの波も追い越していく。

 そして、帝都の防壁の前まで来ると、一つ、霊装エレナを両手で持ち替えた。

「やるぞエレナ!」

 叫びながら、己の魔力を鼓舞させる。


「帝都グランマギアを、《風》で浮かせるんだっ!」


 これこそが、『街をすくう方法』だ!

 崩落が止められないなら、街の方を掬い上げてしまえばいい!

 ミスリルの外壁に囲まれている、帝都グランマギア。それを丸ごと持ち上げることで、その下を山崩れが流れ通るようにしてしまうんだ!


「ふっふん! やってみせるよ!」

 霊装エレナの纏う《風》が、一気に威力を増す。

 ここに俺の魔力が加われば、できる!

 鋭く、素早く、長く、深く……

 俺は、霊装エレナを薙ぎ払った。


 大地を抉る《風》の刃。

 花も草木も、土も石も、鉄だろうがミスリルだろうが、霊装の一撃の前には何の抵抗も生じない。

 帝都の地下を抉り取るように、深々と、広々と、穴が穿たれた。

 霊装の一撃で、帝都の街を、大地から切り離したんだ。

 さぁ!

《風》の通り道が開いたぞ!


「上がれぇぇぇぇぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」


 霊装エレナに、ありったけの魔力を注ぎ込んでいく。

 強烈な《風》が巻き起こり、帝都の地下に流れ込む。

 周囲の草木を根こそぎ吹き飛ばし、野生のモンスターたちを粉砕しながら、帝都の街が揺れている。

 そのまま、じわり、じわりと、上昇していく。

 もう少し……もっと! もっとだ! もっと上げないといけないんだ!

 もっと速く! もっと高く!


 なのに……

 ……魔力が、足りない⁉


《風》が、これ以上強くならない。

 もっと上げなくちゃいけないんだ!

 山崩れから、街を避難させるんだ!

 なのに……

 俺たちの力じゃ、足りない……


「力を貸すわよ」


《風》が声を乗せてきた。

 ネイピアの声だ。


 そして、そこに一本の長い《糸》が運ばれてきた……

 いや、違った。

 一本なんかじゃない。

 数百……数千……数万の《糸》が、俺に向かって伸びてきていた。


「《風》が教えてくれたわ。貴方の作戦を。そしてそれと一緒に、こんな魔法の使い方も教えてくれた。糸で紡いだ相手に魔力を与える魔法――『風絆結束(チェンバイン)』」


 それは、俺たちが出会ったときに喰らった束縛魔法――『自縄風縛(チェンバイン)』と同じ名前。

 だけど、意味は全く違っている。

 込められた想いが、違うんだ。


「帝都に暮らす20万の人が、あなたに力を送る。だから、ジード・ハスティ。……お願いだから、この街を救って! 私たちの故郷を助けて!」


 ネイピアが、その想いを叫ぶ。

 帝都の代表として、みんなの想いを俺に伝えてくる。


「あぁ、約束する!」

 俺は、その想いも全部受け止めて、立ち上がる。

 次々と、《糸》を伝って魔力が送られてきている。

 帝都中に広がる《糸》から、俺の身体に、魔力が流れ込んでくる。

 その力を、一滴も無駄にはしない!


 これが、みんなで放つ『魔法(想い)』だ!


「飛べっ! 帝都グランマギアアァァァァァァッッ!」

 渾身の魔力を込めて、霊装エレナが《風》を巻き起こす。

 力強く大地を削り、持ち上げていく。

 持ち上げて、持ち上げて……

 そして、優しく支えて、包み込む。


 今、帝都グランマギアは、30m以上の上空に浮上していた。

 そして、その下を、山崩れの土砂が掠めていく。

 ミスリルの岩石とオリハルコンの欠片が、大地を抉り、砕いていく。

 だが、帝都には指一本、触れさせていない。


 帝都は、助かったんだ。

 みんなの力で、護ったんだ!


「ジードハスティィィィィィィィ!」


 オリハルコン・バラゴスが、背後から襲い掛かってきた。

 ヤツは死んでいなかった。山肌に溶け込み、俺の隙を狙っていたんだ……

 ……だが、そんなことは気付いていた。

《風》の流れが教えてくれていた。

 みんなの力が吹かせてくれた、一陣の風だ。


 そこに、霊装セラムの一閃が走る。

 オリハルコン・バラゴスの胸に、深く、突き刺さる。

 動きを止め、音を止め、そして魔力回路をも止めて……

 すべてを終止させる、《氷》の一撃。


 オリハルコン・バラゴスは、完全に凍り付き、そして、砕け散った。

 ここに、666年にも及ぶ恨みが、滅んだ。

 ずっと、ずっと恨み続けていたキルス家の呪いは、今、断ち切られたんだ。


「……俺は、恨み続けなくてよかった」

 思わず口から漏れた言葉。

 あるいはオリハルコンゴーレムは、俺の『666年後の姿』だったのかもしれない。

 俺にだって、マクガシェルやバラゴスを恨み続ける可能性は、あったんだから。


 だけど、俺はそうならなかった。

 俺のことを助けてくれるひとたちが居てくれたから。

 愛するひとたちが居てくれたから。


 俺は、666年間、ずっと愛し続けることができたんだ。

 恨む以上の強さで、愛することができていたんだ。

 その充実感を噛み締める。


「エレナ、セラム――」

 霊装を解いた姿で、俺の隣に並んでいるふたり。

 エレナが満面の笑みを浮かべていて――

 セラムが穏やかな笑みを浮かべている。

 そんなふたりの笑顔に、俺は自信を持って言えることがある。


 あの懲役666年間は、俺にとって本当に、幸せな時間だったんだよ。

次話の投稿は、本日の20時30分を予定しています。


ついに次話にて、一巻最終回です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ