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秘術に込められた、真の秘術

第52話です。


 10体までは数えていた。

 20体までは感覚的に解った。

 30体は越えたのか?

 もう50体にも迫るかもしれない……。


 霊装エレナの《風》で懐に潜り込み、霊装セラムの《氷》で凍結、破壊する。

 これはいつまで続くのか……

 俺はいつまで続けられるのか……

 そんなことを考える意味は無い。ただひたすら切り続ける。


 何十なのか、何百なのか、オリハルコンゴーレムの群れが俺に襲い掛かってくる。

 それは、まるで、666年間の積年の恨みを数えているかのようだった。

 バラゴスから始まり、コルニスまで続く、キルス家の666年間の想い。

 彼らは、ずっと、復讐を願い続けてきたんだろう。

 俺たちが精霊界で暮らしている間にも、ずっと、恨み続けていたんだ。

 復讐のためだけに、この666年間……。


 俺は、エレナとセラムと共に、オリハルコンゴーレムの群れを断ち切り続けた。

 いつまでも続くように思われた戦いも、終わりは来る。


 最後の一体が、そこに居る。

 悠長に、背中を向けながら、そこに立っていた。

 だがそいつは、見るからに、これまでのオリハルコンゴーレムとは違っていた。

 まるで、人間のような体躯。身長も俺と変わらないほどだった。


 やがて、それが振り向いた。

 それは、見知った顔をしていた。

 その男は、もう死んでいるはずなのに。


「……ジード・ハスティ」

 そいつは、言葉を発した。

 そしてそいつは、続けてこう言った。


「……貴様は、懲役666年に処したはずだっ!」


 ……お前は、600年以上前に死んだはずだっ!

「バラゴス・キルス⁉」


 俺が彼の名を呼ぶと、バラゴスの姿をしたゴーレムは、激昂の表情を浮かべた。

「お前のせいでぇ! お前のせいで私はぁ! 抱えたくもない秘密を握らされ、『賢帝』などというおとぎ話に加担させられ、一生! 末代まで! 皇帝の補佐として生き続けなければならなくなったのだっ!」

「……よく言うぜ」


「そして、今度は俺の人生を潰しやがったんだ!」

 ふいにゴーレムの声が変わった。

 と同時に、その姿も液体金属のように歪んで、変わった。


 その姿は、どう見ても、コルニスだった。


 ……なんだ、これは?

 何が起こっているんだ⁉


「俺は、聖霊大祭連覇の魔法士だ! 次期皇帝の最有力候補なんだ! それを貴様は! ……貴様たちはぁっ!」

 コルニスの姿をしたオリハルコンゴーレムが殴りかかってきた。

 俺は霊装セラムを構えて防御態勢をとる。

 だが、ゴーレムの腕は不気味に歪曲し、剣の防御を掻い潜ってきた。


「がっは⁉」

 みぞおちに食い込む重い一撃。血と胃液の混じった物を吐き出す。

 この動き、他のゴーレムなんかとは違う。まるで俺の動きを見極めているかのよう。

 ……コルニスは、暴走したゴーレムに喰われたんじゃないのか?

 だとしたら、そこに制御魔法なんてものは存在しない。そこにあるのは、単純な攻撃パターンだけのはず……


 ……おかしい。

 なぜ喋れる?

 なぜ防御を掻い潜るような動きができる?

 まるで、人間並みの頭脳を持っているかのように。


「……まさか」

 一つの仮説が浮かんだ。

 制御魔法が無いために暴走するゴーレム、その攻撃は、いわば頭脳の無い本能的な攻撃しかできない。

 ……だが、もしも。

 制御魔法の代わりになるような、頭脳があったら?

 オリハルコンの肉体と、人間の頭脳を持つ生命体が作れるとしたら?


「……あんたたちは、ゴーレムに『喰われた』んじゃないな」

 俺は、その仮説から導き出された推論を、ぶつける。

「あんたたちは、ゴーレムに『喰わせた』んだ! 自分の身体を! 自分の頭脳を! それが、この666年間続いていたキルス家の、本当の秘術なんだな!」


 オリハルコンゴーレムが――いや――オリハルコン・コルニスが、ニタリと笑う。

 その胸部にはバラゴスの顔が、そして肩には……腕には……頬には……指には……

 歴代のキルス家の魔法士たちが、ニタリと、笑顔を浮かべていた。


「そうだ! これこそがキルス家の秘術! 想いを伝えるキルス家の絆ぁ! 子々孫々、生まれたときより四肢を切り取り、《土》の身体と共に生きてきた集大成! 今こそキルス家666年の悲願によって、貴様らもろとも、憎きマクガシェルの血族を滅ぼしてくれるわ! ふはははははぁっ!」


 バラゴスが絶叫し笑った、その次の瞬間――

 ドゥンッ! ゴォォォォ!

 ふいに激しく突き上げるような地震に襲われた。長い轟音が響き渡る。


「じ、地震⁉」

《土》魔法の地形攻撃か⁉

 俺は《風》を纏って身体を宙に浮かせる。もはや地面には立っていられなかった。

 まるで、大地全体が崩れていくような……。

 それこそ、この山全体が崩れて……


「……あぁ」

 やりやがった。

 やられてしまった!

「……ふざ、けるなぁ!」


「あはははははふははははははくははははははははははははははははははははははっ!」


 キルス一族の笑い声が幾重にも重なり、響き渡る。

 ……こいつら、これが最初から狙いだったのか⁉

 俺たちの足元を激しく揺らしている、その正体は……。


 土砂崩れ。

 ……いや、そんな言葉すら生易しい。


 聖山シュテイムが、崩壊していた。

次話の投稿は、本日の19時30分を予定しています。

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