表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/122

vsオリハルコンゴーレム

第51話です。



 聖山シュテイムの中腹に現れたモンスターの姿――

 アレは間違いなく、オリハルコンゴーレムだった。


 ネイピアの声が、生徒会室から《風》に乗って、帝都中に響く。

「聖山シュテイムに、ミスリルを超える魔法耐性を持つゴーレムが出現したわ。市民は避難所に退避! 街壁の外に居る者は急いで街の中に退避しなさい!」


 聖霊大祭の覇者として、そう命令するネイピア。

 形式的には軍の指揮権は皇帝にあるが、現役最強のネイピアの方が実質的には発言力が強いらしい。

 それを活用することで、とにかく被害を出さないようにしてもらうしかない。

 だからネイピアの口を借りて、全市民に伝えてもらった。


「すべての魔法士は、決して戦闘に出ないこと。『ミスリル級』も『シルバー級』も関係ない。絶対に戦闘に出てはいけない。さもないと、殺されるわよ!」


 生徒会室からオリハルコンゴーレムを監視しながら、街の様子も確認してゆく。

 相手は、《土》の魔法が造り出したモンスターだ。

 その力は、《土》に関するあらゆる下位物質を使役することができる。

 オリハルコンゴーレムが指示を出せば、聖山シュテイムにある全てのミスリル鉱石が、一瞬にして高純度のミスリル武器となって襲い掛かってくる、なんてこともありうる。

 言うまでもなく、鉄やただの土も意のままに操ることができるんだ。

 相手は、人間界のあらゆる物質をはるかに凌駕する、精霊界最硬の金属なのだから。


 だからこそ、こうして最硬のゴーレムが完成してしまったのを目の当たりにした以上、慎重に対処しなければならなかった。

 ……なのに。


「止まりなさい! 軍隊の出動は認めないわ! 戻りなさい!」

 ふいにネイピアの怒声が響き渡った。

「ジードくん、あそこ!」

 エレナが機敏に察知して、一点を指さした。

 そこには……城下の広場には、既に帝国軍の隊列が組まれ始めていた。


「……なんでだ」

 あんなの、ゴーレムにとっては食事の準備を進めてるようなものだ。

 あんなに一点に魔力が集まったら、そこを狙えと言ってるようなものじゃないか。

 なのに次々と、軍の魔法士が集結している。

「生徒会には負けていられない、ということなんでしょうね。皇帝の権威が掛かっているんでしょう」

 ネイピアが忌々しげに言い捨てた。

 ……そんなことで、兵士たちの命が懸けられているのかよ。


 ふと、帝国軍の隊列の中に、見覚えのある格好を見つけた。

 ウーリルとルーエルだった。

 どうやら地下施設に居たわけじゃなかったらしい。そのことには少し安堵した。

 と同時に、想像したくない光景がよぎってしまった。

 二人の姿と、ナックの姿が重なってしまって……。


「……来る」

 セラムの声。

 俺は弾かれるようにゴーレムを見やった。

 ゴーレムが、向きを変えて動き出していた。

 まさに、その食事に適した場に向かって。


「……させるか!」

 俺が叫ぶと同時に、エレナとセラムが隣に立って手を握ってきた。

 ここは俺たちで何とかするしかない……けど、避難と戦闘を両立することはできない。

 特に、このまま軍が進行していったら、邪魔でしかない。

 オリハルコンゴーレムが居るのは、山の中腹。

 存分に《土》を使える環境だ。

 そんな場所でゴーレムを相手にしたら、間違いなく大打撃を食らってしまう。


「防衛と避難は私に任せて。貴方たちは、彼ら足手まといが来たら邪魔でしょう?」

 ネイピアが鋭く察して、すぐに魔法陣を展開していた。

「……お願い、私の声に応えて――『風鎖結界(アレストバイン)』!」

 直後、魔法陣から光の《鎖》が放出され、一瞬にして帝都全体を――外壁ごと覆い尽くすように、網目状の壁を作り上げていた。


「さぁ。これで、私の結界を破れないような魔法士は、この街から出られなくなったわよ」

 そんなことを飄々と言ってのけるネイピア。

 要するに、帝都の魔法士は全員、街から出られないということだ。

 あの相手、あの地形では、一人の足手まといでも命取りになるだろう。

 後方を守ってくれているなら、俺は思う存分、戦える!


「ありがとうネイピア。……さぁ、行くぞ!」

 そう叫んだ時には既に、エレナとセラムは俺と手を繋いでいる。

 二人の姿が光に包まれ、そして、真の姿を見せる。

 霊装エレナ。

 霊装セラム。

 ふたりの力があれば。

 そして、その力を最高に発揮できる俺がいれば。

 精霊界最硬のオリハルコンゴーレムも敵じゃない。

 俺たちは、エレナの《風》を纏い、飛んだ。


 ネイピアの結界を傷つけることなく突破し、一瞬にして、聖山シュテイムの岩肌が迫ってくる。

 そしてそこに立つ、白金色の人型の巨躯――オリハルコンゴーレム。

 体長は5mほど。腕の一番細い部分でも直径70㎝はあるだろう。胴回りに至っては、直径3mを優に超えている。

 そして至る所から、鋭い刃やトゲが突き出ている。それに触れただけでも、人間の身体なんてゼリーみたいに微塵切りにされてしまうだろう。

 先手必勝! 下手なことをやられる前に、倒してやる!


 魔法耐性のある敵への対処法は、心得ている。

 そもそも魔法耐性というのは、つまり、魔力回路の少なさと、狭さだ。

 魔力の通り道である魔力回路が小さく、少ないために、生半可な魔法を放ったところで影響がない。

 それは逆に言えば――

 その少なく小さい魔力回路であっても、莫大な魔力を流し込んでしまえば、魔法は効く。


 小細工も知略も不要!

 魔法耐性を超える一撃を放ってやればいい。

 それが対処法だ。


 ちなみにオリハルコンは、かつて、霊装の一撃すらも耐えたことがあるらしい。

 だけどそれは、霊装の力をちゃんと発揮できていなかったせいだ。

 俺たちなら、できる。

 666年間の想いが積み重なった霊装なら、できるんだ。

 精霊は、『想い』の結晶だ。

 その想いが積み重なっていく度に、強くなる。

 だから、俺とエレナとセラムは、最強なんだ!


 上空から高速で狙う俺たちに向けて、ゴーレムが腕を持ち上げてきた。

 本能に従うモンスターは、殺気や魔力といったものに対して過敏に反応する。こちらが少し速く動いたくらいじゃ、相手はそれを捕捉してくる。

 案の定、ゴーレムの腕は、俺の身体を的確に狙って来た。

 もっとも、俺たちには当たらないけどな。


 エレナの《風》が、流れを教えてくれる。そのまま《風》に乗って空中で旋回し、再び攻撃態勢に入る。

 するとそこに、ゴーレムの腕がゴムのように伸びて、俺の背後から襲い掛かってきていた……だがその動きも把握している。

 俺は《風》で一気に上昇しながらゴーレムの腕に乗り、そこを足場にして蹴り飛ばすと同時に《風》を纏って加速して、一瞬でゴーレムの懐に飛び込んだ。


「せぁっ!」

 そこに叩き込むのは、霊装セラムの《氷》の一撃!

 直撃した瞬間、オリハルコンゴーレムは氷漬けとなり、完全に凍結した。

 俺たちの対処法は、完璧だ。

《土》の能力なんて使わせない。

 もう、オリハルコンゴーレムはピクリともしなかった。


 カィィン……高音を響かせながら氷を砕く。

 同時にオリハルコンゴーレムも、砕け散っていった。

 ただのオリハルコンの欠片となって、地面に積もっていく。


「……ふぅ」

 俺は思わず、上空を見上げて大きく安堵の溜息を吐いた。

 その視界の隅が眩しくて、俺は思わず目を細める――


「え」


 ――俺は目を見開いた。

 視界の隅を凝視する。

 眩しい……痛い……そんな感覚を無視しながら。

 俺は、そこにある白金色のきらめきを見つめていた。

 蠢くように、山肌を覆い尽くしている、無数のきらめき。



 オリハルコンゴーレムの群れが、現れた。

次話の投稿は、明日2月10日の18時30分を予定しています。


この先行連載は全54話となりますので、とりあえず、明日で締めとなります。

よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ