表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
5/122

精霊界へ

第5話です。

 マクガシェルの放った『風の牢獄』が、俺の身体を、声を、息を封じ込めてしまっていた。

 俺は、何一つ動かすことができないまま、捕らえられている。

 だがその次の瞬間、


「ふっふーん! 残念でした!」


 エレナの嬉しそうな声が届いた。

 と同時に、俺の周囲で強烈な《風》が吹き荒れて、『風の牢獄』を一瞬で崩壊させた。

 俺の胸に描かれた魔法陣も、まるで《風》の刃に切り裂かれたかのように崩壊した。

 これは……⁉


「わ、儂の魔法が破られた⁉ ……まさか精霊魔法⁉ だが精霊は、人間と契約をしなければ、人間界では力が使えないはず……どういうことだ⁉」


 マクガシェルが見るからに狼狽しながら、俺を睨み付けてきた。

 俺たちは契約なんてしていない。

 にもかかわらず、エレナは人間界で魔法を使った。


 その疑問に答えたのは、セラムだった。

「たとえ形式的な契約を結ばなくても、私たちは既に、同じ意志を抱いている。『共通の想い』……それこそが契約の本質。この本質がある限り、形式的な契約など不要」


 ……あぁ。そうか、そうだよな。

 俺たちはみんな、同じ想いを抱いている。

 人間と精霊とが仲良くなれるよう願っているんだ。

 この共通する想いこそが、俺たちの『契約』になっているんだ!


 そう思った次の瞬間、俺の身体を魔力の光が包み込んでいた。

 溢れる魔力。

 これは、俺だけの力じゃない。

 俺とエレナとセラムの、『協力』なんだ!


「させぬわっ!」

 マクガシェルが叫びながら、再び『風の牢獄』を放ってきた。

「その言葉、そっくりそのまま返す」

 セラムが淡々と言う、と同時に、突如《氷》の壁が隆起した。


 曇りひとつ無く、凹凸ひとつも無い、透き通った《氷》の壁。

 まるで鏡のように、マクガシェルの《風》をそのまま跳ね返した。

「ちいぃっ!」

 マクガシェルが新たな魔法を発動させて相殺する、その隙に俺は駆け出した。


「さぁ行こう!」

「「精霊界へ」」


 エレナとセラムが、《扉》のこちら側まで手を差し伸べてくれていた。

 俺は、それぞれの手を握る。

 右手でエレナと、左手でセラムと、確かに繋がった。


 直後、《扉》に異変が起こった。

 まるで巨大な手に揉まれているかのように、歪に変形する《扉》の円。

 そこに、先ほどのマクガシェルの封印魔法や『風の牢獄』の魔力が、光の粒となって吸い込まれていく。

 今まさに、《扉》が閉ざされようとしているんだ。

 俺たちは手を取り合ったまま、《扉》に飛び込んでいった。


「ぅおのれぇっ! 精霊の力は、この皇帝マクガシェルの力なのだぁっ!」

 マクガシェルが泡を飛ばすほど叫びながら、俺たちに向かって手をかざしてきた。

「出でよ、《風》の精霊セイレーン! あの罪人を捕え、裏切り者の精霊もろとも、人間界に引きずり出すのだっ!」

地下施設に反響する、マクガシェルの声──


しかし何も起こらなかった。


「……ぬぁ、何故だ⁉ なぜ我が命令に従わないぃセイレェェェン! 精霊のくせに約束を破るのか! サラマンダー! メルキュリオ! ノームス⁉ ……なぜ誰も来ないっ⁉」

 マクガシェルが怒りと困惑を露にして、次々と精霊の名を叫んでいた。


 答えは無い。

 むしろ沈黙こそが、その答えだ。


 もはや、《扉》は閉ざされた。

《扉》が無ければ、精霊は人間界に出てこられない。

 契約の履行は不可能――

 マクガシェルの命令は、無効だ。


「ぬぅぅぅぅぅぅぅぅああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」

 マクガシェルの叫び声だけが、響き渡っていた。


 ……やった。

 やったぞ!


 これで、もう精霊が人間界に連れて行かれることはないんだ。

 たとえ召喚の儀式が行われても、皇帝に命じられたとしても、次元を繋ぐ《扉》がなければ人間界へ行くことができないんだから。


「は、ははっ……」

 俺は心から安堵して、思わず笑いを漏らしていた。


 結果的に言えば、皇帝たちが言った通り、俺は精霊界に閉じ込められることになった。

 けれど、これは懲役なんかじゃない。

 追放でもない。

 俺の意思で、俺が必要とされている場所に行くんだ。

 こんなに嬉しいことはない。


 正直なところ、まだ自分が精霊界でどんな扱いになるのか解らないけれど……

 どうか平和に、仲良く、末永く、精霊たちと暮らせたら、俺は幸せだ。


《扉》は、完全に閉ざされた。

 その光景を、俺はしっかりと見つめていた。


 両手に、エレナとセラムの温もりを感じながら。

次話の投稿は、本日20時30分を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ