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封印魔法を凍らせ、砕く

第48話です。

第5章



 生徒会室の机の上に、一冊の本が置かれている。


 俺とエレナとセラム、そしてネイピアは、その机を取り囲むように立っていた。

 バラゴス・キルスが記した魔導書。

 その表題には、シンプルに『《土》の研究』と記されていた。


 一見すると、ただの魔導書だった。

 普通に表紙を開くことができるし、その内容も、キルス家が得意とする《土》魔法についての研究成果や今後の展望などが書かれているだけ。


 だが、最後の数ページが、魔法によって封印されていた。

 しかも、特殊な魔力回路が編み込まれていて、キルス家の人間の血によって解呪されるタイプのものだった。


「どうするつもり?」

 ネイピアが顔を覗き込むように言ってきた。

「――こういった『血印魔法』は、強引に開けようとすれば中のものが壊れるように作られているわ。ここまで来て、キルス家の人間から血を奪ってくるとしたら厄介よ」

「いや、俺たちなら血が無くても開けられるぞ」

「やっぱり!」


 ネイピアはどこか嬉しそうに叫んでいた。

 きっと、ナックを助けた興奮も残っているんだろうけど、ネイピアには珍しく、弾む声を包み隠そうとしなかった。

「さっそくやって見せてちょうだい」

 瞳がキラキラと楽しそうに輝いている。

 本当に、こういうときのネイピアは五歳くらい幼くなったように見えて、可愛らしい。

 ……ネイピアのことをそんな目で見ているなんてエレナとセラムに知れたら、どうなることやら。


「ちょっと、早くしてちょうだいよ」

 膨れっ面をする幼げなネイピアに促されて、俺は説明を始める。

「やり方は簡単だ。以前、ネイピアの結界を通過するときに使った手法があるだろ。アレとやることは同じなんだ」

 そう説明しながら、俺はセラムを呼んで、一緒に精霊魔法を発動させる。

 セラムが手をかざすと、一瞬にして本が《氷》に覆われた。

 と言っても、ここで凍ったのは本じゃない。


「これで、封印魔法の魔力回路そのものを凍らせた」


「……え? か、簡単に言うけれど、それ、とんでもないことじゃない⁉」

 ネイピアは動揺を隠しきれないまま、考え込むように言葉を紡いで、

「確かに魔力回路を凍らせれば、理論上は、魔力の流れが止まって魔法の効果は消える。それは封印を解除できるだけではなく、封印を無理に破ったときの効果も消える。……それを単純に言い換えると……」


「そう。魔法そのものを無効化できる」


 次の瞬間――

 本を覆っていた《氷》が、ガラスのように割れて、散った。

 そして、まるで花が開くかのように、本のページがはらりと開いていく。

 血印魔法の封印を無効化したのだ。


「……すごい」

 思わずといった感じで、ネイピアが感嘆していた。

「あぁ、すごいだろ」

 俺が自分のことのように喜ぶと、セラムも誇らしげに胸を張った。

 ただ、さすがにすべての魔法を無効化できるわけじゃない。俺たちの力にも限界はある。

 それに、魔法の理論さえ理解していれば、《氷》でなくても、たとえばエレナの《風》でも同様のことはできる。

 エレナは魔力回路そのものを切ることができるのだから。


 ……だからこそ。

 精霊の力は、使い方を間違えてはいけない。

 全ての魔法を無効化できる力なんて、そうそう持っちゃいけないんだ。

 俺は、自戒を込めて心に刻む。


「さて。それじゃあさっそく、封印された秘密の情報を見てみよう」

「そうね。……願わくは、『キルス家秘伝のポエム集』みたいな笑える内容を希望するわ」

「……はは」

 本当に、ポエム集だったら笑えるだろうな。

 ……そんなわけないのに。


※※※


『真実を、ここに残す』


 封印されていたページの冒頭には、そう記されていた。

 執筆者は、バラゴス・キルス。

 666年前、俺に懲役666年を言い渡した帝国最高裁判所長だ。

次話の投稿は、明日2月9日の18時30分を予定しています。

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