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精霊界への《扉》

第4話です。

 裁判を終えた後、俺は『風の牢獄』に入れられたまま、連行されていった。

 連れていかれたのは、帝都グランマギアの北側に聳え立つ、シュテイム山。

 帝都を護る巨大な壁のようにそそり立ち、実際の大きさよりも強大な存在感を見せている。帝都の財源と魔法技術を支える、潤沢なミスリル鉱山。

 その麓に広がる森の陰、隠れるように地下坑道の入口がある。


 この先に、《扉》があるんだ。


 地下研究施設は、壁も床も天井も、青白く光り輝く金属によって囲まれていた。

 最高の硬度と魔法耐性を誇る金属:ミスリルだ。

 30m四方ほどの広い空間の中に、俺と、皇帝と、裁判長の姿だけが見えている。

 様々な魔導機械や机や本棚が乱雑に置かれている――

 そのほぼ中央に、異様なモノが浮かんでいた。

 

 まず見えたのは、無数の魔法陣。

 大小合わせて100は下らないほどの魔法陣が、何重にも重なって、『それ』を四方八方から取り囲むようにして、歪な球体を作り出していた。


 その中心にあるのは、黒い『円』だった。

 立体的な『球』ではない。

 平面的な『円』が、宙に浮くように存在していた。

 横から見ると、目に見えなくなるほど薄い。

 空中にぽっかりと開いた穴――先が見えない漆黒の闇。


 これが、《扉》だ。


 報告書によれば、この中には『次元の狭間』と呼ばれる緩衝地帯のようなモノがあるらしく、それを挟んで、人間界と精霊界とが存在しているらしい。

 これから、俺は、この先の世界に行くんだ。


(エレナ、セラム、もう一度説明してもらえないか?)

 俺は、これからこの世界で起こることについて、改めてふたりに確認した。

 実は、精霊たちは、これからとんでもないことをやろうとしていたんだ。


「私たち精霊は、《扉》を完全に閉じることに決めたんだよ――」

 エレナが真剣な声で説明をしてくれた。

「そうすれば、精霊も人間も、世界を行き来することが不可能になる。いくら根源誓約に基づく召喚儀式でも、不可能を強いることはできない。この《扉》さえ閉じちゃえば、精霊界から精霊を連れ出すことはできなくなるはずだから」


(あぁ。理論的には、そういうことになるな)

「ただそれは、精霊の力だけでは難しい。自分たちで誓約を実行できなくしたら、もちろん重大な誓約違反になっちゃうから。

 ……でも、最初はそれも覚悟の上で、20体くらいの精霊が生贄になる予定だったの。何としても、《扉》だけは塞がなくちゃいけないって……。もう、そこまでしないといけないんだって」

 決意を込めた、震える声。


 俺は、確認も兼ねて、その続きを話していく。

(でも、別の方法があることに気付いたんだよな。他でもない、もう一人の当事者である皇帝マクガシェルの魔力を利用できるかもしれないって)

「うん。マクガシェルは最近、罪人を精霊界に追放するようになっていたんだけど。そのとき、彼らが人間界に戻らないように封印の術式を掛けてるんだ。だから、きっとジードくんにも同じことをするはず。そこで、その封印の術式を利用できるんじゃないかって」


(つまり、精霊が誓約違反をするんじゃなく、あくまでマクガシェルの行為によって誓約が実行できなくなるように仕向ける、と)

「そういうこと。……本当は、ジードくん以外の人たちも助けたかったんだけど。でも、みんな、どう頑張っても精霊界の環境に耐えることはできなかったんだ……」

 エレナの消え入りそうな声が、届く。


(ごめん。人間は、迷惑ばかりかけちゃってるよな)

「ううん、そんなことない。今、こうして人間のジードくんとお話できてるのは、すごく嬉しいから」

 ほんの少しだけ、声を弾ませるエレナ。

 ただ、彼女には、もっともっと声を弾ませていてもらいたい。

 ずっと明るい彼女でいてほしい。

 まだ少ししか話してないような関係だけど、そう強く思った。

 そのためにも、俺は精霊界に行くんだ――

 精霊界で、生きるんだ。


 着々と準備は進み、ついに、そのときが来た。

「これから封印の術式を実行する。今後、貴様は精霊界から出られなくなるのだ。当然ながら、儂が死んでも効力は残る。もちろん、貴様が儂の魔力を上回ることができれば、この封印を打ち破ることができるがな。くっはっはっは!」


 マクガシェルが魔法陣を展開しながら、楽しそうに笑う。

 そして、ジードに向けて魔法を放った……

 この瞬間っ!


「その魔力を待ってたよっ!」


 エレナの声がはっきりと聞こえた。

 と同時に、膨大な魔力が嵐のように吹き荒れて、地下施設全体を激しく震わせる。


「な、何者だっ⁉ 何が起こったっ⁉」

 マクガシェルは困惑しながら、すぐに魔法陣を展開して臨戦態勢を取っていた。

 バラゴスも咄嗟にミスリルの盾を取り出して、マクガシェルを護衛する。

 この二人、性格的には腐っていても、魔法の実力は紛れもないトップクラスだ。


 だが、今はその迅速な反応こそが、ロスになる。

 この『声』たちの狙いは彼らじゃない。

 俺だ。


「人間界が見捨てたジードくんは、精霊界で歓迎するよ! さぁジードくん!」


 エレナの声が俺を呼ぶ。

 黒に染まっていた《扉》の奥に、うっすらと浮かび上がってきた人影。

 パステルグリーンにきらめく長髪をなびかせながら、両手を広げて俺のことを待ってくれている。

 満面の笑顔で。

「エレナッ!」

 俺は彼女の名前を叫びながら、足を踏み出した――


「『風の牢獄』ッ!」


「ぐっ⁉」

 ――足が動かない。

 マクガシェルの『風の牢獄』が、俺を捕まえていた。

 動けない……声も出せない。


 ……息も、できない⁉


「くはははははっ! さぁ精霊たちよ! この男が欲しいか? ならば早く人間界に来て儂と契約をするのだ! ……さもないと、この男は息ができずに死んでしまうぞぉ!」

 マクガシェルが勝ち誇ったように、下卑た笑いを上げていた。

次話の投稿は、本日19時30分を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 精霊界に行けば帰って来れないのに封印魔法? 皇帝が慎重なんだか臆病なんだか……よく分かりませんね。
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