ネイピアとの協力、もとい相互利用
第34話です。
「私は、この帝国を滅ぼしたい。貴方たちは、そのための力になるはずだから」
ネイピアは、確かにそう言い切った。
あまりに予想外で衝撃的な言葉に、呼吸が止まる。
ようやく絞り出した息は、「はは」と抜けるような笑いになっていた。
「……ってことは、実の父親である皇帝を殺害する、とでも言うつもりか?」
そんな風に冗談めかして返すことしかできなかった。
そこに返されたのは、真剣な視線。
「命はさておき、社会的には殺したいわね。革命を起こさないといけないから」
その言葉に迷いはない。
彼女は、本気だ。
「……どうして、そんなことを」
「あら。聞くまでもないはずよ」
ネイピアは飄々と言ってのける。
「今の帝国は狂っている。それは貴方も──むしろ貴方こそ解っているでしょう。賢帝の血を引いていないと出世できない。賢帝の血を引いていないと人間代表になれない。まさに『賢帝の血族にあらずば人にあらず』という『賢帝絶対主義』。それが今の社会なのよ」
確かに、そうだ。
しかもそれは、マクガシェルに都合のいいように捏造された歴史に基づいている。
嘘の歴史に基づいた『賢帝絶対主義』が支配する、歪んだ社会だ。
「だから私は、この帝国そのものを破壊したい。あんな理不尽な序列で、生まれたばかりの人間の運命を決定づけたくはない。しかもそれが、嘘の歴史を根拠にしているのだから、なおさらよ」
ネイピアの語気に熱が入っていた。
彼女こそまさに、皇帝の娘として生まれたことで、運命を決めつけられてきたのだろう。
ネイピアの言葉は、ただの綺麗事を並べているだけの主張とは違うんだ。
「とはいえ、曲がりなりにも帝国には──賢帝には『歴史』や『伝統』がある。そうやって666年も過ごしてきてしまったのだから、もはや利権が広がり絡まっていて、正攻法では覆すことができなくなっていた。……そう思っていたところに貴方たちが来た。あらゆることから正規を外れているような人たちが。これは、利用するのが当然でしょう?」
「はは、それは確かに──」
俺は、思わず感心していた。
「──俺が聖霊大祭で優勝を目指すってことは、それがそのまま、帝国の『賢帝絶対主義』を崩壊させることにもなる。だからこそネイピアは、俺たちに協力してくれる……つーか、別に援助やら共闘やらをしなくても、俺たちが勝手に暴れ回っているのを黙認しているだけで、ネイピアは目的を達成できるってわけか」
「ええ。特に、教育機関の掌握は重要なのよ。この賢者学園こそが、思い上がった賢帝絶対主義の象徴にして、発生源でもあるのだから。ここを変えなければ、次の世代もその次の世代も、未来がずっと腐ってしまう」
「間違った歴史教科書での教育か……」
「そうよ。今の教育が無駄で間違っていることを知らしめなくちゃいけない。そのためには、ほんの数年では足りないの」
「あぁ、なるほど」
「だから私にとっては、貴方との相互利用関係が、少しでも長く続いた方がいい。つまり、現在の人間代表である私は、精霊代表と話し合う気なんて無いわ。根源誓約を破棄したいのなら、いつか貴方が人間代表になって自分でやればいい」
「まぁ、そうなるよな」
その合理的な判断に、俺は苦笑しながら頷いて、
「つーか、そもそも精霊代表が、俺以外の人間と話す気は無いって言ってるから、結局はそのつもりなんだけどな。……何だかんだで、精霊はみんな人間が怖いんだよ」
「そう。……お互い、666年前のことで苦労をするわね」
「まったくだ──」
俺もネイピアも、肩を竦めて苦笑していた。
「……それでも、俺たちは今の時代で、やるべきことをやっていく。ネイピアが俺の力を利用するように、俺たちもネイピアのことを利用する。地位も、権力も、能力も全て」
俺は、ネイピアの言葉を返すように宣言した。
すると、誰からともなく、机の中央に向かって、みんなの手が差し出されていた。
まるで花を描くように、四つの手が重なっていく。
「私たち、いい協力関係が築けそうね」
「少なくとも、次の聖霊大祭までの9か月間はな」
そのことを誓い合うべく、重なった手が頷くように弾んだ。
次話の投稿は、本日の19時30分を予定しています。




