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特別入試戦の、後始末

第25話です。

 俺は、霊装エレナの構えを解いた。

 霊装エレナは光に包まれ、そして光の拡散と同時に、見慣れた姿に戻った。


 人間の姿になった途端、よろけるエレナ。

 慣れない人間界で力を出しすぎたか。

 俺はエレナを支えるついでに、抱き締める。


「お疲れ、エレナ」

「えっへへー。ジードくんこそお疲れ様」

 そう言いながら、エレナも抱き締め返してくれた。


 そんな様子を、冷たい視線が居抜いてくる。

「ジード、次は私の力も使ってほしい」

「もちろんだよ。約束する」

 そう言うと、セラムも納得したように小さく頷いてくれた。


 そこに、ネイピアが歩み寄って声を掛けてきた。

「いいものを、見せてもらったわ」

 彼女の顔は、真っ赤に染まっていた。

 よく見れば、目線も表情も落ち着きなく、特に口元が緩みそうになるのを必死に押さえているようだった。


 ……あぁ、多分、今にもピョンピョン飛び跳ねたいんだろうな。

 人が居る手前、ここではしゃぐわけにもいかないんだろう。

 そんなことを思いながら、つい笑みを漏らして聞く。


「さて。俺の試験結果は、どう……」

「合格よ!」


 ネイピアは俺の声に被せて言ってきた。

 早く言いたくて堪らなかったみたいだ。


「異議ありだ!」


 そう叫んだのは、コルニス。

 土の腕で地面を叩きながら、俺とネイピアを睨みつけてくる。


「この男とその女、二人掛かりで戦ったくせして、何が合格だっ! しかも、何もしてないのにいきなり、俺のミスリルが無効化されたんだぞ⁉ こんなもの、この闘技場に何か細工がされていたんだろう! そうに決まってる! ……そうだ。この闘技場はネイピアが改修したじゃないか! 俺がやるはずだった仕事を勝手にやりやがって! 試験は無効だ! むこ……ぐっ⁉」


 ふいにコルニスが身体を強張らせた。

 ネイピアの束縛魔法だ。


「副会長――」

 ネイピアの、冷たい声が響く。

「会長である私が責任者として開催した特別入試に、どのような不正があったのかしら?」

「ぐっ……。ど、どうせ、貴様もグルなんだろう!」

「その証拠は?」

「そんなもの、こんなあからさまに、意味不明で怪しいことをしておいて、何の証拠が必要なんだ! いきなりミスリルが粉々になったんだぞ⁉ 普通に考えれば不正があったに決まってるだろうが!」


「あらそう。確かに、何もしていないのに、いきなりミスリルが粉々になったら、それはとっても大変なことね」

 ネイピアが、あからさまに強調しながら話を振る。

「当たり前だ! それをこの男は……しかも、栄誉ある賢者学園の生徒会長までグルになって、卑怯な小細工をしやがって!」

「何もしてないのにいきなり、ミスリルが壊れるように?」

「そうだ! 何度も言わせるな!」

 コルニスは何度も断言した。


 的外れなことばかり言い続けている。

 つまりコルニスは、あの剣撃がまったく見えてなかったんだな。

 その上で、本気で不正があったと思い込んでいるらしい……。


「……そうね。もう何も、言う必要は無いのでしょうね」

 ネイピアは、聞こえよがしに溜息を吐いて、

「貴方はそうやって、いつも真実から目を逸らして逃げ続けていればいいわ。『聖霊大祭で負けたのは、皇女に忖度する精神的圧力があったから』……『不正な聖霊大祭に抗議するため学園の仕事には参加しない』……」

「そうだ! そうに決まってる! それが真実だ! それ以外ありえない!」

 コルニスが落ち着きなく言い捨てた。

 どうやらネイピアが羅列した言葉は、コルニスが実際に言ったセリフらしい。そういえばこの闘技場も、改修するはずの男が3ヶ月前から仕事をしなくなっていたらしいが。


「はぁ」

 ネイピアは聞こえよがしに溜息をつくと、コルニスには目もくれず、束縛魔法を解いた。

 途端、コルニスは踵を返して、

「この恨み、決して忘れないぞ!」

 と叫びながら闘技場の出入り口に向かっていった。


「あ、そうだわ副会長。そんなに真実が好きなら、一つ、面白いことを教えてあげる――」

 ネイピアが、コルニスに背を向けながら声を掛ける。

 だがコルニスは立ち止まらない。

「666年前に記された、とある日記に書かれていたことなのだけど。副会長の祖先であるバラゴス・キルスは、副会長の尊敬して止まない賢帝マクガシェルに、殺されたそうよ」

 コルニスの足が止まり、ゆっくりと振り返る。

 彫りの深い顔に、さらに深い怒りの彫りが刻まれていた。

 それを一瞥することもなく、ネイピアは続ける。


「あの当時、マクガシェルとバラゴスは、二人でとある極秘計画を進めていたという。だけどそれが頓挫して、その計画からバラゴスが抜けようとした……けど、マクガシェルはそれを許さなかった」

「…………うそだ」

 コルニスの声は、まるで息だけが漏れたかのように弱々しかった。

「そうね、この日記に信憑性があるかどうかは解らないわ。帝国図書館に隠されていた、バラゴスの娘が書いた日記といえども、嘘が書かれることはあるでしょうし」

「…………は」

 コルニスの口からは、もはや息しか漏れていない。

「ねぇ、副会長。もし、あの日記に本当のことが書かれているとしたら……。貴方の身体に流れる賢帝の血は、貴方にとって、どれほど誇らしいのかしらね?」


「うぅぅぅげあぁぃぃっ!」

 ふいに人間の声とは思えないような叫びを発し、コルニスは通路の奥へと消えて行った。

 言葉にならない叫び。

 いったいそこにどんな感情が込められていたのか、俺には想像もできない。


 ……それにしても、まさか、バラゴスがマクガシェルに殺されていただなんて。

 俺が精霊界に行った後のことだし、その真偽は解らないけど、まぁやりそうではある。

 それにネイピアは、こちらの想像以上に、666年前の正しい知識を持っているようだ。

 ……自分の先祖が何をしてきたのか、理解しているんだ。


 そのネイピアは、コルニスが消えて行った通路を眺めながら、

「あらあら。周りにはまだ私の結界があるって言うのに……」

 と呆れたように呟いていた。

「いつもだったら閉じ込めて遊んであげるけど、今回だけは逃がしてあげるわ」

 そう言って、ネイピアは結界を解除していた。

次話の投稿は、本日の19時30分を予定しています。

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