最速最強の《風》
第24話です。
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そもそも精霊は、魔力の劇的な集中によって誕生する『魔力生命体』だ。
言い換えると、『自由な意思を持って生きる、魔力の結晶』だ。
精霊が誕生するとき、まず魔力が極度に集結して、高濃度の結晶を形成する。
魔力が集まる原因は、《想い》だ。
『心』と言い換えてもいい。
自然風景に対する憧れや敬愛……
自然現象に対する畏怖や感謝……
あるいは、祈りや願い。
そのような《想い》が集中していくことにより、魔力が極度に集結し、結晶化することがある。
その後、一つの《想い》に集まって形成された魔力の結晶は、その想いのカタチを体現するかのように、一つの武器を作り上げていく。
それが《霊装》――これこそが精霊の本来の姿だ。
話によると、この姿が作られるほどに魔力が結集したときに、精霊としての自我を持つようになるらしい。
ただ、生まれたままのこの姿では、動けないし、まだ喋ることもできない。
そこで、自ら動いたり喋ったりするために、人間と似た姿形に変わっていくのだ――
莫大な魔力を消費しながら。
霊装は、精霊の本来の姿であり、『擬人化』をやめた姿だ。
それはつまり、莫大な魔力消費をしないですむ状態ということ。
この姿になって初めて、精霊は、精霊本来の力を100%引き出すことができるんだ。
ただ、当然ながら、霊装の状態では自由に動くことができなくなる。
そして無防備を晒すことになるため、この姿を見せることは滅多にない。
信頼関係がしっかりと築かれた相手以外には、決して見せることはないんだ。
666年間、一緒に泣いて笑って生きてきた俺にだからこそ見せてくれる姿。
俺のことを信頼してくれているからこそ、発揮できる力だ。
かつての精霊魔法――マクガシェルが精霊から絞り出していたエネルギーは、それこそ、本来の力の1%にも満たない。
かつての精霊は、信頼できる人間がいなかったせいで、本来の力を発揮することなく、魔力を奪われ続けて、殺されてしまっていたんだ。
※※※
霊装エレナを目の当たりにして、誰もが言葉を失っていた。
コルニスもネイピアも、ウーリルもルーエルも、驚愕に目を見開いたまま固まって、何も言えなくなっている。
ただその中でネイピアは、どこか嬉しそうに口角を上げていた。
やがてコルニスが「……ふ、ふんっ」と聞こえよがしに鼻で笑ってきた。
「何をするのかと思えば、ゴーレムから武器を作り出す魔法か。俺と同じ《土》の魔法士……だが、俺が操るのはミスリルだぞ!」
コルニスが、いろいろ見当違いなことを叫んでいた。
「ちゃんと見ておけよ」
俺は、ネイピアに向けて言葉を発する。
「これが真の力――《風》の霊装エレナだ」
俺は霊装エレナを構えて、一歩を踏み込んだ。
次の瞬間、俺はコルニスに背を向けていた。
俺の身体を、風が撫でる。
そのまま、背中越しにコルニスを見やった。
「……あぁん⁉ いきなり背を向けてどういうつもりだ? 隙だらけだぞ!」
コルニスが怒声を上げながら、俺に向かって来ようとする――
「……ぐ、な、なに⁉」
――だが彼は一歩も動けないまま、バランスを崩して倒れた。
動けるわけがない。
コルニスの両足は、木っ端微塵に切り刻まれているんだから。
まるで粉のように、ミスリルの脚が風に散った。
「こ、このっ……っ⁉」
続けてコルニスは右腕を伸ばそうとした……だが、その右腕は存在しない。
すかさず左腕も伸ばそうとするが、そこにも存在しない。
右腕と左腕だったものは、既に、コルニスの足元で塵の山になっている。
「ぬぅっ⁉ ゴ、ゴーレム! ……あぁ?」
コルニスの隣に立っていたゴーレムも、もう居ない。
そこにあるのは、砂のように粉々になった金属片の山。
ミスリルゴーレムだった物だけが、そこにある。
「な、なぜだぁ⁉ なぜ再生しない⁉」
コルニスの叫びが虚しく響く。
ミスリルは、塵と化したまま、ピクリとも動かなかった。
すべては、一瞬。
《風》を纏って疾走し、《風》を裂きながら薙ぎ払う。
そこに発生した真空波を巻き込みながら繰り出す、無数の斬撃だ。
ただ細かく刻むだけなら、通常魔法でも出来なくはない。
だが、霊装の一撃は、言うなれば、魔力生命体による魔力への干渉でもある。それは魔力回路への直接攻撃となり、回路を破壊することすら出来るのだ。
つまり、霊装エレナは、ただミスリルを切ったんじゃない。
そこに付与されていたコルニスの魔法ごと、断ち切ったんだ。
こんな芸当、誰に対してもできるわけじゃない。コルニスと俺たちとの実力差が圧倒的だからこそ、できることだった。
……まぁ、霊装を相手にしたら、ほとんどのモノが圧倒的な実力差になるんだが。
「切っても切っても無限に湧くっていうなら、無限に湧かないように切ればいいだけだ」
「な、何を言ってやがる⁉ そんなふざけたこと……く、くそぉっ!」
コルニスが周囲にあるミスリルを集め直して、四肢を復活させようとした……が、もはやミスリルを加工するほどの力も残っていなかったようだ。
コルニスは、ただの土を掻き集めるようにして四肢を復活させたが、立つこともできず、へたり込んでいた。
勝負ありだ。
次話の投稿は、明日2月1日の18時30分を予定しています。




