《霊装》エレナ
第23話です。
コルニスの隣に立つ、一体のミスリルゴーレム。
この闘技場を覆っていた膨大な量のミスリルが、人間と同じ大きさに凝縮されたのだ。
「はぁ、はぁっ……どうだっ! ここまで圧縮したミスリルは、どう足掻いても壊せるわけがない!」
コルニスは息を切らしながら、早くも勝ち誇ったように言い放ってきた。
「なら、試してみよう」
俺は一瞬でミスリルゴーレムの懐に飛び込み、殴り付けた。
パァン!
小気味良い破裂音が響き、ゴーレムの右腕が弾け飛んだ。
なるほど、確かに少し硬くなった気もする。
だが所詮はミスリル、誤差の範囲でしかない。少し力を加えるだけでぶっ壊せる。
……それにしても。
これが高密度? にしては手応えが無さすぎる。
俺は警戒を解かずにゴーレムを見上げた。
するとそこには、壊したはずの右腕が打ち下ろされようとしていた。
超高速の再生⁉
そのための高密度か!
ゴーレムが打ち下ろす右腕を、俺はまた殴り付けて破壊した……そのつもりだったが、ゴーレムは瞬間的に腕を再生させて掴み掛ってきた。
「おぉ、早いな」
そんな感想を漏らしながら後ろに飛びのく。
「逃がさん!」
そこにコルニス本人が先回りして、ミスリルの脚で蹴り付けてきていた。
「しぃっ!」
息を吐きながら身を捩って、コルニスの脚を蹴り飛ばす。
パンッと弾け飛んだ次の瞬間……すぐに新しい脚が生えてきていた。
お前も高密度になってたのかよ……。
高密度のミスリルゴーレムと、高密度のコルニス。
面倒な相手だ。
もちろん倒せなくはない。
ぶっちゃけ、コルニスの生身の部分を殴ればそれで終わる。文字通りの瞬殺だ。
だが、俺は別にコルニスを殺したいわけじゃない。
先祖のバラゴスを恨んでいないわけじゃないが、それも666年前のこと。子孫のコルニスには全く関係ない話だ。
むしろ、あの過去があるからこそ、この時代になって、子孫とは改めて話し合いをしたいとも思っていたんだが……。
今や、賢帝の血が流れていないという理由だけで忌み嫌われているという。
その結果、こうして戦う羽目になっているんだから、奇妙な縁だ。
「このミスリルの身体は無限に湧くぞ! 諦めて負けを認めろ!」
コルニスが不敵に笑っている。
無限というのも、あながち誇張じゃないようだ。
俺がミスリルを弾き飛ばしても、その弾き飛ばされた破片をまた集めて、ゴーレムやコルニスの身体を作り直している。
本当に、面倒な相手だ。
……まぁ、最初から、俺だけで勝ったらダメって言われてるしな。
「エレナ!」
「待ってましたー!」
俺が名前を呼ぶと同時に、エレナが俺の隣に飛んできた。
その身体は、既に光に包まれている。
「今さら何をしたところで無駄だ!」
コルニスが叫びながら、ゴーレムと共にミスリルの腕を伸ばしてきた。
《風》が吹く――
グシャリ……
ミスリルの腕が、まるで見えない壁に当たったかのように潰れた。
「悪いな。俺が賢者学園に入学するには、本当の力ってヤツを見せないといけないんだ。それを、今から見せてやる」
エレナの身体が光に包まれ、そして、風に吹かれて光が散った……かと思うと、光は再び集まり始め、渦を描くように俺の右手を包み込む。
光の渦の中に存在する、確かな感触。
軽く触れるだけでも、離れない――離さない。
やがて光の渦は、ふたたび風に吹き飛ばされるように拡散し、ゆっくりと雪のような光となって降り注いできた。
そのとき、俺の右手には、一振りの『剣』が握られている。
長く細身の刃が、緩やかに弧を描いている、光を帯びた剣。
これが、精霊の真の力にして、精霊本来の姿――
《霊装》だ。
次話の投稿は、本日の20時30分を予定しています。




