表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
22/122

超ミスリル級魔法士の力

第22話です。

「どうぞ、試験を始めてちょうだい」

 ネイピアがあっさりと合図をする、と同時にコルニスが仕掛けてきた。


「貴様らがどんな魔法を使おうとも、このミスリルで打ち消してやる!」

 コルニスは怒りを込めて叫び、呪文詠唱を始めた。

「聖なる白銀の輝きにより、我が身を護り敵を打ち砕け! 『聖白銀鎧化(ミスリューム)』!」


 その途端、コルニスの腕と脚がみるみる変形していった。およそ普通の『肉体』ではありえないほどの変形。


 ……コイツ、腕だけじゃなくて脚もミスリルだったのか!

 それを感じさせないほどの動きをしていた。やはり魔法のレベルは、紛れもなく高い。

 一瞬にしてコルニスの身体がミスリルの鎧で覆われ、さらに右腕は鋭い剣になっていた。


 なるほど、ミスリルの手足をそのまま材料として利用することができるってわけか。

 どういう経緯でそんな身体になったかは知らないが、奇しくも、《土》の魔法士としては最高の身体を手にしているってことだ。


「これこそ、あらゆる魔法も物理も跳ね返す、最強の防御にして最強の攻撃だ!」

 コルニスが一気に距離を詰めてきた。舞台に使われている足元の石を変形させ、カタパルトのように射出してきたのだ。

 さすが、《土》の扱いには慣れている――

 通常魔法にしては、な。

 俺は冷静に能力の分析をしながら、コルニスの繰り出すミスリルの剣を払いのけた。

 パシャン!

 まるで水の弾けたような音が響く。


「……は?」

 コルニスは腑抜けた声を漏らして、自分の右腕を見つめていた――

 正確には、右腕のあった場所を見つめていた。

 そこにあったはずの右腕――ミスリルの剣は、消えている。

 俺の手に払われた瞬間、弾け飛んでいた。

 お陰で、辺りにはまるで水滴のように、ミスリルの破片が飛び散っている。


「……な、なんだと? 俺のミスリルの腕が⁉ ……いったいどんな魔法を使った! 貴様一人では魔法を使えないんじゃなかったのか⁉ 俺を騙したのかぁっ⁉」

「そう一度に聞くなよ。賑やかな奴だな」

 俺は苦笑しながら、答えを教えてやる。


「俺は魔法が使えない。だから、殴ったんだ」


「……な、殴った? それだけなのか?」

「ああ。物理で殴っただけだ。魔力も込めてない」

「ふ、ふざけるな! それで俺のミスリルが壊れるわけが……」

「あのなぁ。いくら人間界最硬だろうが、最強の魔法耐性を持っていようが、それ以上に強い力をぶつければ壊せるに決まってるだろ」


 ミスリルは、人間界では最高魔法耐性だとか世界最硬だとか言われているけど、精霊界ではそんなに丈夫じゃない金属として普通に使われていた。

 加工しやすい便利な金属。人間界で言うところの銅みたいなものだ。

 精霊界暮らしを経た俺にとっては、軽く叩いただけでも潰れてしまう柔らかさ。むしろ壊さないように扱うのが難しいくらいだ。


 そんなミスリルなんかより、セラムと喧嘩したときに出された凍結料理の方が、よっぽど硬かったぞ。

 ある日の夕飯にそれを出されて、「食べて。そしたら許してあげる」なんて言われるんだから、そりゃ食べるに決まってる。


 そんな日常を過ごしてきたお陰で、俺は全身、口の中までミスリル並みに……それどころか、精霊界最硬のオリハルコンにも負けないくらい丈夫になっていると言っても過言じゃない。

 ……いや、さすがにオリハルコンは過言か。

 あれって、精霊界の中でも更に過酷な環境にあるから、純度が高いと精霊魔法でも壊れないくらいだし。せいぜいアルテミュウムくらいか?


 まぁいずれにせよ、ミスリル程度の柔らかい金属なら、粘土のように握り潰せる。

 こちとら、普通の人間なら一瞬で死ぬような環境で、666年間も生きてきたんだ。

 精霊界での生活は、まさに生きるだけで修行だった。

 呼吸も、歩行も、食べ物を食べることさえも命懸けだったんだから。

 風や川や木漏れ日ですら、全て精霊魔法並みの威力を持っているような世界、それが精霊界なんだから。


 それに、何より――

 好きなひとと手を繋いだりキスをしたりその他イロイロしたりするのでさえ、本当に命懸けだったんだぞ!

 そして俺たちは、そんな困難を乗り越えて来たんだぞ!

 温室のような人間界育ちとは、言葉通りに育ちが違うんだ。


「バカなっ⁉ ミスリルを、魔法でなく殴っただけで破るなんて、ありえない!」

「ありうる。現にここにあるじゃないか」

「い、イカサマだ! そうに決まってる! 俺の魔法は誰にも負けない。俺は聖霊大祭を連覇した、次期皇帝候補なんだっ!」


 コルニスが声をかすれさせながら叫んでいた。

 会話にならない。

 ……666年経っても、キルス家の人間とは会話ができないんだな。

 それが、少し寂しかった。


「ふざけやがって! こうなったら、最近編み出した切り札を見せてやるぁ!」

 コルニスが、舌を巻くほど乱雑に声を張り上げた。

 次の瞬間、闘技場の舞台がまるで川のように流れを帯び、激しく波打ちだした。

 舞台だけじゃない。床や壁や天井までもが波打っている。


「土よ在れ! 命よ在れ! 我が忠実なるマリオネットとなりて、我に仇なす全てのモノを滅せよ! 『聖白銀人形(ゴレミリア・ミスリィ)』!」


 コルニスの足下に魔法陣が展開された。そして、この闘技場にあるミスリルが、まるで吸い取られるように集められていく。

 ネイピアが造り出していた強化ミスリルも、全てコルニスが奪い取っていく。


 ……なるほど。これがコルニスの切り札か。ライバルになるネイピアには秘密にしていたんだろう。

 ほんの数十秒で、闘技場の床からも天井からもミスリルは無くなり、土がむき出しになってしまっていた。


 この場にある全てのミスリルが、一点に集約している。

 その一点――コルニスの隣に立っているのは、一体のミスリルゴーレム。

 この闘技場を覆っていた膨大な量のミスリルが、人間と同じ大きさに凝縮されていた。

次話の投稿は、本日の19時30分を予定しています。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ