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賢者学園への特別入試

第20話です。

「さて、改めて話を続けましょう――」

 ネイピアが、目を細めて俺たちを見やってきた。

 それは、見ようによっては楽しそうな笑顔のようにも見えた。


「要するに貴方たちは、この賢者学園に入学するのが目的で、ここに来たのよね?」

「まぁ、そうだな」

 俺は思わず苦笑する。

 ネイピアの発言は間違ってはいない。だが、こんな雑な要約をするのは、あからさまだ。

 俺の正体についての話を、コルニスには聞かせたくないってことだろう。


 すると、そのコルニスが吐き捨てるように叫んだ。

「そんな不敬行為、許されるわけがない! この伝統ある賢者学園を汚すつもりか!」

 ……伝統ねぇ。

 少なくとも、伝統だから守らなくちゃいけないっていうのは、本末転倒だ。

 守るべきものがあって、それを守り続けていきたいと思って続けてきたことが、結果として伝統になるんだ。


 まぁ、そういう話は俺がうだうだ言う立場でもない。今の時代の、政治の問題だ。

 俺が求めるのは、いかにして人間代表になればいいか、ということだけ。


「俺は、賢者学園への入学を希望している。後のふたりは付き添いだ。俺の家族なんだよ」

 俺がそう言うと、エレナとセラムが嬉しそうに頷いていた。

「そう。なるほどね」

 ネイピアは深くは聞かず、軽い調子で相槌を打つと、

「でも残念ながら、今の規則では、賢者学園は賢帝の血族しか入れないとされているのよ。貴方には、賢帝の血が流れていないでしょう?」

「もちろんだ」

 俺は力強く断言する。

「ならば貴様は即刻出て行けぇ!」

 とコルニスが叫んでいるが無視して、俺は話を続けた。


「生徒会長なら、入学資格について決定できる権限があるんじゃないのか?」

「そうね。確かに私には、その権限がある。ただの生徒会長ならそこまでは認められないけれど、私は聖霊大祭を制覇しているから。少なくとも、学園に関する事項については、私の一声で特例を作ることができるわ」

「現役最強の魔法士には誰も逆らえない、か」


 聖霊大祭の覇者、そして、『人間代表』――

 俺は、どうしてもその地位が必要なんだ。


「あら、まるで恐怖政治みたいに言われるのは心外ね。私は権力を振りかざさないわよ。あらゆる事項に対して、幅広く意見を集めながら決めていくタイプなの」

「それなら、まずネイピア個人の意見を聞かせてほしい。賢者の血を引かない人間が賢者学園に入学することについては、どう思う?」

「私は、認めてもいいと思っているわ」


 ネイピアは即答した。

 拍子抜けするくらいにあっさりと。

 それはきっと、先ほど触れようとした話題にも関連しているんだろう。賢帝と魔王の伝説について、疑問を抱いていることと。

 ふと、俺たちの横から剣呑な空気が漂ってきて、ギリギリと歯軋りまで聞こえてきた。

 だけど、それに気付いていないかのようにネイピアは続ける。


「そもそも、賢者学園の関係者しか出場できない聖霊大祭で人間代表を決める、という制度に合理性は無いわ。もし、賢帝の血を引かない者の中に最強の魔法士が居たら、『最強の人間代表』なんて言っておきながら人間に負ける、なんてことも起こってしまうもの」

「おのれ、皇帝の娘である貴様が、皇族を――誇りある賢者学園を愚弄するのか! それはクーデターだぞ! 反皇族主義者は出ていけ!」

 横からコルニスが割り込んできた。

「賢帝の血を引いていないような奴が、強いわけがない! そんな者が賢者に勝つことがあるとすれば、それは卑怯な手を使っているだけだ!」


 するとネイピアはコルニスを一瞥だけして、改めて俺に向き直ってきた。

「……と、このように、副会長が反対の意見を持っている以上、私は彼の意見も尊重してあげたいのよ」

 わざとらしい話の流れが作られた。

 その流れのままネイピアが続ける。

「というわけで、折衷案として、生徒会長権限により特別入試試験を開くことを提案するわ。これから闘技場に移動して、貴方と副会長とで実戦形式の試験をする。そこで貴方が勝ったら、特別に入学を認める」


 するとコルニスが、見るからに不満を乗せて声を絞り出していた。

「……俺が、コイツと戦うだと?」

「名案でしょう? このジードという男は賢者学園に入学したい。だけど副会長は、部外者の弱い者には入学させたくない。そこで、お互いに戦うことで、ジードは己の強さを証明すればいいし、副会長は逆にジードの弱さを証明すればいい。たったそれだけのことよ」

「……ふん。だったら、そうしてやろうじゃねぇか!」

 コルニスは忌々しげに言い捨てた。

 一方、俺は願ったり叶ったりの展開にしてもらえて、笑顔で頷いて承諾した。


「それじゃあ決まりね。二人とも、さっそく闘技場に向かってちょうだい」

 コルニスは「ふん」と鼻で笑うと、

「ネイピア、変な邪魔が入らないように、しっかり封鎖しておけよ。くれぐれも、またこんな部外者が入り込むことがないようにな!」

 と、皮肉まみれに笑ってきた。


「ええ、もちろんよ。ちゃんと今から結界を張っておけば、邪魔者も部外者も未熟者も、一切入れないから大丈夫……

 あら? 私ったら、てっきり私の結界くらい簡単に破れるのかと思ってたけど、破れない人が居たことをすっかり忘れてたわ──」

 ネイピアはそう言いながら、コルニスを縛っていた結界を解いた。

「ほら、もう捕まらないように気を付けなさい。それと、ちゃんと副会長は、先に闘技場の中に入っていないとダメよ。そうしないと不戦敗になってしまうのだから」

「ぐ……ぬ……」


 ネイピアの自嘲を含めた皮肉に、コルニスは何も言い返せないまま乱暴に出て行った。

 皮肉を言う頭のキレでも、精神的な余裕でも、ネイピアの圧勝だった。

次話の投稿は、本日の20時30分を予定しています。

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