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真の能力があるんだよ

第2話です

「ありがとう、ジードくん!」


 突然、そんな声が聞こえたんだ。

 ……これは幻聴か?

 でも、それにしては、はっきりと聞こえた。

 女性の声だった。


 どういうことだ?

 ここには、俺とマクガシェルとバラゴスしか居ないはずなのに。


 俺は思わず辺りを見渡そうとした……けど動けなかった。

『風の牢獄』の効果は続いている――音は遮断されたままだ。

 つまり、俺の声は外に届かないし、外からの声もマクガシェル以上の通信魔法が使えなければ届かないはずなのに。


 しかも、この法廷は、魔法耐性の高いミスリルで造られている。

『ミスリル級』の魔法士でなければ――それを超える力が無ければ、この障壁を突き破ることはできない。

 この法廷は、最高の魔法耐性を誇るミスリルを、《土》属性のスペシャリストであるバラゴスの一族が、何十年、何代とわたって魔法を重ね続けて加工して造り上げた魔法建造物だ。

 その仕上げには、マクガシェルの扱う精霊魔法も使われている。


『風の牢獄』と、ミスリル製の法廷。

 2つの魔法障壁が俺を取り囲んでいる状況。


 ……にもかかわらず、ここに居ない女性の声が、俺に届いた?

 しかも、この声はマクガシェルとバラゴスには聞こえていないようだった。

 ……まさか、あの声なのか?

 ……でも、そんなことはあり得ない。俺は落ちこぼれなんだから。

 ……けど、それ以外には考えられない。


(きみは、精霊なのか?)


 そう聞こうとした声は、当然のように、『風の牢獄』に掻き消されていた。

 なのに――


「あっ。私の声が聞こえたんだね! やった! そうだよ! 私は、《風》の精霊の『エレナ』っていうの。よろしくねジードくん!」


 その声は――《風》の精霊エレナは、俺の声に答えてくれた。

 俺の声が、彼女に届いている。

 彼女の声が、俺に届いている。


(ええと、初めまして。俺はジード・ハスティだ)

 俺は、さっきと同じように、音の出ないまま普通に話し掛けた。

「うん、初めまして! って言っても、私たちは前からジードくんのことをよく知ってるんだけどね~。こうしてお話しできて、すごく嬉しいよ!」

 エレナが嬉しそうに、とても弾んだ声を返してきてくれた。


(俺のことを? それって、どういうことなんだ?)

「ふふー。ジードくんはね、精霊界で一番有名な人間なんだよ。私たち精霊のために必死に頑張ってくれてること、私たちはちゃんと見てたんだから」


(……俺がやってきたことを、見てくれていた)

 俺は実感が湧かなくて、思わずエレナの言葉を繰り返していた。


「そうだよ。ジードくんは、私たちの声が聞こえてなかったはずなのに、ちゃんと私たちの意見を代弁してくれてたの。私たちの苦しみを、ちゃんと理解してくれてたの。それが、本当に嬉しいんだよ!」

 すごく声を弾ませて、真っ直ぐに気持ちを伝えてきてくれるエレナ。


(そ、そうか。それは良かった)

 俺はちょっと照れちゃって、それに何よりすごく嬉しくて、上手く返せなかった。

「できることなら、もっと早く、こうして普通にお話が出来たら良かったんだけどね」

(……そう言えば、どうして今は会話ができてるんだ? 俺は、精霊たちの声を聞くことなんてできなかったはずなのに)

「ふっふーん。それなんだけどね、実は普段のジードくんじゃ、私たちの声が聞こえすぎちゃってたんだよ。だからいつもは、なんかひどい騒音になっちゃってたみたい」

(……は? 聞こえすぎちゃって? ……まさか、そんなことになってたのか)


 儀式の際に聞こえていた、気絶するほどの騒音、あの正体は精霊の声だったのか。

 ……つーか、だとしたら、いったいどれくらいの数の声が聞こえていたんだ。

 嬉しいような、ちょっと怖いような。


「でも今は、マクガシェルの魔法が音を制限してる状態でしょ? そのお陰で、私の声も少し弱められてるから、こうして会話できるくらいに抑えられてるみたいなんだ」

(……なるほど。そりゃあ皇帝陛下に感謝しないといけないかもな)

 思わずそんな皮肉も吐きたくなる。


「実はね!」

 エレナは声をいっそう弾ませて、

「ジードくんの魔力は、精霊との相性がすっごく良いんだよ。魔力の量もすっごいの! ……ただ、そのせいで、人間が組み立てた魔法術式との相性はすっごく悪いんだけど」

(そ、そうなのか)

 全然実感が無くて、腑抜けた相槌しか出てこなかった。


「そうなのだよー。ジードくんはね、魔力の質も普通の人間とはちょっと違うらしいんだけど、魔力量も桁違いなの。だから、人間が作った魔法術式を使おうとすると、すぐに魔力量の限界を超えちゃって壊れちゃうんだ」

(あぁ。なるほど……)


 確かに、自分が通常魔法を使おうとすると、魔法陣が破裂したように消えちゃってたけど……そういうことだったのか。

 これまで失敗ばかりで落ちこぼれだと思っていたことが、実は、俺が強すぎるせいだった……。

 ……うーん。やっぱり実感が湧かない。

 評価が急変しすぎ……て言うか、完全に逆転してるんだもんなぁ。

 するとエレナは、さらに困惑するようなことを言ってきた。


「何を隠そうジードくんは、私たち精霊の『真の力』を引き出すことができるんだからね」


(……精霊の、真の力? それは、マクガシェルが使うような精霊魔法じゃなく?)

「あんなのとは全然違うよ!」

 エレナは少し怒ったような口ぶりで、

「あそこで使ってる精霊魔法っていうのは、ほんのちょっとの人間の魔力を渡されて、その対価として精霊の力を強引に絞り取ってる魔法なんだ。あんな不平等契約じゃあ、精霊の負担だけが大きくて、私たち精霊の力を十分発揮できるわけないんだよ――」

 なるほど、と俺は思わず同意して、心の中で大きく頷いた。


「――でも、ジードくんになら、私たちの真の力を見せることができる。それは、ジードくんの能力が凄いっていうこともあるんだけど、それよりも、きみが私たちのことを、ちゃんと理解してくれてるからなんだ。同じ気持ちで居ることができる人。……だから私は、ジードくんのことが、誰より大切だって思ったの」

(え? ……あ、ありがとう)

「どういたしまして! ……えへへ。なんか、ちょっと照れちゃうね」

(あ、はは、そうだな。はは)


 照れくさい。

 まさか、自分がこんなに評価してもらえるなんて。

 エレナの言葉一つ一つが胸に突き刺さってきて、動悸が激しくなる。


 だって、それは全部、俺が欲しかった言葉ばかりだったから。


 正直、こんなに評価されると、甘い言葉で騙されてるんじゃないか、なんて怪しく思えてくる。

 ……けど、いっそそれでも構わないと思えるほど、嬉しかった。

 すると突然――


「騙されないで」


 ――別の女性の声が聞こえた。

次回は、本日20時30分の投稿を予定しています。

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