人間界ナンバー2の男
第19話です。
「貴様ら、ウーリルとルーエルじゃないか! 祠の管理はどうした? なぜ聖霊大祭ベスト8ごときの弱者がここに居る?」
廊下から、男の怒声が室内まで届いてきた。
廊下に残した二人が、絡まれてしまっているらしい。
とりあえず擁護しに行かないと……と振り返ったところで、ウーリルとルーエルが逃げるように生徒会室に駆け込んできた。
すかさず俺は二人を支えるように抱き留める。
「何があった?」
二人から返事が来る間もないうちに、一人の男が生徒会室に入ってきた。
その異様な格好に、思わず眉をひそめる。
彫りの深い顔立ちと、深紅の制服、そして服では隠し切れないほど筋肉質な胴体……
何より、その男の両手が、白銀色に光り輝いている――
金属の腕を持つ男が、そこに立っていた。
籠手のような防具じゃない。腕そのものが、金属でできているんだ。
どういう経緯かは知らないが、少なくとも、男は元の腕を失っていることになる。
男は、室内をぐるりと見回してきた。
ネイピアやウーリルたち、そしてエレナとセラムと俺を見て、あからさまに不快感を顔に乗せて歪ませた。
「これは、どういうわけだ? 栄光ある賢者学園の生徒会室に相応しくないザコが来ていると思ったら、それどころじゃない。部外者まで入り込んでいやがるじゃないか!」
低く震える声で叫びながら、男はズカズカと歩いてくる。金属の腕を、まるで本来の腕のように、指の先まで自在に動かしていた。
これは恐らく、『ゴーレム』の術式を応用するかたちで義肢を作っているんだろう。
そんなことを冷静に分析しながら、俺はウーリルとルーエルを背中に庇いつつ、エレナとセラムも背後に下がってもらった。
必然、男の視線が俺に集中する。
「おい貴様ら! ここは賢帝の血を継ぐ者しか入れない場所だ! 貴様らのような部外者が踏み入っていい場所ではない! 即刻出て行け!」
すると、ネイピアが咎めるように言った。
「副会長。会長である私が彼らと話をしているのよ。静かにしてもらえるかしら」
「な、何をぉっおっ⁉」
ふいに男は肩をビクンと跳ねさせながら、固まってしまった。
束縛魔法――『自縄風縛』だ。
「……ぐ。ふざけやがって!」
男は必死にもがいているが、ネイピアの作り出した《糸》が切れる気配は無い。むしろ余計に束縛が強まっていくだけ。
「あ、どうせだから紹介しておこうかしら」
何事もないかのように、ネイピアが俺たちに振り返って言ってきた。
「彼はコルニス・キルス。伝統あるキルス家の嫡男よ。賢者学園の三回生で、今は生徒会の副会長をしているの。世界に二人しか居ない『超ミスリル級』の魔法士で、《土》魔法士としては間違いなく世界最高よ。現に、前期と前々期の聖霊大祭を圧勝で連覇していたの。そして今期の聖霊大祭でも、私に次いで準優勝を勝ち取ったほどの実力者よ」
「くっ!」
ネイピアの皮肉まみれの紹介に、コルニスは不快感を露わにしていた。
顔を真っ赤にして必死に束縛を破ろうとしている……だが、やはり破れない。
この数十秒間だけで、二人の力量やら関係性やらがよく解って、こちらとしては有り難い。
それにしても、コルニス・キルスか……。
懐かしい苗字だ。
おそらく……というか間違いなく、あの裁判長バラゴス・キルスの子孫だろう。
そういや、あいつの長男はマクガシェルの娘と結婚してたんだっけ。となると、子孫には賢帝の血が流れてるってことになるわけだ。
さすがに666年後の子孫となれば、面影のようなものは見られないけれど、666年後でも先祖と同じように俺に突っかかってくるのが、少し可笑しかった。
この男、聖霊大祭でネイピアが優勝する前までは、圧勝で連覇していたらしいが……。
実際、自分の腕と同じような感覚で金属を動かせるのは、かなりのレベルの魔法士であることには違いない。恐らくゴーレム製造についても才能があるはずだ。
それに何より、彼の義肢に使われている金属……。
あれはミスリルだ。
ミスリルを、魔法によって自分の腕として自在に操っている。
それほどの魔法士は、少なくとも666年前には居なかった。
バラゴスもそうだったが、キルス家は元から《土》属性の魔法に長けていた。その血筋の影響もあるんだろうが、それを差し引いても、彼の魔法レベルは非常に高い。
少なくとも、普通のミスリルすら壊せなかったルーエルとウーリルは、コルニスに勝てないだろう。
つまりこの男は、正真正銘の『ミスリル級』魔法士――それどころかマクガシェルよりも強いかもしれない。
まさに『超ミスリル級』の名に恥じない魔法士だ。
ただ、そのコルニスも、現状ではネイピアに完封されてるわけだけど。
世界で二人だけだという『超ミスリル級』
だが、その二人の間にも、歴然とした戦力差が見てとれた。
次話の投稿は、本日19時30分を予定しています。




