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人間界最強に会うために

第12話です。


 嫌な『歴史』を知ることになって、空気は最悪だった。

 ウーリルとルーエルも、完全に怯えてしまっている。

 ただ逆に、こうして怯えることで従順になってくれている方が、今は都合がいい。

 可哀想だけど、まだこの状況を利用させてもらう。


 重苦しい無言のまま、俺たちは坑道跡を抜けて地上に出る。

 帝都グランマギアの北側に聳えるシュテイム山、その麓に広がる森の中だった。


 666年ぶりの、人間界の地上の光。

 木漏れ日であっても温かく感じるほどの、優しい空気だった。


 俺は思わず深呼吸していた。

 身体の中まで、懐かしい温もりに包まれていく。

 お陰で、少し落ち着きを取り戻せそうだった。

 それはエレナとセラムも同じだったようで、ふたりも興味深そうに辺りを見渡していた。


 緑深く生い茂る森の木々の向こう側に、巨大な白銀色の壁が見え隠れしている。

 あれは、帝都の外壁だ。


 高さ20mほどの、魔法耐性・強度の高いミスリル製の外壁。モンスターの脅威から街を守るために造られている。

 改めて見ると、壁の長さや高さはさほど変わっていないようだが、造りは頑丈そうになっていた。


 ……ということは、ミスリルの外壁を改修できるレベルの魔法士はいるんだな。そいつが『超ミスリル級』ってことか。


 そして、それと同時に。

 666年経った今も、変わらずモンスターは存在しているということでもある。


 そもそもモンスターは、何らかの魔術的な力場が発生することで、自然の魔力が劇的に動植物に集積されてしまうために生まれる、と言われている。

 それにより、動植物の特性が魔力によって強化され、他の魔力保有物を捕食して成長していく凶暴な化け物になる。特に人間は、あらゆる生物の中でも魔力が強いから、よくモンスターに狙われてしまう。


 本来、人間が使う魔法は、モンスターに対抗するための手段のはずだった。

 それがいつしか、人間同士の争いに使われるようになって――

 そしてそれが、精霊を服従させる力になってしまった。


 だから。

 今度こそ、俺の力で、その関係を終わらせる。

 俺が人間の代表になって、根源誓約を破棄するんだ。


「ルーエル、ウーリル、二人にはまだ付き合ってもらうぞ」

 そう言うと、ルーエルが諦めたように呟いた。

「どうせ今から逃げたって、あたしたちは『魔王復活を許してしまった』っていう責任を問われるだけだもの。好きにしなさいよ」

「あぁ、好きにさせてもらおう。……まぁ、こうして俺たちの役に立ってくれているのだから、もし人間がお前たちを攻撃してきても、その身の安全は俺が保証してやろう」

 俺のせいで責任を負わされたとしたら、堪ったもんじゃない。


 それを聞いたルーエルは、「まるでペット扱いじゃない」と悔しそうに歯噛みしていた。

 一方のウーリルは、驚いたように俺を見て、何か考え事をし始めていた。

 彼女が何を考えてるかは解らないが、俺は話を進めていく。


「これからネイピアに会いに行く。部外者の俺たちが会えるよう手配してもらおうか」

「えっ。そ、そんなの無理ですよぅ──」

 ウーリルが泣きそうになりながら訴えてきた。

「──ネイピア様は、現皇帝の嫡女であるだけでなく、賢者学園の生徒会長であり、そして今期の聖霊大祭の覇者として、帝国の最重要人物になっているんですから。私たちみたいな学園の卒業生だからといって、会わせてもらえるわけじゃないです」

「なら、通信魔法か何かで話をするくらいならどうだ?」

「それも難しいです。関係者であれば、ネイピア様と繋がる通信魔法が使えますが、部外者が使おうとすればすぐに通信が切れて、そのまま通報されたりして無事では済みません」

「なるほど……」


 ……まぁ、俺たちだったら無事で済むんだろうけどな。

 だからって、面倒なことになりそうだし、そもそも会話ができないんじゃ意味が無い。


「正式なアポ取りも通信もダメ。となると、むしろ力尽くで行った方が手っ取り早いか」

「そんな⁉ それこそ無理ですよ。ネイピア様は、結界のスペシャリストなんです。帝都の街も、ネイピア様が普段の生活をされている賢者学園も、他でもないネイピア様の結界に護られています。ネイピア様に近づけば近づくほど、結界の力が強まっていくんです」


「ほぅ、結界ねぇ……」

 とはいっても、俺たちの力があれば、壊すことは簡単だろう。

 だが、街に張られた結界は、人々を守るための要だ。壊すわけにはいかない。

 だから、壊さずに突破する方法を見つけないといけないだろうな。


 俺が考え込んでいると、ルーエルが怒るように睨んできた。

「ネイピア様の結界は、賢帝マクガシェル様をもはるかに凌駕しているのよ。あの封印の祠に掛けられた結界と同じだと思ったら、痛い目を見るわ!」

「そうなのか。それは楽しみだな」

 それは皮肉半分、本心半分の言葉だった。


 ルーエルは悔しそうに歯噛みして、

「……ネイピア様なら、あんたなんかに負けないもん!」

 と涙目になって叫んでいた。

 すごい信頼だな、ネイピア様。

 会うのが楽しみになってきた。

次話の投稿は、明日1月28日の、18時30分を予定しています。

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