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666年で歪められた歴史

第11話です。

第二章



 地下施設から地上へ向かう、長い坑道跡を進む。

 道すがら、簡単な自己紹介をしてもらいながら、今の人間界の基本情報を聞き出した。


 ウーリル・カラマドールと、ルーエル・カラマドール。

 共に22歳の、双子らしい。

 ちなみに、気弱そうなウーリルの方が姉だそうだ。


 二人は、賢者学園の卒業後、帝国軍へ所属した。

 元から魔法の実力を評価されて、エリート街道を進む二人だったが、今期の聖霊大祭でついに入賞を果たし、出世ルートを確実にした……

 と思っていたのだが。

 こうして、『1年間、伝説の祠を監視しているだけ』という暇な名誉職を続けていたところ、俺たちに出くわしてしまったという。


「単なる退屈な伝統儀式だと思ってたのに、どうしてこんなことに……」

 ルーエルが、絶望と屈辱とを混ぜたような、泣きそうな声で呟いていた。

「ご、ごめんなさい、ルーエル。私がもっとちゃんと調べてれば、こんなことには……」

 ウーリルは、相変わらず泣きそうな声で呟いていた。

「ウーリルは悪くないわよ。悪いのは、いつも強引に話を進めちゃうあたしなんだから」

「それは違います。ルーエルが悪いって言うなら、私だって同じくらい悪いんです。私たちの決断は、いつも二人で一つなんですから」


 そんな双子の反省会を、俺たちはしばらく黙って聞いていた。

 二人とも、根は優しいんだろう。

 だからこそ、正義心に駆られて、『魔王』である俺たちを攻撃してきたわけだ。

 二人は何も悪くない。

 悪いのは、間違った歴史知識なんだ。


 ウーリルとルーエルは、反省会を終えると、この時代の説明を始めてくれた。

 今は、帝紀1313年。

 ちゃんと……と言うのも可笑しいけれど、ちゃんとあれから666年が経過していた。

 そして、まだ『帝紀』が続いていた。


 ダインマギア帝国は健在で、今もマギアグラード家の血筋を基礎とした皇族が、世界を支配しているらしい。

 とりわけ、666年前の『賢帝マクガシェル』は、正史の中で燦然と輝く伝説的な英雄として語り継がれているのだと。

『賢帝』という二つ名と、そして『賢者学園』というエリート校の創設者として、称賛され続けているってわけだ。


 ただ、妙な点がある。

 666年前のあの日、皇帝マクガシェルの目の前で、俺たちは《扉》を閉ざすことに成功した。

 あれ以降、人間界では召喚の儀式が無効化されて、精霊魔法が終焉を迎えたはずだ。

 事実、《扉》の閉鎖以降は、例の精霊召喚未遂事件が起こるまで、誰ひとりとして精霊が連れ去られることはなかった。

 つまりマクガシェルは、いわば精霊魔法文明を終焉させた戦犯のはず。

 なのに、『賢帝』などと呼ばれて、崇め奉られているようになっている。


 どういうことなのか、その辺りの歴史認識を聞き出してみた。

「今から666年前。魔法文明が栄華を極めていたこの世界は、突如、異世界を支配する魔王に襲われました――」

 ウーリルが、教科書にある内容として話していく。

 それはやはり、マクガシェルに都合の良いように改竄された歴史だった。


「魔王は、多くの『悪魔』たちを従えて街を襲い、それまで帝国が築き上げてきた魔法文明を破壊し尽くそうとしました。それに対して、当時帝国を治めていた皇帝のマクガシェル・マギアグラード様は、彼の右腕であるバラゴス・キルス様と協力し、魔王と配下の悪魔たちに戦いを挑みました――」


 ……悪魔ねぇ。

 俺の隣を歩いているエレナとセラムは、さすがに不機嫌そうだった。

 創り話だとはいえ、侮辱されるのはたまったもんじゃないだろう。


「ですが、魔王の力は強大でした。しかも、人間の魔力を奪うために平然と騙し討ちをしたり、女子供にも残虐な行為を繰り返し、力ある人間を魔術契約で縛り付けて奴隷のように働かせたりと、好き放題にやっていました――」


 ……へぇ。

 そいつは、どこかで見たような内容だなぁ。


「魔王との戦いは熾烈を極め、結果として当時の魔法文明はほとんど破壊されてしまい、優れた技術がたくさん失われてしまいました。それでも、多大な対価を払いながらも、マクガシェル様は魔王の封印に成功し、世界の秩序を護り抜いたのです。その封印の地こそ、この地下施設――『封印の祠』。以来、この山は魔法の聖地とされ、『聖山』として人々の信仰を集めるようになったと……ひっ⁉」


 ウーリルが俺の顔を見た途端、息を呑むような悲鳴を上げていた。顔も身体も引き攣っている。

 ……そんな怯えるくらいに、俺の顔は怖くなっているのか。

 俺だけじゃなく、エレナも、セラムも。

 怒りを、隠せない。

 もし目の前にマクガシェルが居たら、俺は、何をしていたか解らない。

 ……あの男は、自分のしてきた残虐行為を隠すだけじゃなく、俺や精霊たちに押し付けやがったんだ。

 それで自分はのうのうと、『賢帝』などと名乗って英雄気取り。

 そのまま、伝説となって今も語り継がれ、子孫は栄華を誇っている……。


 最低だ!

 最悪だ!

 理不尽だ!


 精霊たちは、あんな苦しい召喚と奴隷の時代をようやく断ち切ったはずなのに……

 666年経った今も、また召喚の危険に晒されるようになってしまったっていうのに。


 根源誓約のせいで……。

 マクガシェルが残した最低最悪の束縛のせいで!

 今も、昔も、苦しめられている。

 あれがある限り、これからも危険は残り続けるんだ。


 憎い――

 根源誓約が憎い!


 だから俺は、根源誓約を破棄しなくちゃいけないんだ。

 今度こそ。

次話の投稿は、本日20時30分を予定しています。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] 今も昔も苦しめている? 昔はそうだったでしょうが、つい最近までは違いますよね? 無理矢理精霊魔法を使われそうになって、慌てて破棄させようと人間界に戻ってきた筈…… それに、精霊界からは…
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