vs霊装
新章22話です
ガアアァァァッ!
マグマの空洞に、フレイムリオンの咆哮が響き渡る。
幾重にも重なる咆哮。フレイムリオンの青白いたてがみがみるみる巨大になって、俺たちの《氷》の舟を覆い尽くしていた。
……熱い!
咄嗟に浮かんだ感想。それは、セラムの《氷》でもエレナの《風》でも、この灼熱を遮断しきれていないことを意味していた。
霊装の力を押し返すほどの力……。
これが、魔剣キリアムの力――霊装の力⁉
ふと、フレイムリオンの青白い炎が、いっそう白く輝き出した。一段と熱波も激しくなる。
このまま俺たちを焼き尽くそうっていうのか!
セラムの力を最大限に、すべて防御に回せば無傷でいられるだろう……だけど一発は耐えられても次は判らない。そもそも全部で何体居るのかも判らないのに、先の展望の無い防衛戦なんてできるわけがない。
だったら、やられるまえにやるしかない!
作戦は、至って簡単だ。
すべての防御魔法を解除して、マグマが身体を焼く前に、渾身の攻撃魔法で敵を倒してしまえばいい。
狙いは魔剣キリアムひとつ。
防御のことはいったん忘れて、攻撃に集中するんだ。
《氷》の箱も《風》の膜も、今は要らない。
すべての力を、攻撃に集中させる。
ただそれだけだ。
「任せてよ」「大丈夫」
霊装を通じて意識を共有するエレナとセラムは、手短に返してきた。
みんな、俺たちならできると信じているから。
……いくぞっ!
心の中の合図と同時に、《氷》の舟が消失した。
一瞬にして俺の身体が灼熱に包まれる――そんなことを気にする暇なんて無い。
霊装エレナの一閃が、マグマの中に《風》を巻き起こし、フレイムリオンの熱波を押し返す。と同時に、《風》の刃が一筋の道を切り開く。
奥に居座るフレイムリオン――魔剣キリアムへと続く一本の《風》の道。
霊装セラムを構えた俺は、一瞬にして魔剣キリアムの目前に迫った。そして勢いそのままに、霊装セラムの《氷》の一閃を放つ――
キイイイイィィィィィィン……
甲高い音が響き渡る……その直後、猛烈な衝撃波が辺りを襲った。
《氷》が粒となって飛び散り、フレイムリオンの群れを次々と打ち砕いてゆく。
マグマ全体が激しく波打つ。
その中心で、俺は――俺たちは、動きを止めていた。
霊装セラムの一撃、それを、魔剣キリアムが受け止めていた。
剣の形のまま――フレイムリオンの口にくわえられたまま。
俺たちの攻撃を、受け止めていた。
「……くっ」
俺は、霊装エレナの《風》に乗って、いったん距離をとる――
「死ね」
――魔剣キリアムが眼前に迫っていた。
「っ⁉ くそっ」
俺は強引な体勢のまま《風》を起こして、自分の身体を吹き飛ばした。
魔剣キリアムの斬撃が髪の毛をかすめる。
「……ぐぁっ⁉」
ふいに全身に痛みが走った。
攻撃は避けたはずなのに……髪の毛にしか当たっていないのに。
……まさか、それだけでこのダメージなのか?
確かに、物理的な攻撃じゃなく魔法的な攻撃だったら、ありえない話じゃない。髪の毛一本一本にも魔力がこもっているし、魔力回路も繋がっている以上、そこにダメージが与えられるということは、理論的にはありうる話だ。
だが、髪の毛にある魔力回路なんて微細も微細。
ここをかすめただけで全身にこれほどのダメージが来るなんて……。
……これが、霊装を相手にするってことか。
正直、考えが甘かった。
……だとしても。
俺たちが勝てない相手じゃない。
今のヤツには、明らかな弱点があるんだから。
そのとき、ジュッと音を立てて俺の肌が焼け始めた。精霊界の熱波ですら耐えてきた俺の身体だが、ここはそれ以上に過酷だった。
だが、そんなもの、とっとと終わらせて帰ればいいだけだ。
その気持ちは、エレナとセラムにも伝わっている。だから、みんなで協力してやるだけだ。
「消えよ。貴様らは邪魔な存在でしかない」
魔剣キリアムが淡々と、だが少し苛立ちを込めたように言ってきた。
「お前は精霊なんだろ。いったい何をしようっていうんだ?」
そう問いかけながら、次の攻撃態勢を整える。
答えは期待していなかった。
だが、魔剣キリアムは答えてきた。
「これは、復讐だ」
「復讐?」
「我は、まつろわぬ者たちの、想いの結晶。皇帝に虐げられた者たち、そして、精霊王に見捨てられた者たちの、復讐」
「皇帝に、精霊王だって? 見捨てたって、いったい……」
「故に、我はすべてを、破壊する!」
魔剣キリアムの荒ぶる声がこだました。
次の瞬間、魔剣キリアムの切っ先が俺の眼前に迫っていた。
ガィィンッ! 咄嗟に霊装セラムを振るって弾き飛ばす。だが強引にやりすぎたせいで鈍い音がして手が痺れた。
「くっ……」
セラムが苦しそうに声を漏らす。
霊装の状態であっても、感覚は人型のときと変わらず存在している――むしろ霊装こそが本来の姿であるため、感覚の強さは研ぎ澄まされているらしい。
……あまり無理はさせられない。
だからこそ、次で決める。
本日の投稿は以上です。
次話の投稿は、明日の18時、または18:30を予定しています。




