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同時多発襲撃だろうと、すべて護ってみせる

新章18話です

「なっ……何なのよアレは⁉」

 進化したフレイムリオンを目の当たりにして、ルーエルが悲鳴のように声を裏返らせながら叫んだ。

 それでもすぐに戦闘態勢に入っているのは、流石だ。


「みんな近づくな! ヤツの炎は、ミスリルだって蒸発させるぞ!」


 俺は叫びながら、エレナとセラムの手を握って前に躍り出た。

 同時に、右手のエレナと左手のセラムが光に包まれ、霊装となる。


 俺はすかさず霊装エレナを振るって、みんなの前に《風》を使った真空空間を壁のように作り出し、続けて霊装セラムの一閃によって《氷》の壁を築き上げた。

《氷》が熱を和らげ、真空は熱を通さない。これで少しは、灼熱の影響を遮断することができる。


「フレイムリオンですって? 前に地下で遭遇した、精霊界にしか居ないはずのモンスターよね」

《風》の通信魔法の向こうから、ネイピアが聞いてきた。


「ああ。今このゼガ島にフレイムリオンが現れたんだ。しかも、以前のモノより一回りは大きい」

「それは……」

 ネイピアは、考えあぐねるように黙りこくってしまった。


 代わりに、周囲の声がよく聞こえてくる。

「あ、あんなの、どうやって倒すんだよ……」

「ミスリルが蒸発って、じゃあ俺のアイアンゴーレムなんて……」


 帝国軍の魔法士たちは、フレイムリオンを前に狼狽えていた。

 確かに、ここに居る帝国軍の魔法士たちでは、どう足掻いてもあのフレイムリオンを倒せないだろう。それはウーリルとルーエルも同じこと。

 たとえ足止めを目的として戦っても――あるいは逃げようとして背を見せただけで、きっと一瞬で炎に包まれ全滅させられるだろう。

 それほどの力の差があるんだ、帝国軍に勝ち目はない。


 コイツを倒せるのは、俺たちしかいないんだ。

 だけど同時に帝都もモンスターに襲撃されている――その距離は200㎞も離れている。


 俺たちがエレナの《風》で飛んだとしたら、最速で15分。ここでフレイムリオンを倒してから帝都に向かえば、帝都とゼガ島、両方の敵を倒すことは可能だろう……。

 と考えたところで、ふと思い当たる。


 もし、あのフレイムリオンを倒して俺が帝都に行っている間に、ここでまた新たなフレイムリオンが出現してしまったら……。


 そうなったら、そのフレイムリオンは15分間も暴れ続けることになる。そうなったら、帝国軍のみんなを助けることはできない。帝国軍がフレイムリオンを相手にして、15分ももつわけがない。ただでさえ、今回のモンスターは組織的に動いているきらいがあるのだから。


 ……だとしたら。


 ふと、そこで俺は、さっきのルーエルの言葉を思い出した。そして同時に、ひとつの作戦を思い付いた。


「ルーエル、そしてウーリル。お前たちはサーベリオンタイガーを倒せるはずだよな?」

「え? そりゃ倒せるけど、でも、そこに居るのは……」


「よし。じゃあ今からみんなで帝都に飛んでくれ」


「「…………へ?」」

 ウーリルとルーエルが、声を揃えて同時に小首を傾げていた。

「と、飛んでくれって、どういうことよ?」


 俺は手短に作戦を説明する。


「今からみんなを、霊装セラムで凍らせる――」

「はぁっ⁉」


「そして、霊装エレナの《風》で思い切り吹き飛ばす――」

「ちょっ⁉」


「霊装セラムの《氷》は万物を凍らせることができる。ちょっとやそっとの衝撃じゃ壊れない――」

「……いやいや」


「それを霊装エレナの《風》で飛ばせば、五分足らずで無傷のまま帝都に辿り着くことが可能だ。まさにルーエルのお望み通り、超高速で帝都に帰ってもらうってわけだ」

「…………」

 ルーエルの反応は無くなっていた。


「なるほど、それはいい手段だわ!」

 ネイピアが通信魔法越しに、少し興奮気味な声を届けてきた。

「細かい軌道修正は、こちらに任せてちょうだい。貴方たちはみんなを思い切り吹き飛ばしてしまえばいいし、ウーリルやルーエルたちも思い切り吹き飛ばされなさい。上手くいけば、到着時の衝撃も攻撃として有効活用できるでしょうし」

 早口になって声も弾んでいた。


 一方のウーリルは努めて冷静に、何やら思案するように顎に手を当てながら、

「そんなことが、可能なんですね?」

 確認するように聞いてきた。


「ああ。俺たちならできる――」

 俺は、エレナとセラムに目配せしながら頷くと、ウーリルとルーエルに視線を移して。

「だから、ウーリルとルーエルは帝都を護ってくれ」

「そういうことなら、判りました」

 ウーリルが承諾した。


「ちょっ⁉ 私はまだ心の準備が……」

 ルーエルが何か言っているが、気にしない。

「おい待ってくれ⁉ なんで俺たちまで……」「いや、でも、ここに居てもアイツと戦わないとだし……」

 周囲の帝国軍人たちも騒がしくなっていたが、気にしない。


 現場の指揮権は俺にあるし、聖霊大祭覇者であるネイピアも承諾済みだ。

 俺はさっそく霊装セラムを構えて、一閃を走らせる。


「おのれぇ、覚えてなさいよ! ジ、ジードォ!」

 まるで断末魔のような叫びを放って、怒りに歪んだ顔で大口を開けながら、ルーエルは凍り付いた。

 ウーリルも、帝国軍の魔法士たち20人も、まるで一瞬で時が止まったかのように凍り付いていた。

 それは誇張表現じゃない。精霊魔法の《氷》によって凍り付いたものは、一瞬にして、あらゆる動きを静止させる。

 身体の動きも、魔力の動きも、魔法も、そして心の動きさえも、完全に停めてしまうことができるのだ。

 その《氷》から解放された瞬間に、彼らは意識が途切れることもなく動き出す。まるで瞬間移動したような気分にさせられることだろう。


 グオオオォォォガァァァァァッ!


 ふいにフレイムリオンが雄叫びを上げた。空気がビリビリと震え、無数の青白い火の粉が衝撃波に乗るように俺たちへと飛んで来ていた。

 精霊界の炎による熱波……アレを喰らったら、いくら精霊魔法の《氷》と言えども、多少は強度が削られてしまう。


 俺はすぐに霊装エレナを構えると、その刃に大量の《風》を纏わせながら、横薙ぎに振り払った。

 ゾンッ! と大気を押し潰した音が鳴り響いた、次の瞬間、ウーリルやルーエルたちを凍らせていた《氷》の塊が見えなくなった。

 そして一拍遅れて、空気を引き裂く雷鳴のような音が激しく轟いた。


 遥か遠方――夜の闇に覆われた海の上を、音速を越えて飛んで行ったのだ。

 その直後、肌がジュッと鳴るほどの酷い熱波が襲い掛かってきた。

 まさか俺の肌が焼けるほどとは。通常のフレイムリオンならここまで熱くない。身体の大きさだけじゃなく、力も進化しているようだ。

 俺は咄嗟に霊装エレナを振るって熱波を押し返しながら、反動の《風》に乗ってフレイムリオンから距離を取り、改めて戦闘態勢を整えた。

次話の投稿は、20:45を予定しています

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