帝都の危機、さらに…
新章17話です
双子魔法士のウーリルとルーエルが、どこか楽しげに声を弾ませている。
そんな賑やかな夜が、突如、さらにやかましくなった。
「緊急事態よ! 帝都がモンスターの大軍に襲われているわ!」
夜の静寂に、ネイピアの《風》を使った声が響き渡った。
ネイピアらしからぬ動揺した声。
俺たちだけじゃなく帝国軍の面々も一斉に飛び起きていた。
ただ、さすがにネイピアの《風》による通信魔法でも200㎞の距離を繋げるのは厳しいらしく、声が不安定だった。
するとすぐにエレナが俺の意図を察して、《風》を送り返して強固な通信魔法を繋げた。
これで俺たちの声は、少しのタイムラグも無く、鮮明に聞こえるようになったはずだ。
「状況を詳しく教えてくれ」
「帝都全体が、様々なモンスターの群れに囲まれてしまっているのよ。どれもこれも普段のモンスターより凶暴化している。その数は、ざっと300体」
「かなり多いな。それでも、ネイピアの結界は大丈夫だろ?」
「まあ、貴方に信頼されているなんて素直に嬉しいけれど――」
ネイピアは自嘲するように、
「確かに私の結界は無事よ。だから、まだ街の中には被害は出ていないわ。ただ、ミスリルの外壁は崩壊寸前。せっかく造り直したのにこのザマよ。それを受けて皇帝は、住民全員を王城と学園のある高台に避難させている状態よ」
「なるほど。ならとりあえずは、住民に被害は無さそうか」
「それはそうなのだけどね……」
ネイピアは溜息交じりに、
「たとえ私の防御力が高くて、無傷でいられたとしても、あの狂暴化したモンスターを撃退できるほどの攻撃力がここには無い。ましてやモンスターは、無限に湧いてくるような状態。あれらを殲滅しない限り、延々と籠城する破目になるわ」
「……なるほど」
それは、前にもネイピアが危惧していたことだった。
するとネイピアは、少し声のトーンを落として言葉を選ぶようにしながら、
「それに、今回のモンスターの群れは、明らかに異様な様相を見せているのよ」
「と言うと?」
「一言で言えば、まるで軍隊みたいに動いているわ」
俺は思わず、ハッと息を呑んでいた。
「つまり、統率された動きをしているってことか」
「ええそうよ。そもそも、街を囲んでいる態勢からして整然としているわ。攻撃の効きにくいスライム系のモンスターやミスリルゴーレムが前衛として立ちはだかっていたり、それを目隠しにするみたいに小柄な獣型モンスターが奇襲を仕掛けてきたり、それに空からは、編成飛行をするみたいに飛んでいるモンスターが、代わる代わる断続的に空から攻撃してきたりしている」
「軍隊のような動き……司令官……」
ふと脳裏に浮かんできたのは、魔王ゼグドゥ。
奴の能力は、『モンスターを支配する』という、まさに『魔王』という名に相応しいものだった。
その力が、今の人間界にも及んできているのか?
そう考えると、魔王が所持していたという魔剣キリアムのことも気になってくる。
そんなことを考えていると、通信魔法の向こう側から、爆発音のようなものが聞こえてきた。
「どうした!? 大丈夫か?」
「ええ。ミスリルの壁が壊れただけよ」
「いや、だけって……」
「依然として私の結界は無事よ。それに、壁の内側にプリメラも防壁を造っているから、多少は時間稼ぎにもなるはず、だけど……」
「のんびり話をしている場合でもないな」
「ええ。すぐに増援に来てくれると助かるわ」
「ああ、判った」
話をしながら、俺はエレナの《風》を通じて、帝都周辺の気配を探知していた。
帝都の周囲を取り囲むように、何重にもモンスターの群れが展開されていた。その総数は、現在315体。
なるほど、確かに規則正しい隊列を組んでいるようだった。
しかも、少し離れた所には、別動隊のような隊列まである。それらを合わせたら400体も超えていそうだ。
これを殲滅するには、ネイピア一人が攻撃に転じたくらいじゃ焼け石に水だろう。かといって、帝国軍を組織して立ち向かうにも、彼等では確実に実力不足だ。それに、帝都の守りが疎かになってしまったら本末転倒だ。
やっぱりここは、自分たちがとっとと行って帰って来た方がいいだろう。
「それじゃあ、エレナ、セラム……」
と、ふたりを振り返った次の瞬間――
カルデラの内部に、火の手が上がった。
俺たちの視線が一斉に、カルデラの内部――ゼガ島のほぼ中央に集まっていた。
すると突然、カッと眩い光が放たれ、辺り一面が真っ白に染まった。
「うっ……うわぁっ⁉」
軍の魔法士が悲鳴のような声を上げる。その視線の先には……。
「フレイムリオン⁉」
俺は思わずその名を口走った。
青白い炎に全身を覆われ、その中で一段と激しく燃え上がる頭部のたてがみが、ゆらゆらと揺れている。
本来ならば精霊界にしか居ないはずの、獣型モンスター。
とはいえ、これまでも何体か、魔王ゼグドゥ復活の影響によって、この人間界にも姿を現していた。
だが、今ここにいるフレイムリオンは、これまでのヤツらとは比較にならないほど巨大だった。
コイツも、明らかに進化している。
フレイムリオンは、ゼガ島のカルデラの地中から、大地を炎で溶かしながら――いっそ蒸発させながら、ここに姿を表していたのだ。
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