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そういえば前回は間取り付きでした
「……でな、イギリスの売れないアーティストが空き家、向こうはマンションとかだが、勝手に占拠してアトリエにする、「スクワット」てムーブメントもあるみたいだがな。なにしろ日本も空き家が問題になってるだろ? そういうビジネス、日本でも流行るかな、って考えててなぁ」
こちらは建物の外。
キアを待つ源大朗とアスタリがヒマに任せてしゃべっていた。おもにしゃべるのは源大朗のほうだけだったが。
「音がしました。行きます!」
「たとえばこんな旅館の空き家とか、ソーホー的にアーティストのシェアハウスに、だな。って、おい!」
聞き耳をずっと立てていたアスタリが駆け出す。空き家の玄関へ飛び込んでいく。
「待てって、こら! 連絡が来るのを……、って、くそ! もうなにかこれ、最初の趣旨と変わってねえか。って、走るな! 気を付けて進めよ。空き家っていうよりもう廃屋なんだからな」
けっきょく源大朗も追うように建物の中へ。
「はい。ぁっ! あっちです!」
「さっき入ってきたのは非常口みたいだな。こっちは離れで、正面玄関は渡り廊下でつながった向こう、か。ん? そこんとこ、扉が外れて倒れかかって、狭くなってるから、気をつけろ、よ……、って言った端から」
「やだ! なんで抜けないのぉ! お尻」
「あー、押してやろうか、どら」
「ぃ、要りません。そんなに大きくありませんから!」
「現に、挟まってるんだが……」
アスタリのお尻を押すかどうか、源大朗が迷っているうちに、
「あっ、キア!」
「んん?」
「マレーヤも! 無事だったんですね、良かった!」
「お、抜けた」
廊下の向こうにふたりを見つけたアスタリ、駆け出す。
「アスタリ! なんでここがわかったのよー! でもうれしい! あははっ!」
「ぅ」
キアも巻き込まれて抱きつかれる。
そして、
「ぐぅぅ」
マレーヤの足元にわだかまる、黒い影。
「えっ!! これ、な、なんですか!?」
「クロだよ!」
「でも、これ……、まさか」
思わず後ずさりするアスタリの代わりに、身を乗り出した源大朗。
「子ども、か……。こりゃあ、オレにもわからねえな。何族の亜人だ」
「らぁぁぁ」
その子ども、クロが両手を差し出す。その手も、顔も、すすけたように真っ黒だった。
背丈は、長い尻尾まで入れて一メートルほどだろうか。全体に、黒くて長い毛に覆われて、まるで黒いモップといったふう。
人間と明らかに違うのは、肌がウロコのようにひび割れていること。目も真黒で白目がない。それにふたつの目がずいぶんと離れて大きかった。
「この子、ここに住んでる……んですか?」
「違うよ。学校からの帰り道歩いてたら、拾ったの」
「拾ったぁ?」
「うん。なんか、ここの隣の公園で子どもたちが騒いでるから覗いたら、クロがいて、棒で突かれたり、石投げられたりして、いじめられてたんだ」
「それは、かわいそうです」
「このなりだからな。子どもにしたら、お化けみたいなもんかもな」
「あとでわかったんだけど、クロ、公園にいるバッタやカエル食べたり、人のお昼のお弁当取ったりとかして、それで。真っ黒だしボロボロで汚いし、マレーヤもびっくりしたんだけど、いじめるのはダメ! って、クロのこと、助けたんだけど」
いじめる子どもたちを追い払ったものの、そのままにしておけばまた同じことになるのは目に見えている。そのうえ、
「通報されたら、もっと」
「不法入国の亜人専門の、特殊衛生局につかまったら……」
「こういう正体不明の新種は徹底的に調べられて、よくても一生施設に閉じ込められて、ってヤツだな」
「ね! でしょ! だからマレーヤが飼ってあげなくちゃって! でもクロ、こんなだし、いきなり連れて帰ってもみんなに怖がられたり嫌がられたりして、そしたらクロがかわいそうだし」
「うぐぁ」
クロが鳴いた。遠目では中型犬か、あるいは猿? というふうだが、やはり近寄って見ると、
「アウト、だな」
「でも、ずっとここに置いておくわけにはいきませんよね」
「どうして? ここなら誰も入って来ないし、マレーヤがご飯もあげるし、面倒見るから、それで良くない? ね!? なんかこの建物、外から入れる地下室みたいなのがあって、最初そこにいたみたいで」
「なんで誰も来ないって思うんだ。現にオレたちが入って来てるだろ」
「それは……、マレーヤのこと、跡をつけてきたから、でしょ!」
「だいたいマレーヤがここを見つけて入って来れるんだから、子どもや変な人なんかがいつ入って来てもおかしくないですよ」
「さっきもタバコの吸い殻落ちてた。そんなに古くない」
キアも言う。
ホームレスなどが出入りしているのかもしれない。
むしろいままで見つからなかったほうが幸いだったのかも。
「じゃあ、どうしたらいいのさー。クロを警察とかに渡すのはぜったいダメだよ! 変な実験とかされて、クロ、死んじゃう!」
もう涙目になっているマレーヤ。
「困ったな」
「けどほんと、ここに置いておくのは」
「わかった! じゃあひとまず、マレーヤたちが住んでる「ふじ」に連れて行くよ。もうアスタリにもバレちゃったし」
「お時婆さんはどうする。あの婆あ、鼻が利くぞ。すぐ嗅ぎつけて来るぞ」
「それは……、なによ、みんな黙っていれば、わかんないってば」
「そうじゃないんだな。こういうのはバレるもんさ」
「じゃあどうするのよ。クロのこと、どこかにやるのはぜったいぜったいイヤだからね!」
マレーヤ、しゃがみこむとクロを抱きしめる。
「ぐぅぅうう」
「……しかたねえな」
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