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TOKYO異世界不動産 3軒め  作者: すずきあきら
第二章 マレーヤの秘密の「仕事」
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2

そういえば前回は間取り付きでした

「……でな、イギリスの売れないアーティストが空き家、向こうはマンションとかだが、勝手に占拠してアトリエにする、「スクワット」てムーブメントもあるみたいだがな。なにしろ日本も空き家が問題になってるだろ? そういうビジネス、日本でも流行るかな、って考えててなぁ」


 こちらは建物の外。


 キアを待つ源大朗とアスタリがヒマに任せてしゃべっていた。おもにしゃべるのは源大朗のほうだけだったが。


「音がしました。行きます!」


「たとえばこんな旅館の空き家とか、ソーホー的にアーティストのシェアハウスに、だな。って、おい!」


 聞き耳をずっと立てていたアスタリが駆け出す。空き家の玄関へ飛び込んでいく。


「待てって、こら! 連絡が来るのを……、って、くそ! もうなにかこれ、最初の趣旨と変わってねえか。って、走るな! 気を付けて進めよ。空き家っていうよりもう廃屋なんだからな」


 けっきょく源大朗も追うように建物の中へ。


「はい。ぁっ! あっちです!」


「さっき入ってきたのは非常口みたいだな。こっちは離れで、正面玄関は渡り廊下でつながった向こう、か。ん? そこんとこ、扉が外れて倒れかかって、狭くなってるから、気をつけろ、よ……、って言った端から」


「やだ! なんで抜けないのぉ! お尻」


「あー、押してやろうか、どら」


「ぃ、要りません。そんなに大きくありませんから!」


「現に、挟まってるんだが……」


 アスタリのお尻を押すかどうか、源大朗が迷っているうちに、


「あっ、キア!」


「んん?」


「マレーヤも! 無事だったんですね、良かった!」


「お、抜けた」


 廊下の向こうにふたりを見つけたアスタリ、駆け出す。


「アスタリ! なんでここがわかったのよー! でもうれしい! あははっ!」


「ぅ」


 キアも巻き込まれて抱きつかれる。


 そして、


「ぐぅぅ」


 マレーヤの足元にわだかまる、黒い影。


「えっ!! これ、な、なんですか!?」


「クロだよ!」


「でも、これ……、まさか」


 思わず後ずさりするアスタリの代わりに、身を乗り出した源大朗。


「子ども、か……。こりゃあ、オレにもわからねえな。何族の亜人だ」


「らぁぁぁ」


 その子ども、クロが両手を差し出す。その手も、顔も、すすけたように真っ黒だった。


 背丈は、長い尻尾まで入れて一メートルほどだろうか。全体に、黒くて長い毛に覆われて、まるで黒いモップといったふう。


 人間と明らかに違うのは、肌がウロコのようにひび割れていること。目も真黒で白目がない。それにふたつの目がずいぶんと離れて大きかった。


「この子、ここに住んでる……んですか?」


「違うよ。学校からの帰り道歩いてたら、拾ったの」


「拾ったぁ?」


「うん。なんか、ここの隣の公園で子どもたちが騒いでるから覗いたら、クロがいて、棒で突かれたり、石投げられたりして、いじめられてたんだ」


「それは、かわいそうです」


「このなりだからな。子どもにしたら、お化けみたいなもんかもな」


「あとでわかったんだけど、クロ、公園にいるバッタやカエル食べたり、人のお昼のお弁当取ったりとかして、それで。真っ黒だしボロボロで汚いし、マレーヤもびっくりしたんだけど、いじめるのはダメ! って、クロのこと、助けたんだけど」


 いじめる子どもたちを追い払ったものの、そのままにしておけばまた同じことになるのは目に見えている。そのうえ、


「通報されたら、もっと」


「不法入国の亜人専門の、特殊衛生局につかまったら……」


「こういう正体不明の新種は徹底的に調べられて、よくても一生施設に閉じ込められて、ってヤツだな」


「ね! でしょ! だからマレーヤが飼ってあげなくちゃって! でもクロ、こんなだし、いきなり連れて帰ってもみんなに怖がられたり嫌がられたりして、そしたらクロがかわいそうだし」


「うぐぁ」


 クロが鳴いた。遠目では中型犬か、あるいは猿? というふうだが、やはり近寄って見ると、


「アウト、だな」


「でも、ずっとここに置いておくわけにはいきませんよね」


「どうして? ここなら誰も入って来ないし、マレーヤがご飯もあげるし、面倒見るから、それで良くない? ね!? なんかこの建物、外から入れる地下室みたいなのがあって、最初そこにいたみたいで」


「なんで誰も来ないって思うんだ。現にオレたちが入って来てるだろ」


「それは……、マレーヤのこと、跡をつけてきたから、でしょ!」


「だいたいマレーヤがここを見つけて入って来れるんだから、子どもや変な人なんかがいつ入って来てもおかしくないですよ」


「さっきもタバコの吸い殻落ちてた。そんなに古くない」


 キアも言う。


 ホームレスなどが出入りしているのかもしれない。


 むしろいままで見つからなかったほうが幸いだったのかも。


「じゃあ、どうしたらいいのさー。クロを警察とかに渡すのはぜったいダメだよ! 変な実験とかされて、クロ、死んじゃう!」


 もう涙目になっているマレーヤ。


「困ったな」


「けどほんと、ここに置いておくのは」


「わかった! じゃあひとまず、マレーヤたちが住んでる「ふじ」に連れて行くよ。もうアスタリにもバレちゃったし」


「お時婆さんはどうする。あの婆あ、鼻が利くぞ。すぐ嗅ぎつけて来るぞ」


「それは……、なによ、みんな黙っていれば、わかんないってば」


「そうじゃないんだな。こういうのはバレるもんさ」


「じゃあどうするのよ。クロのこと、どこかにやるのはぜったいぜったいイヤだからね!」


 マレーヤ、しゃがみこむとクロを抱きしめる。


「ぐぅぅうう」


「……しかたねえな」


週末は1日2回更新です。夜にも更新!

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