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TOKYO異世界不動産 3軒め  作者: すずきあきら
第一章 デュラハンにできること
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5

なにやら怪しい空き家ビジネスが……

 数分後。


「……文京区、千代田区の、空き家物件、か」


 リストアップされた物件をタブレットの画面でスクロールさせ、あるいはプリントをテーブルに並べて見入る四人。


 しかし、


「そんなに安くない、っていうか」


「高い、な」


「そもそも一戸建てや、マンションにしてもファミリーが住めるような広い物件が多いですものね」


「賃貸でなくて、分譲になっちゃうのも、多い」


「九万八千、八万六千、十二万……、この広さにしては安いんでしょうけれど」


「この物件なんて、建物百二十、土地百九十平米もある」


 残念ながらハンナの条件はまず安さであって、広さではない。


 こうなるとただの中古賃貸戸建てで、リフォーム代分、よけいに高くなってしまっているのだ。


「やっぱりダメ」


「ですね」


 あきらめムードが流れる中、源大朗、


「いや、まだあるぞ。ていうか、こっちのほうが本命でな。家賃を払うどころか、バイト代がもらえるってな」


「そんな物件があるんですか。でも」


「それって源大朗さん、まさか」


「……」


 キアがジロッ、と目線を強める。というよりほとんどにらんでいる。それ以上ダメ、と目線で釘を刺しているようだ。


 それに気づいているのか、源大朗、


「心理的瑕疵物件、つまり殺人とか変死とかがあった部屋は、いっさいの痕跡がないくらい完璧にクリーニングやリフォームしても、事件・事故の事実を説明事項で次の借主に伝えなくちゃならない。けど、次の次の借主なら、もう説明義務はない。てんで、説明事項を消すために、わざと一か月なり住むバイトってのがある」


「えー! ダメですぜったい! わたし、すっごい怖がりで、夜中に暗いトイレへ行くのもダメで、寝るときも灯りは点けたままなんです。どんなにきれいでも、お金がもらえても、そんな部屋は」


「だな。あとは……、占有物件か。簡単に言うと、借金のカタに物件を押さえた者の代わりに、金を返してもらうまで物件に居座るんだ。通いじゃダメで、そこに住んでるっていう「実績」を作るんだな。借主が金を返せば物件から立ち退いて終わり、だが、そうでない場合は代物弁済、つまり借金のかわりに物件をあげるよ、で双方納得することも、ある。ないときもある……」


 一気にしゃべると、そのディープな世界観に、テーブルの上にはなんとも言えない空気が漂った。


「……なんだか、たいへんな世界、ですね」


「そんな物件、源大朗、持ってるの」


「んや、オレの持ち物件にはないけどな。オレも不動産屋のはしくれだ。そういう情報はつねに入って来てな」


「じゃあ、その占有物件にハンナさんが住むんですか。でも」


「こういうのってのは、つねに部屋に人がいないとならない。基本、一分たりと留守にはできないんだ」


「けど、お買い物とかはどうしてもありますよね。食べるものがないと。あと、ゴミ出しとか」


「だから、ふたりひと組でやるんだ。つねに誰かひとりは部屋にいる。その点ハンナなら、頭を部屋に置いても、身体で買い物できるだろ。バイト代ふたり分ゲットだぞ」


「けど、十メートル以内っていう範囲は」


「知ってる占有物件に、すぐ下がコンビニってのがあってな。そこなら……、うぁちっ!」


 途中までしかしゃべれなかったのは、キアのパンチが源大朗の顎をとらえたからだ。


「真面目に、やって。だいたい、身体だけ外へ出ても、見れない」


「ぅ、おう。そこはマネキンのダミーヘッドにカメラ仕込んで……、まぁいい」


 無精ひげをなでながら源大朗が顎を押さえ、またさっきとは違った微妙な空気が流れる店内。


 と、そこへ、


「はろー! おっさん、元気ー!?」


 突然、店の表戸が開いたと思ったら、もう店内にかまわず入って来るのは、


「マレーヤさん、それにアスタリさんも」


「こ、こんにちは。騒がしくて、すいません」


 ラウネアの言うとおり、制服姿のマレーヤとアスタリだ。


 ふたりとも、夷やの向かいの喫茶店の住み込み店員で、スピンクス族のふたごなのだ。もっとも、どちらが姉で妹、という決まりはなく、その日の気分で決まるらしい。


「うわ、来た!」


「うわ、とはなによぉ。こんな辛気臭い店にかわいい女子高生メイドがふたりも来てやったんだぞぉ。よろこべ、おっさん!」


「なにが辛気臭い店だ。他人の店を何だと思ってやがる。まったく営業の妨害ばかりしやがって。今日は喫茶店も休業みたいだし、静かでいいと思ってたところがこれだ」


「えー、おっさんも、そろそろ来る頃かなぁ、って、さびしかったんでしょ。素直じゃないなぁ。あ、ラウネアさん、お茶、ありがとー! やさしー! 今日も超きれい!」


「うるせえ、てか、おっさん言うの、やめろ!」


「えー、だっておっさんはおっさんじゃーん。まぁ、この店はおっさん臭いおっさんのほかに」


「おい!」


「かわいいキアと、きれいなラウネアさんがいるからまぁ許されてるんでー、……あれ? おっさんと、キアとラウネアさんと、もうひとりいる? 誰? てか、え、えっ、えええっ!?」


 ここでようやく、キャビネットの影になっていたハンナを見つけたマレーヤ。その姿に驚きの声を上げる。


 無理もない。店の中ではハンナ、ダミーヘッドを外し、頭を身体の傍らに置いていたからだ。


「あ、あの、どうも、こんにちは……」


 ハンナがおずおずとあいさつする。


「お客さんに、失礼、マレーヤ」


 キアも注意する中、


「うわっ、ごめんなさい! でも、あれだよね、えっと、ほらっ! 首無し族の」


「デュラハンの方、ですね。申し訳ありません、姉がうるさくて、失礼で」


 とはアスタリ。どうやら今日はマレーヤが姉、アスタリが妹のようだ。


「いえ、いいんです。よく言われますから」


 首を振って微笑むハンナ。


「マレーヤたちだって、スピンクスなんだよー! 知ってる? スピンクス。あのねー、朝に四本足、昼に二本……」


「こら! こんなところでクイズやるんじゃねえ。接客中だ。ほら、おまえらもう帰った帰った!」


 源大朗、マレーヤの背中を押して追い出そうとする。


「なによー、さわんないでよー! おっさんのエッチ、スケベ!」


「だーれが好きでさわるかって。おまえのガリガリな身体なんかよ!」


「はぁ!? これでもCカップあるんですけどぉ!」


「んなこた聞いてねえ! つかCカップごとき、ただの子どもだろ」


「子ども……」


 なぜか自分の胸を見下ろすキア。


「まぁ」


 同じくラウネア。


「ねえねえ、彼女! ハンナ……、ぁ、ハンナさん」


「あ、ハンナ、でいいです」


「ありがと! ハンナのさぁ、部屋探し、やっぱり大変なの? 見つかんない、決まんないの?」


 マレーヤ、胸の話はハンナへの興味で急にどこかへ雲散したらしい。


「はい。いろいろ探していただいたんですが。この首、というか頭、ですし」


「おまえは首突っ込むな、マレーヤ。ん、首? ……まぁいいか、つまりはな」


 煮詰まった空気を変えようとしてか、源大朗、これまでの概要を話す。電車など、混んだ場所が苦手ということも。


「あー、電車、混んでるもんね、東京ってだいたいいつも!」


「わたしにも、なにか取り柄があると良かったんですけど、ね」


 笑って見せるハンナに、


「あるよぉ。頭と身体が離れてて、別々に動かせる? ってすっごいじゃん! おっさんもキアもさっきから、安い物件ばっか探して、ないとか落ち込んでたけどさぁ、その分バイトすればいいってことじゃん。月に十万、二十万とか無理ゲーじゃなくて、二万とか三万くらいなんでしょ?」


 マレーヤの言い分は乱暴だが、説得力はある。キアの表情が変わった。さっそくタブレットでなにかを検索し始める。


「でも、機能? としては使えることがあるかもしれないんですけど、人前だととにかくまず怖がられちゃうっていうのが……」


「あっ! いいこと思いついた! それだよ、それ! いいのがあるじゃん!」


「なんだよ、また与太ならよせよ。ハンナが地味に傷つくかもしれん」


「地味に……」


「違うよ! ほら、幽霊屋敷! ゴーストマンション、だっけ! 毎年夏にやってるじゃん! 公楽園遊園地でさ!」


 ここまで来て、マレーヤの思いつきが全員の腹にストンと落ちた。そして全員が、


「首無し怪人の役……」


「いいかも、ですね! ぁ、ハンナさんがよければ、ですが」


「公楽園だったら、水道橋で、市ケ谷の隣ですよね。そこからだったら、どっちにも近い物件が、あるんじゃないですか!?」


「そうか、その手があったか」


 キア、ラウネア、アスタリ、それに源大朗までが乗り気になる。しかし、


「で、で、でも! いきなり幽霊屋敷のアトラクションとか、ちょっとハードル高すぎですよぉ。わたし、そういうのやったことないですし」


「お化け役のバイトはふつう、やったこと、ない」


「接客のアルバイトだって、やったことないんですよ。それが急には……」


 ハンナの固辞で、ひとまずは保留に。


「そっかー。いいと思ったんだけどなー」


「接客、なのかな、あれも」


「すいません。せっかく考えてくださったのに、わたしが……」


「そうですね、誰でも向き不向きがありますものね」


「いいっていいって! でも考えておいたほうがいいよ。案外やってみたらいける、とかもあるし!」


「接客といえば……、うちの喫茶店で働くのは!?」


 ここでアスタリ。


「喫茶店の、ウェイトレスさん、ですか?」


「店に出たくなければ厨房もありますし」


「それなら……」


「やめとけやめとけ。いまもこんなふうにウェイトレスふたりがうちで油売ってるくらいだぞ。んな店にお時婆さんが、人を増やすか? おまえらだって、住み込みだからいいけどな。ん? 住み込み……、いやいや、んー」


「です、ねぇ」


 さすがに身内のコネクションで回すのはいろいろ無理がありそうで、アスタリもそれ以上推しては来ない。


「そうだ!」


「またおまえか」


「なによ、さっきは良かったじゃん! 電車に乗れないなら、車だったらどうなの?」


 またしてもマレーヤの発想に、


「車、ねえ」


「頭をヘッドレストに固定しておけば、身体が運転できる、か」


「……中古なら、十五万円くらいからある、けど」


「む、む、む、無理です無理です! 車なんか買えないし、運転免許だって、持っていませんから」


「だよなあ」


 一瞬上がり、そしてまた下がる店内の空気。


「ぁ、あの、ほんとにもう、いいですから。いや、えと、すごくよくしていただいて、いろいろ考えていただいて、わたしひとりだったらぜったい思いつかないことまで、すごく、感謝してます。けど、とりあえずはまだいまのふたり部屋にいられるし、だから、ほんとにありがとう、ございました。あの、じゃあ……!」


 ハンナが自分の頭を抱えて立ち上がる。ダミーヘッドを入れたカバンを肩に、店を出ようとした、ときだ。


明日も更新予定です

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