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⑨カラオケ店で
友達三人と友達のお母さん二人で、カラオケボックスに行った。
僕はカラオケが、ほぼ初めてに近かった。
ジュースが何度もおかわりできるなんてすごいなと思った。
みんなには当たり前かもしれないけど、僕にはすごく新鮮だった。
ジュースがなくなったので、迷路のような通路を通り、ドリンクバーに向かった。
ドリンクバーでコーラを入れて部屋に戻ろうとすると、扉が開いた通り道の部屋から、美声が聞こえてきた。
ひっそりと覗いてみると、そこにはあの家政婦さんがいた。
目を瞑り、左手を天に掲げて、前のめりになりながら魂を込めて熱唱していた。
暫く見ていると歌が終わり、その後、100点という数字が画面に表示された。
そこで、ようやく少し前に起きた出来事を思い出した。
ビルの隙間で歌っている家政婦さんを見かけて、圧倒されたあの日のことを。
他のヤバイものに圧されて、すっかり忘れかけていた。
家政婦さんのことはすごいと思う。
だが、何でも出来る人なのに、尊敬することが出来ないのはなぜだろうか。