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⑤ビルの隙間で
この辺りにしては、ビルがたくさんあるような栄えた地域にやって来た。
ここには僕が大好きな、絶品のたい焼き屋さんがある。
栄えた地域といっても、隠れた場所にあり、あまり有名というわけではなかった。
たい焼き屋さんまでの狭い道を、期待に胸を膨らませながら歩いていると、どこからか美しい歌声が聞こえてきた。
歌声が聞こえてくる方向に進んでいくと、ビルとビルの僅かな隙間に誰かがいることが分かった。
遠くの方からひっそりと覗くと、そこには僕の家の家政婦さんがいた。
歌はプロレベルで、歌声が綺麗にビルの隙間で反響していた。
家政婦さんの喋り声も大して聞いたことがなかったし、歌は全く聞いたことがなかったから、こんなに上手いなんて知らなかった。
ビルとビルの隙間でよく響く、というプラス面を抜きにしても、凄いとしか言いようがない、まさに女神の歌声だった。
もっとヤバい部類の特技が、家政婦さんに無いことを祈ることしか出来なかった。