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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第四部 開拓、陰謀、ドラゴン!

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93話 祭礼の山車

 ダークドワーフの集落に到着すると、そこは大忙しのようだった。

 見たことがない金属の棒を組み合わせて、大きな車が作られている。

 車には暴れる牙の骨だとか、ドワーフたちの雑多な発明品や、美しい色をした苔が飾られている。


「これは山車(だし)か」


 祭りなどがある時に使われる、飾りを付けた車である。

 なるほど、どうやらこれは、クロクロとクークー嬢の結婚に用いられるようだ。


「おう、そうじゃ! なかなかのもんじゃろう。これから、あやつらが結婚するでな」


「オブ、君の話では、まだ求婚に行く過程だったように思うが」


「……そうじゃったかのー」


 オブがしらばっくれた。

 すると、集落からダークドワーフたちが、どやどやとやって来る。

 彼らは一斉に、ドワーフ語でオブをどやし始める。

 うーむ、私はまだ、ドワーフ語を覚えていないのだが。


「先輩、わたしがちょっとだけ分かるので通訳しますね。えっと」


 ナオがやって来て、耳を澄ませる。


「どうやらオブさん、クロクロさんたちとドワーフさんたちが、みんなで相談したり仕事してる時に、地上に遊びに行っちゃったみたいですね。それで、オブさんがお酒を飲んでいる間に、レイアスの方でお話は全部まとまったって言ってます」


「なるほど、そうだったのか」


「あー、これは怒る。みんな怒るわ」


「そうですわねえ……。せめてお手伝いはしませんと」


 アマーリアとアスタキシアがため息をつく。


「ああ、だが待て、待ちたまえ。つまりドワーフ諸君がリザードマンの婚礼のための山車を作っているということは、双方の関係は改善されたと見ても?」


 私はハッとした。

 思わず、手近なダークドワーフに話しかけて確認をする。

 彼はびっくりして、こくこくと頷く。

 ちなみに互いに言葉は通じていない。

 だが、ドワーフ語のリザードマンと、彼らを示す言葉くらいは覚えている。

 この二つが使えれば充分である。


「そうか! めでたいことだ。これからドワーフとリザードマンは交流を行い、地底世界における社会も大きく変わっていくことだろう! 素晴らしい!」


 私が快哉を上げると、ドワーフたちは一斉に振り返った。

 そして、口々に私の名を呼び、真似してわあーっと騒ぎ始めた。

 元来、お祭りが好きな人々なのである。

 この十年間、彼らは地底に出現した根と、仲違いしたリザードマンとの関係によって抑圧されていた。

 そこから解放されたということは、どれだけの喜びであろうか。


「先輩がまた、言葉が通じないのに当たり前みたいな顔してダークドワーフさんたちの中に入り込んでます!!」


「あいつならやるだろう。何も驚くことじゃない。ジーンには偏見というものが無いからな」


「おや、トーガくん、随分ジーン殿のことを知っているのですなあ。僕は年のせいか、人のイメージを変えることがなかなか難しくてですね」


 トーガとウニス殿が会話している。

 珍しい組み合わせだ。

 外見は開拓地の賢者で一番若いウニス殿が年の話をしたために、ガーシュインが微妙な顔をしている。

 ちなみに彼はハーフエルフだから若くみえるだけで、年齢は六十歳を超えている。

 私が三十で、トラボー殿が四十代後半だから、最年長なのである。


 さて、そのようなわけで、我々は地底の結婚式に参加させてもらうことになった。

 ナオが建築学とゴーレムを使い、山車の作成を手伝う。


「これ、下は車ですけど、上の方は建物の作り方ですね。師匠が見たら喜んだかもですねえ」


「山車は結婚式の後も、しばらく飾られるそうだ。後々、トラボー殿を連れてきて見に来るといい」


「そうですね! 師匠、なんか新しい仕事を見つけたみたいで、今はかかりきりなんですよねえ。先輩の助けになることだぞって言って」


「ほう、なんだろうか」


 あの御仁が考えつくことは、時折想像できないものになる。

 そもそも、優秀な賢者は独自の考えを持って生きているので、誰もその頭の中を理解できない、とは言われているのである。

 セントロー王国は学術が盛んだが、学術の先駆者たる賢者が極めてトリッキーな思考の人物ばかりなので、なかなか学問が広がらないまま千年が経過しているのだ。


 ナオと我々の手伝いもあり、山車は早々に完成した。

 そこへ、川向こうからリザードマンの一行がやってくる。

 先頭は、真っ赤な鱗の巨体。

 クロクロである。


「おお、ジーン! 久しいナ」


「君が結婚すると聞いてね。クークー嬢とかね。良かったな」


 歩み寄って彼の肩を叩くと、クロクロは目を細めてしゅるしゅると舌を出し入れする。

 これは照れているのだ。

 

「お前も呼ぼうかと思ったガ、ゼフィロシアは遠イ。どうしたものかと思っている内に式の日になってしまっタ。だが、やって来てくれて嬉しいゾ」


「めぐり合わせのようなものかも知れないな。私も、友のめでたい日を祝えることが嬉しいよ」


 我々は笑いあい、再会を喜んだ。

 そしていよいよ、山車を引いて出発である。

 家畜化した、苔喰らいという巨大カエルのような生物が、山車を引っ張っていく。


 途中、暴れる牙と遭遇した。

 直立した巨大な肉食トカゲといった外見のこの猛獣は、ドラゴンの血を引く生物で、亜竜と呼ばれる。

 知能が低く、食欲旺盛で何にでも食らいつくのだが……。


「ナオ、ポーションシューターを出してくれ」


「はい、先輩!」


 まだ距離は離れているが、こちらを認識したらしい暴れる牙に、シューターを向ける。


「ジーン、それは大きな物を飛ばす弩だろう。この距離では届かないぞ」


「分かっているさトーガ。だが、今回は届かせる必要はない。希望を言うなら、こちらから向こうに向かって風を吹かせてもらえると嬉しい」


「俺たちのにおいをわざわざくれてやるのか? 理解できん男だ」


 そう言いながらも、トーガは精霊魔法で風を吹かせる。

 隣でシーアも同じようにして、それなりの勢いの風が吹いた。


 これに合わせて、私はポーションシューターを撃つ。

 放たれた陶器の小瓶は風に乗り、暴れる牙の目の前まで行って、落下し割れた。

 そこから漏れるのは、アロマの香りである。


 暴れる牙の悲鳴が聞こえた。


「なるほど、お前、またにおいを使ったな! だが、直接振りかけないとは、優しくなったものだ」


「暴れる牙もまた、この地底世界を構成する重要な生物だからね。彼らも、ドワーフやリザードマンに近づけば、強いにおいで撃退されると学習すれば、襲ってこなくなるかも知れないぞ」


「そんなものか」


 そうかも知れないし、そうでないかも知れない。

 だが、逃げ去っていく暴れる牙は、軽快に走り去っていく。

 飢えてはいないようだ。

 地底世界の生態系が、正常に機能しているのだろう。


 クークー嬢の集落が近づく頃に、クロクロは一旦立ち止まった。

 彼は既に、結婚のための装いをしている。

 骨の装飾品を身に纏い、顔には金属を含んだ泥で化粧を施している。

 なかなか見栄えのするいい男である。


「本当に大丈夫だろうカ」


 心配になったらしい。


「クロクロ。君はいい男だぞ。自信を持って行きたまえ。私が保証する」


「兄貴が保証してもなあ」


「準男爵に保証されてもですわねえ」


「ジーンが保証してもねー」


「先輩の保証なら完璧ですね!」


「えっ」


 後ろが騒がしい。


「俺もジーンと同じ意見だ。クロクロ、お前は自信を持て。二つの部族を繋ぐ役割は、お前にしか果たせないんだ」


 トーガが、クロクロを励ました。

 ともに、プリミティブな生活様式を持つ種族同士、通じるものがあるようだ。

 そうか、彼らにとっての結婚とは、家と家が繋がるという意味以上に、部族と部族が繋がる意味を持っているのだ。

 責任の重大さは、国と国をまたいだ王族の婚姻に匹敵するな。

 それは緊張もするだろう。


「全く、何を今更自信なさそうな顔をしとるんじゃ! いいかクロクロ! わしは全くモテんが、自信いっぱいに生きておる! お主はモテモテじゃろうが! 自信を持て!」


「オブから説得力を感じるぞ」


「感じなくていいわい! ジーン! そんな目でわしを見るな!」


 我々のやり取りを見て、クロクロが目を細めた。

 笑ったようだ。


「そうだナ。クロクロらしくもなく、弱気になっタ。クロクロは胸を張って、クークーを迎えに行ク」


 それでこそ、リザードマンの代表、クロクロである。

 この先で行われる、クロクロとクークー嬢の結婚式が楽しみだ。

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