91話 いかにして地竜と接触するか?
地竜探索のために、スペシャルチームが結成された。
私、エルフ学の権威である賢者ウニス、遺失魔法の継承者ガーシュインの三名である。
「やあガーシュイン殿、差し向かってのやり取りは初ですな。実は色々聞いておきたいことがありましてね。そう言えば王都でご活躍だったようですね。謁見の間での大立ち回りに空からの市街地爆撃。いやはや、しばし王都はあなたの武勇伝でもちきりでしたよ」
「ジーン、こいつは我輩に皮肉を言っているのか? シャドウストーカーをけしかけていいか?」
「抑えたまえガーシュイン殿。ウニス殿は素だ。こういう人なんだ」
ガーシュインは、賢者には変人しかいない、とかぶつぶつ言いながら静かになった。
ウニス殿はニコニコしている。そこに一片の皮肉もありはしない。
「さて、諸君を呼び集めたのは、地竜に関する真実を突き止めるためだ。諸君は、地の底に住まうという、かの竜に関する知識を持ってはいないだろうか? 持っていそうだから集めたのだ」
「ああ、エルフ学を修めていると、ドラゴンとの関わりは切っても切れないですね。かつて、エルフは精霊の世界から来たと言われている。彼らの間では、遠い昔の伝承みたいになっていますがね。曰く、エルフは風の精霊が受肉した種族。故に、エルフを治めるのは風のドラゴン、風竜。その姿は、伝承によれば遠い都の上空で、五千年前に見かけられたとか。ま、その時には他の四種のドラゴンも揃っていたそうですから、お祭りか何かだったんでしょうかね」
「ほう、興味深い話だ。私はその話、一度も聞いたことが無かったのだが」
「それはそうですよ。だってこれ、エルフそのものの話じゃないんですから。講義でこの話をすると、寄り道になってしまう。これは大変まずい。我々賢者はスポンサーからの依頼があり講義を行います。その時、エルフに関する話を期待されているのに、ドラゴンの話をする者はいませんよ」
「なるほど、道理だ」
「お主ら、何を言ってるの」
おっと、ガーシュインが置いてけぼりになってしまった。
「では、地竜そのものに対する記録などは?」
ウニス殿は少し考えた後、ぽんと手を叩いた。
「ああ、地竜は美しい、エメラルドグリーンの鱗をしているということだった。魔族は本来、地竜に従う種族であったそうですよ。つまりジーン、君のルーツは地竜にあると言うことです」
「ほう、そうだったのか……!」
「我輩もいいか?」
ガーシュインが挙手した。
勝手に発言してもいいのだが、律儀な御仁である。
「我輩が行使する遺失魔法、恐らくはエルフや他の種族が遺失した精霊魔法と呼ばれるものも混ざっておってな。属性が分かれておるのだ。地竜と言うからには、地属性の魔法か何かをまとめて持ってきた方がよいか?」
「おお、ありがたい!」
「やりますなあガーシュイン殿! 僕も遺失魔法とやらに興味がありますよ!」
大いに盛り上がる我ら。
「そこ! ちょっと静かにして下さい!! 今仕事中なんで! っていうかジーンさんが少しはやってくれれば」
「諸君、場所を移動しよう」
カレラに怒られたので、我々スペシャルチームは場所を移動することにした。
今度、彼女には何か報酬になるものを用意しておこう。
「どこに行くのか」
さっきからずっといたらしいトーガが、横をついてくる。
彼は理解できない話には加わって来ず、出番が来るまでじっくりと待つだけの度量がある。
「ガーシュイン殿の研究室にな」
「よし、俺も行こう」
ぞろぞろ四人で動き出す我々なのだった。
「おう、旦那、戻ってきたんだな。兄貴とエルフと賢者さんも一緒なのか。ちょっと待ってろ、茶を入れてやる」
アマーリアが奥の方で火を起こす。
見慣れない道具で。
「……ガーシュイン殿、あれは?」
「我輩が作った、火起こし器だ。森からほんの僅かに魔力を拝借してな。火に変換する」
「そんな素晴らしいものがあると我々は知らなかったのだが」
「必要があったのか? あるなら言ってくれれば教えたのだが」
「ごめんな、旦那こういう風なの分からなくて空気とか読めないから」
「いや、空気が読めないのは我々賢者も同じだよ」
「そうそう。僕らは仲間だね」
明るい笑い声が研究室に広がる。
かくして、アマーリアの淹れたお茶が我々に差し出された。
お茶……。
お茶?
「正しくはさ、色の出る葉っぱを煎じて飲ませるやつ。旦那が身を以って実験してたけど、気持ちが落ち着く効果があるっぽいってさ」
「むおっ、渋い」
「うおっ、苦い」
「クスリヨモギの葉か。湯で煎じるというのは俺も初めてだな。俺たちはこいつを、刻んで粥に混ぜて食う」
ワイルドエルフには一般的な食べ物だったか。
これを、ガーシュインが再発見したわけだな。
「して、ジーン。こいつが我輩のまとめた魔導書だ。地属性はここからこのページだが、それを抜粋すればよいか?」
「ありがたい。だが君にそこまでの苦労を押し付けて良いものかな?」
「なに、我輩は研究者ではない。あるものを保存し、技術が失われないようにするだけの存在だ。書き留めただけの知識を書き写し、自ら再現してみるのも悪くはない。これは我輩の実利にも適っているのだ」
「最近旦那、なんか外側からのストレスがなくなって、ずっと放心状態だったからなあ。良かったじゃん、これで生きがいができたねえ」
「うむ」
これで、地竜と接触するための手段は確保できそうだ。
地属性の精霊魔法や遺失魔法があるならば、その中には恐らく、地竜に関わるものも存在してるだろう。
それからもう一つ。
私が思いついたことがある。
「ウニス殿。私は以前、地底世界レイアスに赴いたことがあるのだが……そこに、君に聞いた地竜の特徴と、大変似た鱗の色を持つリザードマンの女性がいてね」
「へえ、それは……」
「クークーさんですね!!」
いきなり、ナオが研究室に飛び込んできた。
その後に、雪崩を打つようにシーアとアスタキシアが倒れ込む。
盗み聞きをしていたのか。
「ということは先輩、またレイアスに行かなくちゃですよ! きっと関係があります!」
むふーっと鼻息を荒くするナオ。
「だが、ナオ。まだ、私の思いつきに過ぎないのだが?」
「今までだって、たくさん偶然の出会いがあったじゃないですか。でも、それって色々あってみんな繋がってました。今度だってそうです。無駄なんか世の中にないんですよ!」
「至言だ」
私は大変に感心した。
ナオは時々、鋭いことを言う。
この成長著しい後輩は、あっという間に私を追い越してしまうかもしれないな。
「ジーン殿。地竜によく似た特徴を持つリザードマン。僕も興味があります。行きましょう、地底世界に」
「よし、行き先はレイアスだ」
そういうことになったのだった。




