90話 地竜の存在証明
しばらくすると揺れは収まった。
周囲には、地面が隆起した箇所があちらこちらにある。
この辺りは、さる理由により地面が不安定になっているため、女子たちには隆起に近寄らぬよう言い聞かせた。
「私とビートルが、この辺りの地面をふわふわにしてあるのだ。下手に近づくと首まで土に埋まるぞ」
「なんでそんな罠みたいなのを仕掛けてますの!?」
「そうだそうだ。あたしら、そんなところでずっと仕事してたのか……!?」
戦神の騒ぎを知らない、新規の二人から物言いが上がった。
言い分は全くその通りである。
「あれはその時の気分でやってしまった。後々使えるかと思って放置していたのだ。済まない」
私が謝ると、アスタキシアとアマーリアが、むむむ、と唸った。
「ほらー。だから精霊魔法を使いまくったらいけないのよ。ま、使われた後の土地は、ノームの動きが違ってるからすぐに分かるんだけど」
「あ、わたしもメガネを通したら分かります。ここの土、痩せているけど魔力は通ってるんですよね。でも、開拓地の土とは全然違う感じで」
安全のため、シーアに監督してもらっていたのだ。
そろそろ、このふわふわになった地質も埋め戻すべきか。
ワイルドエルフに先導されつつ、我々は隆起した地面のもとに向かった。
「ふむ、これは」
地面に触れてみて、私は鼻息を荒くする。
明らかに、周囲の地質と違う。
つまり、本来であれば地の底にあるはずの土が、さきほどの揺れによって地表へむき出しになってしまったのだ。
「今のは、地表の土と地底の土を混ぜる目的があったのかもしれない」
「そうなんですか?」
「ああ。もしかすると、神土をひっくり返して、もとの地面に戻そうとしたのではないか」
あくまで推測に過ぎないが、この地の底に地竜がおり、彼、あるいは彼女は地の魔力を吸っているとする。そして、地竜は神土の魔力に影響を及ぼせないとすると、この揺れにも説明がつくのではないだろうか。
「でも兄貴、神土が乗っかってる地面はそのままだよ?」
「そう、そこだよアマーリア」
「お、おう」
私が興奮して詰め寄ったので、シャドウ族の彼女はちょっと引いてしまった。
「我々には、自然現象としての地震のように感じられた、今の揺れ。だが、神土がある地面は無事なままなのだ。これはつまり……」
「あの揺れは、魔法的なものだったのだと推測できるわけですね、先輩!」
「その通り! 局所的に、荒れ地に揺れを起こして土をひっくり返す魔法。これを行使してメリットを享受できる者は誰か。それを考えれば、地震の犯人はおのずとたった一人、いや一匹に収束するのではないかね? つまり、すなわち、地竜がこの地の底に、実存していると言えるのだよ!」
「やったー!」
「やったぞ!」
私とナオ、大喜びでハイタッチする。
ちなみに、アマーリアとアスタキシアはぽかんとしている。
シーアは生暖かい目で我々を見ている……と思いきや、彼女も笑顔だった。
「アマーリア、アスタキシア。ここからがジーンの本番よ?」
「本番?」
「どういうことですの?」
「私たちワイルドエルフは、悪魔マルコシアスと敵対してたの。と言っても、私たちの力ではマルコシアスに勝てなかった。すっかり弱気になってたところに現れたのが、ジーンとナオってわけ。ちょうど今みたいに、妙にテンション高くてね。それで、見事にマルコシアスの件を調べて、分析して、解決してみせた。だから、今のジーンは信頼していいよ」
よく理解してもらえているようで、ありがたい。
私は周囲の地質を確認して回り、ついでにふわふわ地面をシーアに頼んで埋戻ししてもらい、地形を手乗り図書館に記録した。
これを持ち帰り、分析するのである。
マルコシアスと相対したときとは違い、今は帰ることができる拠点がある。
これは素晴らしいことだ。
腰を据えてじっくり研究できるのだから。
「やあ、お帰りなさいビブリオス卿」
「ビブリオス卿、その、サッカイサモン公爵家の令嬢を農作業に連れ出すのはいかがなものかと……」
戻ってくると、出迎えは騎士イールスと、ヒラメっぽい騎士フラウンダーの二人である。
イールスは国王直属。
フラウンダーはサッカイサモン公爵に仕える騎士で、アスタキシアのお守りを担当している。
「あらフラウンダー、心配はいらなくってよ。わたくし、毎日が楽しいですわ。それに日焼けしすぎないように、ちゃんと長袖に手袋をつけて、フードも被ってますわ!」
「そんなに泥だらけになって、手にまめを作っている公爵令嬢がどこにいるんですか!? ああー、公爵にどやされる」
フラウンダーが頭を抱えている。
だが、基本的に彼は善人なのだろう。
アスタキシア嬢が喜んで農作業をしているのを、止めるつもりは無いようなのだから。
「怪我だけはなさらないようにしてくださいね。余計な争いの種になりますから」
「ええ。重々承知していますわ」
「ですです。わたしたち、変な怪我とかしないように注意してますから大丈夫です!」
ナオがアスタキシアをフォローした。
開拓地では、未知の病気が存在するかも知れない。
そのために、怪我などはしないに越したことはないし、食事や睡眠もなるべくしっかり取り、休息もして、常に万全の体調を保つことが重要なのである。
故に、我が開拓地での業務は一日六時間までと定められている。
ちなみに私の研究時間は、最大で一日十八時間。研究は別腹なのだと思っていたが、最近ナオに叱られたので短縮されつつある。
さて、それでは分析と行こう。
マルコシアスの時と違うのは、私自らが危険に身を晒しながら、真実を追求する必要がないことだ。
私以外の賢者も、開拓地には滞在している。
「アマーリア。ガーシュイン殿を呼んできてもらえるかな? 彼ならば古い文献や言い伝えに詳しいだろう。ナオ、ウニス殿を呼んできてくれ。シーア、トーガはこの辺りにいるかね?」
必要そうな人員を集めてもらう。
トーガについては、名前を口にした瞬間、
「ここにいるぞ」
と私の真横に出現したのでたいへん驚いた。
こうして姿を消し、私を護衛したりしているようだ。
「また妙なことを始めたようだな、ジーン。だが、やりたいことがあるならば存分にやれ。俺が手を貸してやる」
「兄さんはジーンのことお気に入りだもんね」
「違う」
「あの男はエルフではないが見どころがあるって言ってるもんね」
「言ってないぞやめるんだシーア」
「それから……」
「シーアっ!」
「きゃー!」
兄妹の追いかけっこが始まってしまった。
これが落ち着く頃には、呼んだ二人もやってくることだろう。
私はその間に、手乗り図書館の資料を整理しておくことにするのだった。




