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追放賢者ジーンの、知識チート開拓記  作者: あけちともあき
第四部 開拓、陰謀、ドラゴン!
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82話 押しかけ賢者と押しかけ嫁候補

第四部の始まりです。

隔日更新くらいで参ります。

 ナオがいなくなってから三日間。

 私は領主としての書類仕事をまとめ、いかにしてこれを他人に丸投げするかに頭を悩ませていた。


 書類仕事など、やるだけ研究の時間が削れてしまうのだ。

 やらないに越したことはない、というのが私の持論である。


「カレラ、どうかね」


「いや、ジーンさん。やってやれないことはないけど……なんで私なわけ?」


 私の横で、雑多な書類の仕訳を行なっていた、ハーフエルフのレンジャー、カレラ。

 彼女はいぶかしげな顔をした。


「うちのリーダーとかどう? ビートルは魔術師だから頭が切れるし。サニーは……無理だね。絶対致命的なミスをする」


 神官サニーについては私も納得する所だ。

 そして、カレラが挙げた二名については、書類仕事を任せられない理由がある。

 それは……。


「いいかね、カレラ。これはただの書類整理手伝いではない。私の秘書であり、事務官という役職なのだよ。その立場上、スピーシ大森林に住まう主たる種族、ワイルドエルフとの交渉も増えるだろう。そんな時に、担当者が人間であってはいけないのだ」


「あっ」


 カレラ、納得したようである。

 ワイルドエルフは、千年前に起こった事件以来、人間を嫌っている。

 人間にとっては伝説に語られるような昔の出来事でも、森に住まう上位のエルフは、長ければ千年生きる。

 彼らにとって千年前とは、まだ幾つも世代を重ねていない、身近な過去の出来事なのだ。


「ということで、君を秘書兼事務官に任命する次第だ」


「ええ……」


「エルフの里生まれであり、エルフの生態にもある程度詳しい君は適任だぞ。無論、ワイルドエルフは通常のエルフよりも高位の存在だ。ハイエルフとでも言うのかな。君の常識では計れぬ事もあろう。そのために、私は強力な助っ人を呼び寄せてある」


「助っ人……?」


 外から馬車の音がした。

 どうやら来たようだな。


 ナオの師匠である、建築の賢者トラボー殿は、賢者の塔から我が開拓地に移り住むことが決定していた。

 そのついでに、トラボー殿にとある賢者に声を掛けて欲しいと頼んでいたのだ。

 その賢者とは、塔におけるエルフ学の権威、ウニス殿。

 かの賢者もまたハーフエルフであり、人間側の生まれでありながら、己のルーツを探すためエルフ学を打ち立て、その深みある研究と読み応えたっぷりのレポートで各国の研究者に名を知られている。

 

「ようこそ、トラボー殿、ウニス殿!」


 私は執務室の扉を開け、二人を出迎えた。

 ──つもりである。

 だが、そこに立っていたのは、黒髪に鋭い目つきをした、豪奢なドレス姿の婦人であった。


「出迎えも無いなんて、どういうつもりかしら、ビブリオス準男爵様? このわたくしが、わざわざこんな辺境までやって来たというのに……」


 彼女は顎を上げて、私よりも頭一つ分は背が低いというのに、こちらを見下すような動作をした。


「こんな、大きいばかりの掘っ立て小屋に住んで! わたくしが住む屋敷はどこですの? さあ、用意なさい!」


「君は誰だね?」


 純粋に疑問だったので、聞いてみた。

 すると、今まで得意げだった彼女の顔が、固まった。

 そして、信じられないものを見る眼を私に向ける。


「ま……まさか、わたくしを知らない? 事前に通達が行っていたでしょう? サッカイサモン公爵の手の者が……」


「あ、何か来た記憶があるな。だが、確かあの時、私はスピーシ神土ミミズの研究で忙しくてね。些事は覚えていないのだ」


「些事!!」


 彼女が卒倒しそうな顔になった。

 私の隣に立った彼らが、気の毒そうに彼女を見る。


「だが、来客となれば話は別だ。我が素晴らしい開拓地について、説明してあげよう。いかに、この開拓地が未知の生物の宝庫であることか! 溢れんばかりの大自然! 息づく無数の生命たち! こんな宝の山、いや森を前にして、書類仕事などという雑事にかまけていられようか。いや、かまけている暇などない!!」


「私に事務官を任せるのは、それが本音か……!」


 カレラが目を細めて私を睨む。

 そんな我々の目の前で、今にも倒れそうだった彼女が「ふんぬらっ」と気合を入れて踏みとどまった。

 彼女の後ろでは、ハラハラした様子で騎士たちが見守っている。

 おや、あの騎士の紋章、サッカイサモン公爵家のものではないか。

 いや、微妙にアレンジが加わっているから、傍流のものだろう。


「なんだ、君はサッカイサモン公爵家の使者か」


「だからそれを言おうとしてましたのよ! ええい、なんてマイペースな人なのですか!! 噂以上ですわねこれ!!」


「うちの領主がすみませんね」


「あなたも苦労なさってるのね……」


 カレラと、訪ねてきた女性の間に、共感のようなものが生まれつつあるぞ。

 うむ、仲がよいということは素晴らしいことだ。


「では使者殿、しばし待っていてくれないかね? これからカレラを正式に任命し……」


「せんぱーい!」


「むむっ!!」


 耳慣れた声を聞き、私は思わずログハウスを飛び出した。


「え────っ!?」


 カレラと女性が、何か叫んでいる。

 だが、これが飛び出さずにいられようか。

 ナオの帰還なのである。

 果たして、止まっている豪華な馬車よりもさらに向こう。

 三日ぶりに見る、我が一の家臣にして後輩、ナオの姿があった。


「ナオ! 帰ってきていたのか!」


「はい! たくさんお土産を持ってきました!」


 そう言って彼女が振る紙の束は、ワイルドエルフの生態について書かれたメモであろう。

 このメモの百倍の重さの金貨にも勝る、最高のお土産である。


「素晴らしい……!! 事務仕事も、任命も後回しだ! ナオ、そのメモを見せてくれ! さっそく、資料をレポートにまとめるぞ」


 私はナオに駆け寄り、彼女の手をぎゅっと握った。

 素晴らしい日だ。

 さらに、ガタガタという、今にも壊れそうな古びた車輪の音が聞こえてくる。

 そちらに目をやると、みすぼらしい荷馬車がこちらに向かって走ってくるではないか。


「おうい、ジーン!」


「ここが、ワイルドエルフのいる開拓地……!!」


 馬車の上には、しかめ面の賢者と、細面で片メガネのハーフエルフ。

 しかめ面のトラボー殿は、彼なりの満面の笑みを浮かべ、ハーフエルフ……賢者ウニスは、興奮に目をぎらつかせている。

 素晴らしいタイミングでの到着だ。


「ようこそ、賢者の塔が誇る二人の天才よ! ちょうど今、ナオがワイルドエルフの生態を記録し、戻ってきたのです! ともにこれを読みましょうぞ!」


「うおおおおお!! 本当ですかあっ!!」


「でかしたぞ、ナオ!」


 賢者たちは、走っている荷馬車から転がり落ちるようにして降り……ようとしたのだが、実際に転がり落ち、立ち上がって泥だらけになりながらこちらへ走ってくる。

 荷馬車に乗っていた方が明らかに速かった。


 だが、そのような突っ込みは些事である。


「では、これより! ビブリオス準男爵主催の、ワイルドエルフ生態研究の会を始める!」


「うおー!!」


 私の宣言に、到着したばかりの賢者二名が咆哮して応えた。

 ナオも元気に両手を挙げ、


「やりましょー!」


 と嬉しそうだ。

 ずっと向こうで、ドレス姿の彼女ががっくりと地面に両手を突いているのが見えた。


「な……なんですのここ……!? わ、わたくしを無視!? というか意味が分からない乗りで盛り上がっていますわ!! なんですの、一体なんなんですの────っ!!」

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